初心の趣

カメラ初心者の石川県人が同県を中心に地方の変わった魅力を紹介しています

津幡町の四ツ角交差点で繰り広げられる「獅子舞頭合せ」を観戦しに行った

晩夏の津幡町では四つの町の獅子舞が共演し、その頭を合わせる「獅子舞頭合せ」という祭りが「四ツ角」という交差点で行われるという。

毎年リアル喧嘩に発展してしまっていたエキサイティング過ぎる祭りだが、今年はケンカしないことを四町で約束したとも新聞に載っていた。

どのようにケンカを事前に抑えるのか等々、いろいろと興味が湧いたので初めて実際に見に行ってきた。

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舞台は交差点「四ツ角」

津幡宿として栄えていた清水、庄、津幡、加賀爪の四町による獅子舞の共演が四町の中央あたりに位置する「四ツ角」という交差点で行われる。

地図もあった

交差点を中心に北に清水、西に庄、東に津幡、南に加賀爪がある。

交差点の住所が清水なので、正確には中央の清水、能登口の庄、越中口の津幡、加賀口の加賀爪と呼ばれていたそうだ。

それら四町の獅子舞頭合せは、獅子をぶつけ合う「かち合わせ」の名残を残そうと昭和44年くらいから始まったという。意外と昭和の文化である。

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こちらがその交差点

北の清水側より撮っている。

キレイに十字路だ。

角に昆虫卸問屋の「アリスト」というお店があった。

その対角線には久世酒造店という酒屋さんもあった。

頭合せが行われるのは18時30分からなので、日が暮れる前はまだただの交差点だ。

それまでは各町の獅子舞がそれぞれの町中を行進していた。

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家々を回っていた

見ての通り、十人くらいは余裕で入れる大きな獅子舞だ。

こちらの写真は清水の方で撮っている。

少年たちもいて演舞を披露してご祝儀(「花代」というらしい)を受け取っていた。

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ポスターも見つけた

これによると八幡会、白鳥会、住吉会、太白会と別れているようだ。

調べてみると、清水が八幡会、加賀爪が白鳥会、庄が住吉会、津幡が太白会のようだった。

それぞれで獅子頭の顔も違っていれば、もちろん法被も色やデザインが違っていた。

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再び交差点に目を向けるとパトカーがいた

なんかものものしい雰囲気を感じ取ってしまった。

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角にはこんなテープも

17時半くらいに再び交差点に戻ってくると、いつの間にか「立入禁止」のテープが張られていた。

一部の横断歩道もこれで規制されていた。

いよいよこの場が戦場、いえいえ演舞披露の場になるんだなとの期待と、ちょっとした覚悟を植え付けられるようであった。

さらに18時くらいなると、その交差点にも見物客が続々と集まってきていた。

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同じ頃、照明も点灯し始めた

カメラを扱うものとしてはこれは助かる。

夜なので光量が足りるかなとちょっと心配をしていたのだ。

なお、17時半にはやってきたおかげで場所は角の最前列を陣取れた。

場所を確保する時間の目安は17時半から18時までくらいだと思われる。この頃なら全然空いている。18時を過ぎると、混んでくる。

 

18時半頃スタート

日も暮れ始めた夜の6時半頃、四ツ角の中央に四町の人たちが集ってきた。

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話し合う四者

段取りを確認しあっているのか、とくに殺伐としているわけではない。

というか、17時半くらいには彼らが角の酒屋さんの前で和気あいあいと談笑していた姿を自分は目にしていたので、この場で彼らが喧嘩をおっぱじめるといった想像はさすがにしなかった。

逆に、今年は「ケンカをしません」と約束をしているので、それを守るために各町から選抜された調停・調整役の人たちではないだろうか。

(監督するため新たに作られたという「振興会」の人たちだろうか?)

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そのうち4方向から獅子舞もやって来た

こちらは南の方からやって来た一団だ。

自分は地図でいうと北東の角にいたので、一番遠いながら一番全体が見えた一団だった。

加賀爪の白鳥会だ。

ポスターのとおりその獅子頭は赤い。

でんっと構えて威風堂々たるものだ。

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こちらは西側の一団

自分がいたポジションからでは角度的に獅子頭を写すのが難儀であったこちらは庄の住吉会だ。

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さらに見えづらい角度が東側の一団

こちらは電柱が邪魔をしてしばらく獅子頭どころか先頭の二人以外撮れなかったが、津幡の太白会だ。

刀を持っているからかサムライスピリッツを思い出した。

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そして最後は目の前にいた北側の一団

清水の八幡会だ。

四町、獅子頭を掲げ、得物を肩に携え、ビビることなく静かに、しかし確実に相手を威圧するように立っていた。

これから抗争が始まるんではないかとそんな雰囲気があった。

自分の頭の中ではこのとき『キル・ビル』のテーマソング(布袋寅泰の「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」)が流れていた。

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水を差すように警察官登場

何か不穏な気配を察知したのか警察官がぞろぞろと現れた。

しかも盾(ライオットシールド)を持ってやって来たので、まるで暴動を取り押さえんかのようである。

このときは会場の観客たちからどよめきが湧いた。

毎年ケンカに発展しまっているようなので、いよいよ警察も本気を出してきたような格好だ。

もしくは、今年はケンカをしないと祭り主催者側が約束しているので、こうして機動隊みたいな装備を持った警察官が現れることで、ケンカを起こす気を少しでも削いでしまおうとの作戦なのかもしれない。

自分はこの四ツ角の祭りを今回はじめて観戦しに行った(見に行った)のだが、この警察官の登場によって噂に聞いた毎年リアルファイトの話は虚飾ではなく本当なんだなと確信したのであった。

 

お囃子と太鼓屋台の競演

警察官が現れたときには、四ツ角初心者の自分としては中止にさせられるの?とも心配してしまったけれど、祭りはちゃんと始まってくれた。

この「獅子舞頭合せ」のメインは棒振りによる演舞の競演中に獅子舞の頭を合わせにいくことであるが、その前にお囃子と太鼓の競演もある。

四町それぞれの演奏が1町ずつ披露されていくのだ。

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まずは庄の住吉会

このように太鼓屋台が現れて太鼓の演奏が始まった。

演奏者の皆さん、格闘家みたいないい背筋をしている。

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腕の筋肉もすごい

怒涛のごとく力強く叩いて迫力十分。

そしてやりきった後の嬉しそうな表情も印象的だった。

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続いては加賀爪の白鳥会

自分の位置からは一番正面にきていて全体を見やすかったからか登場から迫力があるように見えた。

歩み寄ってくるだけで、なんか映画のワンシーンみたいなのだ。

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こちらも負けじとパワフルに演奏

こうして屋台を見てみるとフレームは全部木製なんだとわかる。

車輪もキャスターのような小さなものではなく、それなりに大きなものだった。

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続いては津幡の太白会が登場

演奏者は恰幅のいい二人だった。

その太鼓屋台はリアカーをベースに作られていた。

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サラシを巻いたその腰に予備のバチを携えていた

太鼓の三刀流ってあるのかね?と、見ながらそんなことばかり考えてしまっていた。

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最後は清水の八幡会

こちらもリアカーを改造した太鼓屋台だった。

男性二人で叩いて、男性二人で曳いていた。

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太鼓ばかりではなくお囃子にも注目

ほかの3町でもそうであるようにどうしても太鼓が目立ってしまうが、お囃子の皆さんもうまいものだった。

こういうのって子供の頃からやっているからできるのだろう。

町内に祭りがある地区の恵まれた点だろう。

楽器が何一つできない自分としてはうらやましい。

 

棒振り登場&頭合せ

西に位置する住吉会から反時計回りに1町ずつお囃子と太鼓を披露し終えると、いよいよ棒振りが始まり、同時に獅子舞頭合せも始まることになる。

棒振りはお囃子と太鼓同様に1町ずつ披露されていく。やはり住吉会から始まり反時計回りに1町ずつだった。

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棒振りとはこういうの

歌舞伎役者のような奇抜な髪型をして槍(薙刀)を持った二人がそれだ。

町によっては剣を持った棒振りもいる。

どちらにせよ獅子を退治する役の人たちだ。

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躍動感あふれる演舞

ときどき必殺技を繰り出しているようなムーブも魅せてくる。

急に跳んだりもするからファインダー越しに見ていないとシャッターチャンスを逃してしまうことも。自分は何度も逃した。

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獅子にも斬りかかる

獅子を倒す役である棒振りは演舞中、このように四町の獅子舞の前までやってきて斬っていく。

いわゆる獅子殺しというやつだ。そして、これこそが「頭合せ」というらしい。

頭合わせって、道端で別の町の獅子舞同士が鉢合わせたとき、相手側の獅子に棒振りが挑むことをそう呼ぶそうだ。

これを四方向すべてで行う、つまり四町の獅子相手に一刀両断の大刀辻を魅せてその町の棒振りの演舞が終わるのだ。

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斬られる獅子頭側も肩車などをして堂々たるもの

切られっぷりも潔くてかっこよかった。

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演舞終了後は枡に注がれたお酒を飲み干していた棒振りの方々

これもまた四町すべてを回り、すべてで酌をされ飲むことになるのでなかなか大変だ。しっかり飲み干していたのでこれも一つの見せ場のようになっていた。

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住吉会の後は加賀爪白鳥会の演舞がスタート

こちらは四人構成だった。

四人でする演舞は久しぶりのことらしい。

薙刀の柄が赤色だ。この区のチームカラーなのだろうか。

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息を揃えて演舞

数が多いとより合わせるのが難しそうだけど、シンクロしていた。

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こちらは三番手の津幡太白会の演舞

ここは薙刀ではなく刀だった。

薙刀とは動きがまた変わってくるので見飽きなくていい。

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明治剣客浪漫譚

と呼んであげたくなるムーブだ。

演舞の振り付けって、昔から受け継がれたものなのだろうか?

それとも時代とともに変化していくものなのだろうか?

気になるところだ。

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最後の清水八幡会の棒振りも得物は刀

二人構成という点も太白会と同じなので、区別する際はその腰の帯を見ると良い。

先程の太白会は赤い帯、この八幡会は黄色だ。

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やり終えた後の一気飲み

見事な飲みっぷりだ。

やり終えた棒振りの皆さんはどの方も爽やかな顔をしていたし、五臓六腑に染み渡っていそうだ。

 

煽る獅子頭とかち合うアタマ

さて、棒振りをその演舞のみにフォーカスしてシャッターを切ると純粋に競演だけをしているように見えるだろう。

だが、現場ではそんな爽やかな光景のみが繰り広げられていたわけではない。

どういうことかというと、棒振りの演舞中、四方向の獅子舞が互いに挑発しあっているのだ。

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例えばこんな感じや

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こんな感じで

威嚇するように頭を斜めにしてみたりしている。

能面と同じようなもんで、そういった動きだけで獅子頭に感情が生まれているようだった。

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演舞中にその背後で威嚇

この写真を見てわかるように後方で獅子頭が棒振りの演舞中に挑発行為を行っている。

獅子舞の人たちはおそらく演舞をあまり見ていない。視線の先にあるのは別の町の獅子頭、といった具合だった。

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挑発に乗って飛び出そうとする互いの獅子舞

ついには一団を引き連れて飛び出していくわけだけど、棒振りはこのときも演舞中だ。

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交差点の真ん中で衝突

飛び出していくのでケンカか?!と一瞬思ってしまう。

何をしているのかといえば獅子頭同士をぶつけているのだ。

これがこの祭りの名物みたいになっている。

頭合せ本来の意味である「棒振りが鉢合わせた他の町の獅子舞に挑む」が、いつしか棒振りの演舞中に獅子舞が本当にその頭をぶつけあうようになっていってしまったらしい。

自分はそのぶつけ合うことこそが「頭合せ」だと思っていた。

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こちらでも突進しあって…

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ゴッチンコ

こんなことが演舞中何度も繰り返され、その勢い余って毎年のようにリアルケンカに発展しまっていたというのだ。

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イメージとしてはこんな感じだろうか

人間同士の威嚇のしあいが始まった?!

といった具合だが、今年は違う。

今年は「ケンカはしません」と申し合わせているので、すぐに監督している人たちが止めに入るし、当の本人たちもそれをわかっているのか、ときに冗談のように済ませていた。

こういったケンカをするように見せて、その感情を抑えていなすといった姿があちこちで見られた。

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気持ちはケンカだ(と思われる)

いい気合の乗り方をしていた。

若者たちも日頃たまったものを一年に一度くらい発散したいのだ(と思われる)。

けど、昨年はけが人も出し、それを踏まえて監督をする振興会というのも立ち上げたという今年はやっぱり何かが違う。

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ガルルルルゥ

獅子頭もメンチ切り合っていたが、よく見ているとアタマ同士をむちゃくちゃ激しく衝突させていたわけではなかった。

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こんな一幕も

なんかじゃれ合っているようにしか見えなかった。

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最後尾の人は結構大変そうだったけど

獅子舞が勢いよく飛び出していくので、衝突をギリギリのところで阻止する最後の砦みたいなポジションだ。

かなり腕力が必要だと思う。

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先頭で止めている人もリアル(ちょっとマジモード)で止めていたと思う

こう、周りで獅子舞同士がやんちゃをやっている間も棒振りの人たちはひたすら演舞を披露していたから、ある意味シュールな光景であった。

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棒振りの演舞もすべて終わった後、4頭が中央に集結

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カンパ~イ

とばかりに4頭によるいわゆる「頭合せ」を行っていた。

ケンカもなく無事最後まで演舞を終えれたことを祝っているかのようであった。

 

最後まで観戦しての感想

以上、自分が初めて見に行った津幡町四ツ角の「獅子舞頭合せ」だ。

「ケンカ絶対しません」との報道のとおり、無事取っ組み合いも殴り合いもなく、もちろん怪我人もなく警察にお世話になることもなく祭りは終わった。

たぎる血潮からケンカに発展させたい感情も誰かのどこかしらにくすぶっていたのかもしれないが、大人の自制心と組織力で見事に抑え込んでいたと、四ツ角初心者ながらそう見えた。

見物客の中にはリアルファイトを期待していた人や、期待するあまり物足りないと思った人ももしかしたらいたかもしれない(知り合いで一人いた)。

それでもコンプライアンスなんて言葉が叫ばれる昨今の社会の中にあっては、祭りが現代の風潮に合わせて変調していくのも致し方ないことだと自分などは思う。

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印象的なシーン…なんだかんだと楽しそうだった

発散したい気持ちとの相当な葛藤もあったであろう。

そのうえで、怪我人も出れば法律違反にもなってしまうケンカを抑止してみせた当事者や青年団の人たちを称賛したい。

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最後中央で円になって一升瓶を一気飲みしていく四町の代表の方々

その飲みっぷりと、「ケンカ絶対しません」を守りきった彼らに自分は自然と拍手を送ってしまっていた。

見た目は強面の人たちばかりかもしれないが(失礼)、まだまだやんちゃなことも好きかもしれないが、大人だ。

かっこいいものだ。

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二本飲みはすげぇな…

…大人だ。

最後は見物客も含めこの場の皆さんで三本締めをして終わった。

もちろん自分も自然と手を拝借していた。

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去り際

途中、すんごい雨が降ったりして大変だったけど、最後まで見れてよかった。