奥能登国際芸術祭2023の鑑賞旅第三日目、蛸島エリア最後の作品を紹介したい。
鉢ヶ崎海岸へ向かった。
鉢ヶ崎河岸へ
奥能登国際芸術祭2023の蛸島エリアの作品も今回で最後となる。
作品No.順に行っていればこのエリア最初の作品になっていただろうけど、如何せん内浦側から逆順に回った第二日目を引き継いでの第三日目なので、致し方ない。
展示場所は鉢ヶ崎海岸だ。
ここは前回2020+のときにも別の作品の展示場所になっていたので自分としては知った場所だった。
難なく到着
一つ前の珠洲焼資料館からも近いので迷うこともない。
ただ、こうして駐車場には簡単にたどり着いたものの、作品そのものはもう少し離れた場所にある。
この駐車場から海岸まで少し歩く必要があるのだ。
矢印も、あっちに行けと言っている。
次はこっちか
この先には海水浴場があるのだが、その前に総合公園を横切ることになる。
この自然公園がなかなか広い。
え? 次はこっち?
まっすぐ海岸に向かうのかと思ったら途中で左に曲がることに。
しかも土手になったところを上がって進む。
そこ、散歩コースなんだけど、なかなかの道だと思う。
まだ進めってか…
アップダウンのある道なので、結構な運動になる。
ラリーカーで攻めるなら楽しそうだけど、歩くとまあまあ疲れる。
まだか…
お、やっと見えてきた
この獣道みたいなところを進んでいった先に、屋根瓦の連なりみたいなものが目に入ってきた。しかも、まあまあ大きい。
今回の作品がどんなものかガイドブックで事前に知っていたのですぐにそれとわかる。
ここまで来るまでが、それなりに大変だったけど。
19番 ラグジュアリー・ロジコ[豪華朗機工]「家のささやき」
19番だ
ラグジュアリー・ロジコ[豪華朗機工]とは台湾のアーティスト4人による「ハイブリッド」をコンセプトにしたアーティストコレクティブだそうで、「愉快で奇妙な土地」をテーマにした作品で知られるんだとか。
愉快で奇妙か…
好きな響きだ。
なにか共感できるものが早くもある。
作品の「家のささやき」はもう見えている。
看板によれば「瓦には触れないでください」とのことだ。
先程も記したが、この作品、瓦を何枚も使っているのだ。
その姿を見てみよう
ちょうど周りに人が立っているので比較しやすいと思うが、なかなかデカい。
高さは6メートル近くあるんじゃなかろうか。
その表面は瓦の連なりだ
使われているのは能登の黒瓦だ。
瓦屋根のように敷き詰められているのではなく、こちらのそれは隙間が多数あいている。
雨風が普通に入ってきそうなので屋根としての役割は弱そうだ。
角度を変えて見てみると明らかに屋根ではない
三角柱の形をしたその側面に黒瓦を規則正しく並べているといった具合で、こうしてみると楽器のようにも見えてくる。
ピアノの中ってこんな感じだったような…
そんな内側にも入っていける
瓦に触らなければいいだけで、このように中の方にも入っていける。
中に入って記念撮影している人も多かった。
内側で見上げると、この均等に並んだ棒がなかなか迫力ある。
盾のようでもあるし槍のようでもあるし
矛盾だ。
矛盾がいっぱい連なっている。
海側を眺めるとパワーを取り込む場所のようにも
この三角形がね、ピラミッド的な神秘の力を注いでくれる何かにも見えてきたりするのだ。
ここで両腕を広げて天を仰げば宇宙霊を体内に取り込めそうな、そんな気もしてきた。
棒が美しい
槍だの矛だの物騒なものに形容しながら、近くで見ると美しい音を奏でそうで、天国への階段のようにも見えてくる。
ちなみにこれ、手で触れる
瓦には触れちゃいけないけど、この棒の方なら触ってOK。
触ると傾いて、ゆるくシーソーのように上下運動をしてくれる。
棒を動かすと外では瓦が上下運動
振り幅が小さいので少し分かりづらいが、ハッチが開閉しているような、鍬で土を耕しているような、そんな動きをする。
一つだけじゃなく、同時に何本も動かせるものだから、中を通過しながら棒に触れて、次々とシーソー運動をさせていった。
何かを奏でるような動き
音は出ないのだけど、シーソー運動しているところから波の音、風の音、なんならハンドベルの音でも聞こえそうであった。
動きが優しいのよ。
う~む、静止画では伝わりくいが…
みんなで動かしていこう
自分が歩きながら棒に触れていくと、これって触っていいんだ、触ると動くんだ、とわかった他の鑑賞客の方々が同じように触り始めた。
すると作品のあちこちの棒が一斉に動き出して、揃わないながらも呼応するそれら運動が「穏やかな生命の躍動」のように朗らかなものに見えてきた。
この作品、ガイドブックによると「『集まることは力になる』をコンセプトに昔の記憶を掘り起こし、この地を離れた人々が再び戻ってくるようにという願いが込められた作品」とのことなのだけど、こうした鑑賞客みんなの呼応が元気玉のように力を集結させる感覚を与えてくれた。
なるほど確かにこれは「力」だ、と思うのだった。
感想
ラグジュアリー・ロジコ[豪華朗機工]の「家のささやき」、外からだったり内側だったり、どちらにしてもただ鑑賞するだけではこの作品の魅力も、作品の意義もその半分しか享受できないだろう。
瓦には触れてはいけないが、中の棒なら触れてOKで、むしろ触ってそれら棒や瓦をシーソー運動させてやることで、タイトルにもある、この作品の何かしらの囁きのようなものが聞こえてきそうであった。
しかもその囁きも、一人で動かして一人で聞いていれば「囁き」に終わってしまいそうなものだけど、その場にいる鑑賞客が次々と呼応して一斉に動かしてやれば、これが「音のない合唱」のように昇華され、それがまた人々をこの場所に呼び込む装置となるのではと、そう思わせる素敵な作品だった。
〇〇ホイホイのようにも見えなくもないが…
例えが悪すぎて夢が壊れてしまいそうなので、もうそのたとえはやめよう。
なにはともあれ、人が集ってくる、またその願いが伝わる隠れた秀作だった。