奥能登国際芸術祭2023、鑑賞旅第三日目、蛸島エリアに入って3つめの作品のある、とある民家へ向かった。
スズシアターミュージアムでも作品を展開しているOBIの作品が蛸島でも見れた。
ほんとに民家
蛸島エリア3つめの作品は近くに高倉彦神社がある蛸島の住宅地にある。
近くの駐車場は蛸島漁港で、そこで停めて少し歩くことになる。
このあたりでの展示は2020+でもあったので、自分などはどの方向に向かえばいいのかすぐにわかった。
目的の民家へと向かうマップあり
駐車場になっていた蛸島漁港から矢印のとおり進めば良い。
2020+でも、なんなら2017のときも同じ道を歩いているので迷子常習犯の自分でも慣れたものだった。
道中にも矢印看板があるし
壊滅的な方向音痴でもない限り誰だってたどり着けるだろう。
ここで右折
唯一迷いやすそうなところといえば、この曲がり角だろうか。
矢印看板がやや後方にあるので、もう一本後ろの道路で右折するものかと一瞬迷ってしまうが(自分は迷った)、この幟旗がある角で右に曲がれば良い。
するとすぐ…
目的の民家が見えてくる
これまたド民家だ。
作品看板が立っていなかったら間違いなくスルーしていたと思う。
「上映中」
これも作品の装飾の一つなんだろうけど、そこが作品の展示場所だとわかるから認識できるのであって、そうじゃなかったらやっぱりスルーしていたに違いない。
自慢じゃないが、自分は迷子常習犯なのだ(今回二度目の誇示)。
21番 OBI「4K」
21番だ
英数字ばかりで分かりづらいが、OBIというユニットの「4K」という作品だ。
OBIは美術作家の鈴木泰人さんと、建築家の本間智美さん、映像作家の水野祐介さんの三人によるアーティストコレクティブだそうで、店舗設計や商品のプロデュース、インスタレーションや映像作品など多岐にわたって表現活動をしているとのことだ。
今作ではこの民家をかつて近所にあった町の映画館に見立て、この土地の文化の映像を高解像度で上映するという。
そのため作品看板の注意書きにも「動画撮影はお控えください」の文字が記されていた。
インスタレーション兼映像作品、なのだ。
玄関を入るとすぐ右手に受付がある
そこの壁にもこのように注意書きがあった。
その図柄から静止画の撮影も駄目なのかと思ってしまうが、あくまでフラッシュ撮影が駄目というだけで、静止画の撮影そのものは禁止されていなかった。
よかった、よかった。
受付の方に聞くと、上がってすぐ左の部屋から回ると良いですと言われたので、それを順路だと思ってそのとおり進んだ。
なんでも映像作品は4つあり、4つの部屋に一つずつ上映しているとのことだ。
では、一部屋ずつ観ていこう。
では一部屋目
一部屋目に入ってすぐに思ったことは「狭っ!」だった。
決して大きくない民家の、決して大きくない一部屋にスクリーンが設けられていて、その手前に懐かしさを感じさせる民具が所狭しと並べられていたのだ。
この民具の使い方は、スズシアターミュージアムでも似たような雰囲気の展示があった。
ちなみにスズシアターミュージアムでは、OBIは「ドリフターズ」という作品を展開している。
スクリーンに流れている映像は祭りの映像だ。
祭りだけではなく、それにまつわるようなオリジナルの物語の映像も2画面で流れている。
なかなか難解な演出だ。
隣の2つ目の部屋でもこんな具合
物がすごいのよ。
おかげでスクリーンに近づくことはできない。
この懐かしいものたちは…
よく見つけてきたなぁと思う。
「大蔵ざらえ」の延長戦のような展示じゃないか。
3つ目の部屋に移ろう
奥に見える紫の明かりの部屋が3つ目の部屋だ。
2つ目の部屋との間に廊下があるんだけど、そこにも…
物が置かれている
祭りの時の「ヨバレ」で使うような赤御膳だ。
こういうのを並べていたのがスズシアターミュージアムでの「ドリフターズ」だったので、同じ世界感をここでも味わっている。
スズシアターミュージアムでも展示の仕方が狭いと感じたが、この民家は家自体が狭いのでますますギュウギュウに民具が押し込められ、その空間に自分たちも押し込められているような感じがあった。
3つ目の紫の明かりの部屋、怖っ!
明かりが妖しすぎる。
この雰囲気はドリフターズではなかったものなので、急にこの民家が民家らしさを出してきているなと思った。
その出している民家らしさというのはどんな民家らしさかといえば、これはあくまで自分が感じた個人的な印象であるが、『呪怨』なんかに代表されるジャパニーズホラーな「らしさ」である。
食器が並べられているだけなのに、なんか怖い
照明の色って不思議なものだ。
それにしても、この部屋、映像がないなぁ…
そう思ってあたりをキョロキョロとしていたら…
頭の上にあった
天井が一部吹き抜けになっていて、二階の壁にスクリーンが設置されていた。
ここでもやはり2画面だ。
ちなみにこれら映像を自分はどれもしっかりと観ている。
一本、そんなに長くなく(5分か10分くらい)、同じ映像が何度も流れているから、他のお客さんがいても、自分の観たいタイミングで見ればいい。
この3つ目の部屋に至っては椅子も用意してあったので、座って見れた(見上げてた)。
4つ目の部屋へと向かう廊下にはこんなものも
なんだ? この時計じかけの電話は?
意味がわからないけど、お手性の時限爆弾のようでもあり、これも恐ろしいやら興味深いやらで、まじまじと観てしまった。
電話の中の回路ってこうなっているのか?
この下に並べられたパーツは何のパーツだ?
興味を持って観ている自分がなにやら分解癖でもあるかのようで、悪魔的魅力があった。
そして最後、4つ目の部屋
ここでは漁民具が所狭しと置かれていて、流れる映像も漁港のものだった。
ここだけ、ちょっと毛色が違う。
たしかに町の文化や営みであることに違いはないのだけど、一画面だしね。
こちらでも明かりの使い方が匠で、右手に見える照明がクラゲのようでもあり、この部屋全体が海の中のようなそんな印象もあった。
この部屋、モニターの前に座椅子があったので、自分はそこに座ってじっくりと鑑賞させてもらった。
モニターがね、今どきの薄型液晶とかじゃなくて、HDMIケーブルが普及する前の赤白黄色の三色ケーブルで繋ぐような古いモニターだったので、放送研究会なんていう部活に入っていた学生時代の頃を個人的に思い出してしまったよ。
蛸島の町の懐かしい記憶や記録を見せられながら、自分の中の個人的な懐かしい情景まで呼び起こされてしまったので、この映像とインスタレーション作品が記憶に波紋を起こす一つの装置のようにも思えてきた。
「狭い!」なんて思ってしまったけど、いやいや、かなり素敵な空間だった。
感想
OBIの「4K」、なんだかんだと4つの映像を全部見ていた。
物が溢れていてたしかに狭いのだけど、腰据えて映像を見ていると、不思議なものでその狭さが居心地よく思えてきたりもする。
子供の頃の自分の部屋って、これくらい雑多な感じがしたなと、この空間そのものに懐かしさを覚えてしまうのだ。
実家に帰ってきたような、いや、子供の頃に暮らしていたあの頃の実家にタイムスリップしたような、そんな錯覚もあったのだ。
あ、ポスターにこんな説明書きがあった
帰り際に玄関に張られてあったポスターを改めてじっくり見てみたら、あの映像の物語、いつかの未来のお話だったそうだ。そうしてタイムリープしているとのことだ。
映像だけではそんなあらすじだとは思わなかったけど、それらから感じ取ったものは、このとおりであった。
すっかりとこのインスタレーションに自分自身が、自分自身の記憶がリンクしていたようである。