初心の趣

カメラ初心者の石川県人が同県を中心に地方の変わった魅力を紹介しています

七尾市の青柏祭で夜中の午前1時から始まる府中町の「朝山」を見に行ってきた

今年2023年は七尾市の青柏祭が4年ぶりに通常開催された。

またアニメ「君は放課後インソムニア」が放送開始された年でもあり、その影響のせいで自分は5月4日の夜中1時に曳山行事が始まるという府中町の「朝山」を観に行きたくなった。

そして、実際追いかけてきた。

前回の前祭礼の記事の続きだ。

 

 

1時より朝山、発進

ユネスコ無形文化遺産にも登録された青柏祭。

今年2023年は「君ソム」の影響で夜中1時から朝方にかけて「でか山」を曳く府中町の「朝山」に絞って観に行くことにした。

前祭礼からだと夜中0時から始まる。

その前祭礼も終わり、オープニングの木遣り唄も終わるといよいよ曳山行事の準備が始まる。

いよいよ「朝山」が始まるのである。

はしごを使ってデカ山の定位置に上っていく木遣衆

いよいよ動き出すのだろう、木遣衆がはしごを掛けて上っていった。

6人並んでいた

花形の6人だ。

この人達の掛け声とともにデカ山は動き出すので、いよいよ始まるのかと俄にドキドキとしてくる。

と、その前に木遣唄を披露

6人が一人ひとり唄っていった。

スタートまでに少し時間がかかるが、みなさん唄が上手いので聞き入ってしまう。

ちなみにこの頃から急に冷えだしてきた。

午前中は20℃を超すような暑さだったのに、寒さで体が震えてくるくらいだった。

自分はこのとき綿のパーカーを着ていたのだけど、それだけでは足りないと思った。

周りを見ると、おそらく地元の方なのだろう、ダウンジャケットやダウンコートなど冬の格好をしている人も多かった。

唄が終わると、デカ山を曳く際の注意事項等々を拡声器を使って伝えられ、お客さんたちも綱を握り始める。

今年は4年ぶりの通常開催なのでお客さんが綱を持ってこのバカでかい山車を曳いて動かしていくことができるのだ。

いよいよその瞬間

梃子掛衆の方々が「ハ梃子」(はでこ)を使ってテコの原理で後輪を押し込み動かしている。

これで少し前進したところで一気に綱で引っ張って発進していく。

いきなり電柱があってスレスレのところを通ることになるので見ていてハラハラする。

電柱なんかにぶつかりそうなときは柄の付いた梃子(中梃子、脇梃子)を使ったり、それでも足りないときは柄のない梃子「切梃子」を前輪に噛ましておいてテコの原理で方向を調整して避けていくことになる。

デカ山が途中で前進を止めたりするのはそういう調整が必要だったりしたときだ。

前進している最中でも前輪に梃子を噛まして急に方向調整したりするので、梃子掛の方々はかなり危険なことをやっている。

しかも夜なんだよね

府中町の朝山は夜中に動き出すので、こんな暗い中でこんなバカでかく重い山車(高さ12メートル、重さ20トン近くある)に向かっていって梃子を噛ましているわけだ。

暗闇でよく見えるなと感心してしまう。相当慣れていないとできないことだと思う。

勇気もすごいものだ。

ほんと、怪獣だな

町に現れた、扇形をした怪獣に思えてならない。

正面に回ってみよう

正面から見ると巨大な戦闘機や戦艦のようにも見えてくる。

木遣衆の景気づけの掛け声で士気もテンションもマックス状態といった勢いだ。

なお、デカ山は町中の細い道路を進んでいくので、後方から前方に回り込むには、一旦脇道にそれて迂回して来なくてはならない。

デカ山のスピードも速いのでその時は自分も走っている。

回り込んだときには少々息も上がってしまう。

ここまで来ると方向転換だ

リボン通りの手前までやってくる。

写真で見てわかるようにアーチがあるので、それよりデカい山車はリボン通りを通過できない。

左折していくことになるんだけど、こういったときの方向転換がいわゆる「辻回し」である。

夜だろうと、もちろん辻回しはやるのだ。

 

朝山、夜中の辻回し

デカ山の旋回、いわゆる「辻回し」はどのように行われるのか?

当ブログでも過去記事で何度か記しているので、分かっている人はわかっていると思うが、簡単に言うと、ピッチング回転をしていた前輪を浮かしてヨーイング回転させるための車輪「地車」を代わりに使う、といったところだろうか。

なんのこっちゃ、となる方も多いかと思うけど、まあ、なにせ、前輪やや後方に備え付けられている地車を使うのだ。

地車を下ろしてそれに心棒を入れ回転させるためにも、まずは前輪を浮かせる必要がある。

自分も今年ようやく理解したのだけど、その浮かせる方法は二パターンくらいあり、広い場所だとバカでかい梃子を使って行われる。

「大梃子」というものだ。

このリボン通り前ではスペースがあるので「大梃子」が使われていた。

大梃子の準備します

リボン通りにあらかじめ置かれていたと思われる、長~いテコが若衆たちに担がれ運び込まれる。

山車の前方に差し込まれる大梃子

前方の下側に差し込んで文字通りテコの原理で前輪を浮かせることになる。

でもこの巨体故に生半可な力、重さでは浮かすことはできない。

そこで…

人が乗っていくことに

まず一人が上がってより力を加えやすいように準備していく。

こんな十字架のような形に作っていく

これなら下からも力を加えられる。

そうして…

何人も乗っていく

大梃子の上に目一杯乗ると、後はもう合計の体重と、下からロープを引く力とで前輪を浮かせにかかる。

下げて

さらに下げて

このあたりまで下げる

ここまで大梃子が下がってしまえば、山車の前輪部は浮いてしまう。

前輪が浮いている間に「地車」を下ろしそれに心棒を入れて地面に接地させることで山車の前方部は横に動こうとするのだ(車でいうとハンドルをフルに切ったような状態)。

木遣衆も立ち上がったら辻回し(旋回)開始

いつもならここでGIFを活用していたけど、今回は写真の羅列で旋回する様子の雰囲気を味わっていただこうかと思う。

旋回完了!

見事に90°ヨーイング回転だ。

デカ山はこの後、写真でいうと右側に進行していく

どう見ても左のほうが進みやすそうだったのに、より狭いところを通って行くのがデカ山だ。

まあ、目的地の大地主神社(おおとこぬしじんじゃ)が右の方向にあるんだから当たり前なんだけどね。

旋回させてしまうと、ヨーイング回転用の地車を引っ込ませる必要があるため、また車輪を浮かせることに。

大梃子に跨る人たち

中には外人の方もいた。

この方、毎年見かける。

山車の腹の下でも作業中

浮かせている間に地車の心棒を差し込んだり、外して引っ込ませたり、下手すりゃ事故にも繋がりかねないので大変だ。

ハ梃子も使ってグイグイと

このとき、いろんなことをしていたな。

向きの微調整をしようとしたり、これで押し出していたり、ハ梃子は色々な用途で使えるようだと自分もこのときよくわかった。

押し出され引っ張られて進み出すダシ

電線に触れそうになったりしてしまうこの狭い道、長い一直線なので、突き当りまでかなりの勢いで進んでいた。

途中、電信柱にかすめる危ない場面もあったが、大きな事故はなし。

後日、直すんだろうなぁ、という地元の方のボヤキも聞こえてきたけどね。

自分は別の道を使って迂回

狭い道を通っていたので山車を追い抜くことが難しく、別の道を使って前に出ようとする自分。

そのとき使った通りが、人の気配もまばらで静かだったからか、ちょっと幻想的だった。

先回り成功

ちょうど目の前に停車

このとき、停めようとして前輪が跳ねたような…

一瞬、ヒヤッとしたが、大きな事故はここでもなし。

こうして先回りをしては目の前を通り過ぎる様を撮影し、追い越されてはまた迂回して先回りをして… といったことを繰り返していた。

その度に自分も走っていたので、結構疲れることをやっている。

なんだかんだ興奮していたので、疲れたという自覚はなかったが。

そのうちクランクのある突き当り(建物がある)へ

前進した末に2連続コーナーのある曲がり角にやってくる。

そこは突き当りで旋回時に大梃子を使えないので「迫り上げ」という方法で方向転換することになる。

前輪を「迫り上げ台」という滑り台みたいなものに丸太やハ梃子を使って乗せて、前輪が浮いている間にヨーイング用の地車を下ろし、心棒を通して旋回させることになる。

前輪を浮かすまでは違うが、浮かせてからは理屈は大梃子のときと同じだ。

ちなみに上手くいきそうにないときはジャッキを使うこともある。

なにせ狭く、ここもまた大きな見せ場の一つだから、お客さんも多く集まってくる。

みんなして一斉にスマホをかざしていたなぁ。

スマホを通してみるとよく分かるこの込み具合

狭いところに人も集まっているからギュウギュウしている。

っていうか、スマホの方が写真としてきれいな気がする。

そりゃみんなスマホで撮るわね

現代ではこのスマホの明かりも夜の祭りの風景の一つになっていると思うのは自分だけだろうか?

停車して頭(かしら)の姿も

若衆頭の背中がかっこいい。

ここで慌てず少し時間をとって談笑なんかもしながら方向転換の準備をしていた。

ちなみにもうこんな時間

夜中の3時前だ

このときが一番寒くて、パーカー姿の自分はずっと凍えていた。

ダウンコートを着ているお客さんを目にすると羨ましくなったし、自分の考えの甘さを悔やんだりもした。

ただ、そんな寒い中でも半袖姿でいる方もいたので、なかなかカオスな風景だった。

方向転換ではこんな道具も活用

「止梃子」だ。

旋回以外でもデカ山を止めるときに使う梃子だ。

停止場所や緊急時に差し込んで止めるわけだけど、5メートルくらい押し戻されるらしい。

危険が伴うので熟練の腕が必要となる。

そんなもので止梃子専用の人もいる

これまた勇気がいる仕事だ。勇者みたいな人だ。

引っ張って旋回

地車を下ろしてヨーイング回転ができるようになると、綱元の人が綱を横回転用に車輪にかけ直し、こうして一斉に曳いて旋回させることになる。

女性陣もしっかりと引っ張っていた。

旋回させ終わると大梃子を使って前輪を浮かせ、また地車を引っ込めさせる

曲がり角では大変なことを何度も繰り返す。

そして少し前進して二連続旋回の二回目の方向転換

もちろんここでも大梃子は使えない。

こうして引いて見ると迫り上げ台に前輪が乗っかっているのがよく分かる。

また曳いて旋回

後輪に梃子を差して回転を調整している人たちも大変だ。

曳き手との息も合わないと危険なので、この瞬間は怒号に近い激も飛ぶ。

旋回後はまた大梃子の準備

またまた地車を引っ込めさせるためだ。前輪を浮かす必要があるのだ。

こうしてみると緊張感、伝わる。

大梃子に乗っている人たちは楽しそうでしたけどね

男ばかりで密着して乗るので「どこ触ってんだぁ!」という声が聞こえたときには自分も思わず笑ってしまった。

前進、停車、前輪浮かせて地車を取り出して旋回、前輪浮かせて地車を引っ込めさせてまた前進…

こんなことを何度も繰り返して、狭い町中を進み、目的の大地主神社へと向かうのである。

この二連続旋回のクランチを抜けると、一旦、1時間近い休憩を取ることになった。

綱元の人も綱をいったん片付けていた

食べ物なんかが配られ、若衆たちや一緒に曳いているお客さんもエネルギー補給となる。

撮っているだけの自分は、一旦ここで駐車場の車に戻り仮眠を取ることにした。

地主神社までまだまだある。朝の7時くらいまでかけて到達することになるので、休めるときに休んでおこうと思ったのだ。

車内に到着したのはこんな時間だった

4時前だ。

気温計は11℃を差していた。体感ではもっと寒かった。

 

夜も明けて大地主神社

5時くらいから朝山は再開される。

仮眠を取っていた自分は…

寝坊した。

目が覚めたら朝5時を数十分過ぎていた(50分くらい過ぎていただろうか)のだ。

慌てて起きて、ふたたび町中に戻っていったら、すでに木遣衆の方々の声が響いていた。

合流できたときにはデカ山はもうこんなところに

マキデンキがある「鍛冶町三差路」のところにいたのだ。

クランクがあるので再発進してからすでに2度の方向転換を終えた後だった。

自分、やらかした…

もう朝だね

すっかり夜もあけている。

背中に「山」を背負った鍛冶町の人たちの姿もあるし、お客さんも夜より増えているような気がした。

キッズたちもいるし、朝の方が参加しやすいのかも。

若衆や曳き手の人たちもまだまだ元気

残す辻回しはあと一回なので、ラストスパートといったところか、妙なテンションの高さを感じた。

若いお姉さんもビール片手に曳く

いやぁ、これぞ祭りって感じがする。

戻ってきたのだ、通常開催の青柏祭が。

さらば、コロナ禍!

祭りが楽しい!

寝起きだっていうのに、自分も引き込まれるように変なテンションになっていた。

当たりそうで当たらない

この間隔も「好調!」って感じがした。

皆さん、精度も上がってません?

ここで朝山の最後の辻回し

この小さな鳥居がある前でまた方向転換をする。

ここで曲がってしまえば、あとは大地主神社へ一直線だ。

側面に回り込む

あらためて、デカい。

そして早朝だっていうのに…

キッズたちが何人もデカ山に乗っっている

子どもたちは朝早いよね。

低血圧の自分なんかよりも全然元気だ。

大梃子も入りましたぁ!

何度も説明するように、これで前輪を浮かせます。

このバランス感覚

楽しそうにやっているけど、これも落ちたら危険だ。

でも、落ちない。

朝に弱い普段の自分なら真似できないだろう。

振り返ると山を曳こうとするお客さんたちがスタンバイ

すげえ数だな、朝っぱらだっていうのに。

朝山、最後の辻回しだから参加しないわけがないわね。

なお、遠くの方に見えるデカ山はすでに大地主神社に到着している鍛冶町の山車だ。

鍛冶町は「宵山」といって5月3日の夜の9時すぎに出発し、その日の夜11時半ごろにはもう到着している。

今年は通常開催で曳き手の人たちも多かったから、早く着いたらしい。

横回転用の綱の掛け直しもOK

木遣衆もOK

後輪の梃子衆の方々もOK

それじゃあ、曳け!

ということで、みんなして綱を引っ張ると最後の辻回し。

今回もGIFではなく写真の羅列でその様を伝えたい。

晴天に映える辻回しよっ!

これぞデカ山だ!

デカ山が戻ってきた!

撮りながら、自分にはそんな感動があったよ。

しっかりこっち向いてます

朝山、最後の辻回しも無事クリア!

このあと地車を引っ込めさせて最後の曳行だ。

ラスト曳行のスタンバイの様子

カメラを持っている自分は曳く訳では無いが、曳き手の気持ちを少しでも味わいたくて、スタンバイしているようなポジションで撮影。

こんな感じで皆さん、待っているのだ。

綱元の方も準備OK

小さな子供も、女性だって、みんなして曳くぞ!

曳いた!

なんか人指し指を立てながら引いていた人が多かった。

山車も、朝山最後の前進!

木遣衆もノリノリだ

ああ、でもいったん方向を微調整

神社の敷地内で2台の山車を並べるには少し角度を変えて入っていく必要があるため、梃子掛の方々が柄の付いた梃子(中梃子、脇梃子)、そして止梃子を持って前進する山車の前輪に挑んでいた。

これもこうしてあらためて見ると危険で怖い。

方向が変わると…

一気に

イン

鍛冶町の山車の側に寄せて停車だ。

デカ山が晴れた朝に大地主神社に奉納された。

青い朝の空にほんと映える。

深夜1時から始まった府中町の曳山行事がなんで「朝山」というのか、このときよく理解した。

 

最後の唄と舞も聞く

見上げるとこの近さ

この下で若秀や曳き手のお客さんたちが円を描くように集まってくる。

止めたあとの木遣り唄

そして舞が始まる。

朝山がスタートする前にも舞っていたが、終わったあとにも締めの舞がある。

舞が

泣ける

これが朝山のエンディングなだけに泣けてくるくらい胸に染みてくる。

七尾は祖母の家があったところだが、自分のルーツを感じ取ってしまうのか、しんみりとしてしまう。

周りでみな手拍子もとっているのだけど、自分も自然ととっていた。

自分はこの最後の木遣り唄と舞がものすごく好きだ。

 

感想

府中町の朝山、途中で寝坊した時間帯もあるけど、最後まで追いかけられた。

締めの舞は何度見ても聞いても心震えるものがあって、それまでの疲れも洗われたような気がしてくる。

これを聞くために深夜0時から追いかけていたんじゃないかとすら思えてくる。

もともとはアニメ「君は放課後インソムニア」の影響で夜更かししてやろうと今回朝山を見に来たわけだけど、夜を越え、朝を迎えて目的地にたどり着くとインソムニア不眠症)なんてものでは語れない興奮と心のデトックスがあった。

なんなら、この日だけは皆さん全員インソムニアで、その憂さを晴らしているんじゃないかと思えてくるくらい夜中の活動にエネルギーを感じた。

また、朝山は夜と朝、両方の時間帯のデカ山を見れる点も、撮る側としては面白かった。

もちろん、その分、夜中から動き回ることになり、それこそ普段から不眠症で夜型の人じゃないと肉体的に慣れてなくて大変だと思うけど、大変だけにカタルシスもあった。

朝日も胸に染みてくる

夜を超えた開放感を、府中町のこの「朝山」では味わえるのだ。

今回、これを見に行って本当に良かったと思う。

 

なお、気分が高まっていた自分はこのあと、7時から始まる魚町の「本山」も追いかけていた。

本山が終わるのが昼の12時くらいなので、結局、現場に12時間以上いたことになる。

その時の様子はまた機会があれば、後日記したい。

そして本山を見終わったあとに…

「君ソム」の漫画複製原稿&アニメ複製原画展も見てきた

七尾市立図書館内の1スペースで行われていたので見てきた。

祭りの期間に合わせて行われていたのだ。

これを見ておかないと夜更かしする「朝山」は語れない気が、手前勝手にしたのだ。

いやぁ、満足、満足。

このアニメ(原作は漫画)、七尾市の町並みがどんどんと出てくるので、七尾にもルーツを感じる石川県人としては描かれる七尾の背景を見るたびに胸熱となってしまう。

朝山を追いかけ終えたあと、いつか聖地巡礼もやりたくなった。