初心の趣

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奥能登国際芸術祭2023を地震に負けず回る第二日目その12(弓指寛治「物語るテーブルランナーin珠洲2」)

能登国際芸術祭2023、内浦からまわっった第二日目、飯田エリアでの2つ目の作品は前回の旧タクシー営業所から数軒隣にある旧時計店で展示されていた弓指寛治さんの「物語るテーブルランナーin珠洲2」だ。

弓指寛治さん?

「物語るテーブルランナーin珠洲」?

どちらも見覚えのある名称だった。

 

 

数件隣の旧時計店へ

能登国際芸術祭2023の鑑賞旅二日目、飯田エリアに入ると作品の展示場所が同じ商店街の中にあったりするので、複数の作品がすごく近いところに密集している事が多い。

今回紹介するNo.29の作品もそうで、前回のNo.30の展示場所から数軒隣にあった。

前回の旧タクシー営業所と同じ通りにある

通りに出て右を向くと、もう次の幟旗が見えるのだ。

今回の作品は旧時計店にあるという。

長屋のような建物の、この背の低い一軒がそのようで、前には作品看板も置いてある。

その看板と幟旗がなければ、歩いていて目にとまることはなかったんじゃないかと思えるくらい小ぢんまりとしたところだった。

 

29番 弓指寛治「物語るテーブルランナーin珠洲2」

29番だ

弓指寛治さんの「物語るテーブルランナーin珠洲2」と書かれている。

その作家の名前と作品名を見て、自分は「あれ?」と、なにか記憶に引っ掛かるものがあった。

弓指寛治さんって…

前日の第一日目で回ったときにも同じ名前を見たような気が…

それを確かめるためにガイドブックを開けてみたら、外浦側の日置エリアの木ノ浦自然歩道で観たNo.9の作品で同じ名前を見つけた。

アレだ…

あの奥能登国際芸術祭で過去一に鑑賞がハードだった「プレイス・ビヨンド」だ。

山の中の自然歩道を歩きながら絵とテキストで戦時中の一人の兵士の半生を追体験させるそれは、没入感が半端なかったし、虫にさされる中、1時間以上かけて鑑賞し終えた、個人的に強烈に印象に残っている作品だ。

第一日目の「プレイス・ビヨンド」の記事はこちら

「プレイス・ビヨンド」はスケールも大きかったので、その人が、次にはこんな小さな家屋で作品の展示をしているのかと思うと、正直いって意外であり、驚きであった。

そしてその作品タイトルだ。

「物語るテーブルランナーin珠洲2」

…これにも見覚えがあったのだ。

その記憶は、入り口を入って受付を済ますとすぐに鮮明になった。

受付となりに置かれていた刺繍

その物語を記したテキスト

これら物語の一コマを切り取ったような刺繍作品、その手法に思い当たるフシがあった。

能登国際芸術祭2017でも同じようなものを目にしていたのだ。

受付の方々に「この作品って2017のときにもありましたね?」とダイレクトに聞いてみると首肯されて、

「2017のときは鴻池朋子さんが下絵を書いていたけど、弓指寛治さんがそのバトンを引き継いたんです」

と教えてもらえた。

なるほど、合点がいった。

作家の挨拶文も掲載されていたけど、弓指寛治さんが鴻池朋子さんの「物語るテーブルランナー」に相当感銘を受けたようなのだ。

昨年の瀬戸内国際芸術祭2022から弓指さんにバトンを渡して引き継いでいるそうだ。

テーブルランナーができるまでの説明も展示されていた

下絵を描くのは作家であるが、その物語を書くのも、下絵を元に裁縫するのも珠洲の人たちだ。

つまりは鴻池さんや弓指さんの作品でありながら、本当の主役(作り手)は珠洲の人たちということになる。

受付には実際に縫製した方々もいて、話を聞くと作品への熱量も高かった。

全部で30近くあったそれら刺繍作品とテキストを、自分は一つ一つ隅から隅まですべて見て回った。

もちろん、すべて写真にも収めたのだが、それらをすべて掲載してしまうと、ここにやって来る楽しみを削いでしまいそうなので、本記事では気になったものを一部だけ紹介することにする。

旧店舗のスペースだけじゃなく奥の部屋にも展示されていた

この建物、縦に長い作りをしていて、入口入ってすぐはお店として、奥は母屋として使われていたそうだ。

母屋の方へ

薄暗く狭い通路(人が二人通るのも難しい狭さ)を抜けていくと、右手にも、さらに奥にも部屋があって、それぞれで刺繍作品が展示されていた。

部屋を覗き込む

このようにテーブルの上に数作品おいてある。

自分はこの部屋にもちゃんと上がって、一つ一つ目を通している。

奥の部屋はさらに生活感あり

台所やダイニングと思われる部屋だ。

ここではテーブルだけではなく、棚にも刺繍作品が展示されていた。

あ、

「テーブルランナーができるまで」にあった作品だ

下絵から刺繍になるとこうなるのかと、その完成品になんだか感慨深いものがあった。

これ、話も面白いけど、縫製も細かくて、節々にこだわりを感じる。

おしっこを入れた缶一つひとつ柄が違うし、なんならその中身を表現するために黄色の糸を縫ってあるようにも見える。

その細かさに縫い手の方の熱量を感じるのだ。

棚にはこんな感じで置かれていた

なかなか狭いところに置いてあるので、これらをすべて目にしていた人、この時間帯では自分の他にいなかったんじゃなかろうか?

自分、じっくり時間をかけて一つ一つ観て回っていたから、後から来た人たちにどんどん追い抜かれていた。

個人的に気になった作品をもう一つ載せたい

「ランドセルのベロ」というタイトルのこちら、隣には何やら手書きの地図も添えられていた。

その地図

矢印も伸びている。

テキストの物語を読んでみると軽トラにランドセルが引っかかって引きずられたそうで、その距離を示しているようだ。

こんな状況になったらしい

危ない、危ない。

このあとランドセルのベロが切れて軽トラからようやく離れることができたようだけど、一つ間違えると大怪我に繋がっていただろう。

いやはや、愉快な… いえ、すごい思い出だと思う。

ランドセルが枠を越えているし

この立体感がたまらない。

縫い手の方の遊び心がこれ一つからも読みとれて、この作品の主役はやはり物語を書いた人や、下絵を元に縫製した珠洲の方々なんだろうなと、改めて思うのだった。

 

感想

弓指寛治さんの、今芸術祭2つ目の作品「物語るテーブルランナーin珠洲2」を、自分はすべてテキストも刺繍絵も観て、撮った。

どれも珠洲の方々の思い出や、熱意が込められていて一つ一つに引き込まれてしまっていた。

下絵を描いたのは弓指さんだけど、弓指さんの手をかなり離れていると思う。

作家としてもそれも狙いだということのようで、このテーブルランナーは今後も誰かにバトンが渡され、作り続けられていくであろう、そんな未来の景色も想像できた。

なお、弓指さん、相当忙しかったらしく、作品の中には弓指さんではなく鴻池朋子さんが下絵を描いたものもあった。

リレーではなく、一部分だけタッグマッチのように交代していたのだ。

2017から観ていた者としてはちょっと胸熱だった。

どの作品が鴻池さんが下絵を描いたものか、受付の方に聞いてみると教えてもらえる。

最後まで読んで、観て、撮影していた自分

気がつけば、この旧時計店の中に1時間近く(少なくとも40分は)いてしまった。

「プレイス・ビヨンド」に続き、こちらでもたっぷりと時間を掛けて観てしまったわけだ…

時間を使わされたと言ったほうがいいのだろうか?

弓指寛治さん、恐るべし、だ。

でも自分、美術館行くと一つの展示会にいつも1時間以上いるので、時間を掛けて鑑賞するの、慣れているし、好きだったりする。