奥能登国際芸術祭2023、内浦側から回っている鑑賞旅第二日目、次に紹介するのは上戸の船小屋で目にした城 保奈美さんの「海の上の幻」だ。
糸を使った作品なのに今芸術祭中、1番SFようにも思えた作品だった。
2017ぶりの海辺の小屋?
奥能登国際芸術祭2023、上戸エリア3つめの作品は海の真ん前にある小屋に展示されていたんだけど、ここ、2017のときにも来たことあったような気がしてならなかった。
到着してみるとデジャブ
いやぁ、6年前にここに立ち寄っているんだよなぁと、自分の中の記憶が訴えてくるのだ。
家に帰ってから写真を見返してみると、どうやら間違いないようだった。
(確認した6年前の写真のある記事は→こちら)
小屋の形も、隣のピンクの壁の建物も一緒だった。
34番 城 保奈美「海の上の幻」
正面に回ってみる
この小さな小屋の中に作品が収まっている。
パッと見た感じ、そのほとんどが糸や紐でできたような作品だ。
34番だ
城 保奈美さんの「海の上の幻」だ。
「城 保奈美」さん、こう書いて「しろ ほなみ」と読むようだ。
大伴家持の読んだ珠洲の歌からインスピレーションを得て今作を制作したそうで、蜃気楼という幻想のような空間を進む家持の舟をイメージしたとガイドブックには書かれてあった。なんでもそのレース糸の中に舟の形が浮かび上がっているそうなのだ。
真正面から観る限りではカラフルなレース糸のカーテンにしか見えないので、角度を変えてみると…
船主のようなものが伸びているのがわかる
小屋の中に発生した別次元につながる青色の靄のようなものの中から舟が転送されてきているようではないか。
自分より年上の世代でSFとかに興味がない人からすると、何を言っているんだと思われるかもしれないけど、漫画やアニメに慣らされてきた現代っ子なら、これくらい厨二病な感性にも理解を示してくれるはずだ。
作者の城さんも生年月日を見ると若いんだよね。
近づいて庇の下から見ると糸がよりくっきり
糸らしさがより際立つのでむかしのCADを触っているような、そんなソフトでデータを移しているような、SFチックでありながら、どこか懐かしい感じもある。
小屋の内側から見ると
船体が見えてくる
船尾の方までちゃんと舟の形を作っているのがわかる。
だからこその非現実の中のリアリティを望めていて自分には愉快だ。
そうしてその形作る糸がやっぱり昔のCADでデザインしているようで、小屋の古さなんかも合わせ、未来と過去が混在しているようで、近未来人もどこか懐古的な趣味があるのかと思うと、なにか強く共感してしまうものがあった。
なお、この小屋の壁面(後ろ側)には少し大きめの鏡も設置されていたんだけど、その鏡越しにこのレース糸の塊を見てみると…
時空が歪んで見える
ますます時空間を飛び越えている感じが出てくるじゃないか。
これ、作者の城さんがそう計算して設置したのか、それとも偶然なのかはわからないけど(もしかしたら蜃気楼な感じを演出したのかもしれない)、自分にはかなりツボな演出だった。
人が映り込むとその人が魔法で空間を歪ませているかのようにも
この時空間転移がマシンによるものではなく魔法によるものだったなんて妄想が膨らんで、子供心(いい大人ですが)がワクワクで弾む、弾む。
いやぁ、なんて厨二病な感性を刺激してくれる作品なんだ。
糸だけの作品なのに、それが作り出す世界にすっかり浸ってしまったよ。
感想
上戸の船小屋にある城 保奈美さんの「海の上の幻」、時空間を歪ませ時間を越えて過去から舟がやって来たような未来的な妄想を膨らませ、その世界に浸らせてくれる作品だった。
こういった趣味、自分は好みだ。
それでいて小屋の外からは現在の珠洲の海も感じれる
過去、未来、そして現在を繋ぐような作品で、その「糸」がそれぞれの「時代」を結びつけているようにも思えてきた。
なんだか書いていて中島みゆきさんの歌のようにも見えてきたけど、これも懐かしさを取り込もうとする感性が働くからだろうと、そのようにまとめたい。
糸で作られているだけなのに、すごい装置だ。
いや、やはり魔法だろうか?