奥能登国際芸術祭2023の鑑賞旅二日目、次に訪れた旧鵜飼駅。
そこで目にした、コウ・シュンミン[高浚明]さんの「秘境」という作品を紹介したい。
行き慣れた旧鵜飼駅
奥能登国際芸術祭2023、内浦側から回った二日目もこれで四箇所目。
次に向かったのは旧鵜飼駅だ。
旧鵜飼駅といえば2017でも2020+でも作品が展示されていた場所だ。
芸術祭がないときでも旧駅舎を利用してオーガニックカフェが営まれているところなので、自分自身、珠洲市に行くとよく足を運んでいる。
到着
行き慣れているので迷うこともない。
受付は左の駐輪場で行われ、作品の展示は旧駅舎内と、後方の駅の旧プラットフォームで行われている。
入ってみて後でわかったことだけど、この日、オーガニックカフェのお店の方は別のイベント出店中だったため営業していなかった。
そのお店でちょっと早いランチを済ませておこうかなと考えていたのでちょっと残念だ。
39番 コウ・シュンミン[高浚明]「秘境」
先程も記したように駐輪場に受付がある。
旧駅のホームという、ほとんど野外の作品展示ながら、鑑賞パスポートがない方は有料で見ることになる場所だ。
39番だ
コウ・シュンミン[高浚明]さんの「秘境」という作品だ。
駅舎にも、駅のホームにも作品が展示されているのでどちらから行くべきか迷うところだが、自分は駅舎の方から入っていった。
入るとすぐ青い世界
海底世界に迷い込んだようだ… 空間がそんな青色に包まれていた。
窓ガラスがことごとくそんな色のフィルムでコーティングされているようなのだ。
そして柱の中央にはモニターが設置され、そこでは作者であるコウ・シュンミンさんのインタビュー映像が流れていた。
テキストも貼られてあったんだけど、コウさん自身が珠洲市内を歩いてみて、コウさん自身の視点で現地のヒューマニティを見つめ、心に思った「里山里海」の「秘境」を探し求めたそうなのだ。
すだれのように吊るされていたのは写真
色の付いたフィルムのネガのようなものが何枚も吊るされていて、なんだろうかと見てみると風景写真だった。
コウさんが実際に珠洲市を歩いて撮ったものらしい。
観光ガイドには載っていない地元の人にしか知らない風景や場所、それらこそが「秘境」となるのかな?
よく見ると人の形をしている
モニターの後方の出窓になっているところに流木のようなものや資材や日用品等々が置かれているなと思ったら、近づいてよく見てみると人のような形をしていた。
こっちでも
あっちでも
人というか、宇宙人のようなそんな異型の姿をしている。
なんでも彼らは「乗客」なんだとか。
さらにいうと、この駅舎のインスタレーションは「秘境」の中でも「待合室」という名前だそうで、外の作品と区別されていた。
これらの「乗客」はコウさんと珠洲市内の18人の参加者で作られたものらしい。
パーツは、この鵜飼駅周辺で見つけてきたものなんだとか。
これも珠洲の風景といえば確かに風景だ。
秘密の通り道
駅舎の「待合室」に対して、ホームにあるのは「秘密の通り道」と言うそうだ。
そんなテキストを読んで、駅舎から一歩外に出てみると…
リアルな色温度に
青色の世界から普段通りの景色に。
緑の多い旧駅なので急に野の香りがしてきそうな景色じゃないか。
ここを出て左へ向くと、その「通り道」なるものが見られる。
橋だ
手前と奥、二つのプラットフォームを繋ぐように橋が架けられている。
近寄って見てみよう
三角柱の形をしたそれはしっかりと「橋」で、ちゃんと人が乗って渡っていくこともできる。
このように
そして中を覗いてみてわかった鏡の世界。
ガイドブックには列車をモチーフにした構造物が作られていると書かれてあったが、これ、列車というより万華鏡だ。
万華鏡のように筒の中を動くビーズ(色のついた物体)はないが、人間が入ってその代わりをすることができるようである。
お客も作品の一部になれる…
これもまた参加型の作品じゃないか。
もちろん自分も入りましたさ
そうして中から撮影しましたさ。
万華鏡の中に迷い込むとこんな感じなのだろうか?
子供の頃、三角柱の万華鏡が家にあったので、ふと懐かしくなる。
珠洲市のもう廃駅になったプラットフォームでこんな体感をするのもノスタルジックな気持ちに拍車をかけてくる。
天井を撮ると複雑な模様に
これ、自分が映っているんだけど、複雑すぎてもはや人間の形を留めていない。
自分は自分自身を撮影することに全く興味がわかないのだが、ここまで自分が自分でない状態で写ってくれるなら、逆にもっと撮りたくなった。
顔バレしない安心感が半端ない。
いやぁ、楽しいじゃないか。
反対側から撮るとまた景色が違う
駅舎側を背にして撮ると、このように反射がまだあっさりとした景色になる。
遠くの緑のせいだろうか?
懐かしさを通り越して、田舎で遊んでいた子供の頃にタイムリープしたような錯覚すらあった。
吊るされている写真も懐かしいものばかり
懐かしいと感じさせる珠洲の景色たちだった。
言葉は悪いかもしれないが、田舎の景色たちだ。
これら写真も装置となってタイムリープのような感覚を発動させたのかもしれない。
だとすれば、たしかに「秘密の通り道」だわ、これは。
いい体験できた。
感想
鵜飼駅にあったコウ・シュンミンさんの「秘境」は秘密にしておきたい不思議な体験ができた空間と時空の境目のようなインスタレーションだった。
特にプラットフォームに置かれている「秘密の通り道」は、自分の個人的な感性では、「万華鏡の形をした懐かしい過去に連れて行ってくれるタイムマシンのような装置」だった。
コチラの三角錐のミラーを撮ると
人が時空間に吸い込まれていくような画も撮れる(気がする)
撮り方次第ではもっといろんな想像力を膨らませてくれる画になるだろう。
他の誰かが入っていく様を傍から見ていても面白い展示物だった。
廃れていくだけの廃駅にいいものを作ってくれたと心から思う。