奥能登国際芸術祭2023、残した3作品の鑑賞のために11月3日(祝日)に出向いた第四日目その2だ。
若山エリアにある、ホタルの鑑賞で知られる北山の棚田でNo.47の作品を観てきた。
小山真徳さんの作品だ。
若山エリア最後は北山の棚田へ
奥能登国際芸術祭2023の鑑賞スタンプのある全48作品のうち、45作品を観終えた段階で始まった鑑賞旅第四日目。
11月3日に行ったその日2つ目は若山エリア最後の作品を観に行った。
作品No.でいうと47だ。
小山真徳さんの作品が展示されているという。
小山さんの作品は、今年3月に七尾の中島町と穴水町で行われていた「のと鉄道アートステーション -ポッポヤ・イン・レジデンス-」というアートイベントで観て以来だ。
その時は御本人とも少し話をさせてもらった。
(のと鉄道の西岸駅にて展開していた小山さんの作品を観た時の記事は→こちら)
その際に奥能登国際芸術祭2023にも出展するという話を聞いていたのですごく楽しみにしていた。
楽しみにしていながら、まさか作品No.が47だとは思ってもおらず、展示場所も若山エリアだったものだから、鑑賞旅最終日となる第四日目にやって来てしまった。
まあ自分は、楽しみは最後にとって置くタイプなので、却ってよかったとも思う。じっくり見れるしね。
そんな小山さんの作品は北山の棚田にある。
そこは珠洲市でもホタル観賞で知られる場所だ。
ということで北山へ
ボランティアの方に誘導された駐車場は「ほたるP」とあるようにホタル観賞地のためのもともとある駐車場だ
そこに車を停めて降りてみると…
「ほたるの舞」と書かれた柱も見えた
その隣の掲示板の前には「ホタルの光で地域のきずな」の文字も。
ここからさらに右に目を向けてみると…
「北山ほたる」で知られるその地の絵も
ホタルがやってくるくらい美しい里山であることがこれだけで伺える。
なにせがホタルで知られるところなのだ。
あいにく11月なのでホタルの季節でもなく、奥能登国際芸術祭として日中にやってきているため、ホタルを拝むことはできない。
蛍に代わって拝むのは…
アートだ
駐車場から誘導されるまま歩きだすと、遠くにその姿が見えた。
作品名は「ボトルシップ」だ。
事前に地元テレビ局の情報番組でも取り上げられていたので、その形がボトルのようなものであることもわかっていたから、遠くにその姿を目にしたときから静かに興奮していた。
47番 小山真徳「ボトルシップ」
つづら折れのゆるい登り坂を上っていくとテラスのようなものが
見えてきた。
幟旗もあるし、なんならそこに作品看板も置かれている。
そのテラスのようなところから鑑賞すればよいのだろうか?
とりあえず寄ってみよう。
47番だ
小山真徳さんの「ボトルシップ」だ。
小山さんが奥能登国際芸術祭に参加するのはこれで二度目だ。
2017のときにも船の形をした作品を粟津の海岸(三崎エリア)で出していた。
小山さんは旅人の視点を軸に作品を制作する方で、漂流者や「よそ者」の視点から訪れた土地で生活している人たちが普段見出すことない置き去りにされたものたちに深い共感を示している。
船の形をした作品なのも、この地に漂着してきたモノたちの具現化なのではと思えてくる。
テラスのようなところから鑑賞
そこから見ると作品はこう見える。
今から空中に向かって発射されるためカタパルトにて待機している飛行船、もしくは空飛ぶボトルのようだと思った。
なんか、カッコいい。
そうか、ここは棚田だから高いところにあるのか、と今更のように思ったことは内緒だ。
もちろん降りて行って近くで鑑賞もできる。
少し歩いたところに下り用の坂がある
一見、スロープのようなゆるい坂に見えるが、そうではない。
また、脇の柱には「里山の地に」と書かれてある。
結構、急だったりする
滑り止めで竹が何本も埋め込められているが、天気が悪かったら、いや、滑りそうだ。
天気が良くてもズルっと行きそうで、降りるのになかなか運動神経や体幹の強さを試された。
ちなみに次の柱には…
「小山まさよし」と書かれてあった
その誇示のような記録に急に可笑しくなって、腹筋が緩みそうになった。
おかげで体幹も緩んで、一瞬滑りそうになったよ。
途中、ぬかるみ越えもする
晴れていてもぬかるんでいるところがあり、そこには筵(むしろ)が敷かれていた。
こういう田舎の田んぼや畑で目にしたような昔ながらの対処法に懐かしさを覚える。
降りて近づいてみるとこのような景色
金属が格子状に組まれボトルの形をしているその中に木彫りの舟が収められている。
写真でもわかるように、ボトルの中にも入っていける。
もちろん自分も入っていく
ボトルと小舟の間が狭いので一方通行になり、何人も一斉に入っていけるわけではない。
一グループずつ入っていたので、単独行動の自分としてはちょっと悪いなぁとも思った。
舟に乗っているのは… どこかの高僧だろうか?
ガイドブックによると「動物たちを救う救護艇もしくは精霊船のようにも見える」と書かれてあったので、てっきり動物たちの木像が乗っているものだと思ったら…
人だった
いや、この「人」のように見えるのが「精霊」なのかもしれない。
動物たちがいつ乗り込んでもいいようにスペースをあけ、いつでも救えるように祈りを捧げ、悪い奴らが乗り込まないように見張りながら…
出立のタイミングをはかっているのかもしれない
手に持っているガラス玉が急にコンパスか何かに見えてきた。
ちなみに舟の中には水が注がれている
竹筒を通しポンプを利用して注いでいる。
注がれる一方かと思ったら、船底の方に細工がしてあって、水を排出できるようになっているという。
だから舟の内側から水が溢れ出すようなことにはならない。
その水の中でメダカが泳いでいた
おお、メダカ。
久しぶりに見た。
水の中には珠洲焼がいくつか沈めてあり、その間をこのように泳いでいた。
すでに動物を一種類、救助していた。
やはり救護艇だったのだ。
ボトルの外からも撮ってみる
内側から出て、このようにボトルの注ぎ口に当たるところから中を撮ってみた。
まるで吸引されるようではないか。
いや、このボトル自体が舟を守るシールドであり、最悪の場合、このシールドだけ残して舟のみ放出できそうでもないか。
木製なのに俄にスペースファンタジーな世界に引きずり込んでくれる。
あ、やっぱり吸引か…
帰り際に再びテラスのようなところから
人がどんどん吸い込まれているな…
やはり吸引力あるようだ…
人間だって、ときに救護されたいのだよ!
展望ポイントから観る
近くでじっくり観終えて駐車場まで戻ると、ボランティアの方が自分に話しかけてきた。
人一倍、長く時間を使って鑑賞していたものだから印象に残ったようだ。
「随分と長く観ておられましたが、お時間はまだありますか?」といった類のことも聞いてきた。
一日かけて残り三作品しか観ないので、この日の自分はそれまで以上に時間に余裕があったからYESと答えて話を聞いてみると、なんでもこの作品、離れたところに展望ポイントもあるという。
暇そうなこいつなら観に行ってくれるかもと思ったのだろう。
正解です。
駐車場前の坂を指し示される
この坂を上って行くと棚田の向こう側に回れるようで、そこにポールが立っているからそこから作品を見下ろすといいそうだ。
話によると、そのポイントから見える景色が気に入って、小山さんも今回の作品展示場所を決めたそうだ。
展望ポイントを示す看板もあった
車でも行けるというので車で坂を登り始めるとこんな看板もあった。
公認の展望ポイントのようだ。
ようだけど、教えてもらわないとこの看板自体見つけにくいと思う。
進んでいくとこんなところに出る
ポールも見える。
手前の折れて倒れているものはもちろん違う。奥の方に見える一本だ。
奥のポールに向かうとこんな看板も
「←観賞地」とある。
棚田のあぜ道を通り、小川の方に続くのだけど、どうやらここが蛍の鑑賞ポイントとなっているようだ。
なんでも北山川にはカワナニが生息していて、ホタルの幼虫はそのカワナニを食べて生きているとのことだ。
このポールか…
車から降りて歩いて近づいてみる。
写真でいうと左の方向に棚田や小川を挟んでボトルシップが見えることになる。
その景色がこれだ
おお、棚田のいいところにボトルシップがいる。
ちょうど開けたところで、ここからも木々に邪魔されず眺められるから目立つ。
さらに言うと、その下には北山川が流れているわけだから、なんなら夏の夜にはそこから蛍の光も上がってくるんじゃないかと想像できる。
わずかにライトアップされたボトルシップとその蛍の光との共演はきっと幻想的に違いない。
いっそ小川の方まで降りてみた
ここからだとボトルシップを下から見上げることもできる。
ホタルの明かりもより近く、さらには上がっていく様を見ながら作品を鑑賞できるので
見ている自分自身もそれらの明かりに包まれる感覚があるかもしれない。
ファンタジーが、そこにある。
感想
奥能登国際芸術祭2023は11月12日(日)をもって閉幕したが、今回鑑賞した小山真徳さんの「ボトルシップ」は常設展示が決まったそうだ。
ずっとそこにいるということだ。
ということはまた夏のホタルの季節にやって来れば、最後に夢想した幻想的(ファンタジー)な景色を実際に目にすることもできるんじゃないかと思えてくる。
ただ、棚田は休耕田や耕作放棄地も多いというリアルもある
この地は過疎化も進み衰退して行っているという現実もあるのだ。
休耕田が多いからこそ、あんないいところに作品を置けたのかもしれない。
そう考えると皮肉な話だが、それでもその「ボトルシップ」のおかげでこの北山の棚田に幻想的な景色が新たに付加され、それでもって人が集まってくれるなら、win-winというものだし、この地にとってはそれこそ救護艇となろう。
夏にまた来たくなった。
常設展示を決めた運営側に拍手、そして展望ポイントを教えてくれたボランティアの駐車場誘導員の方に感謝だ。