11月5日まで延長開催されていた奥能登国際芸術祭2020+で目にした作品の紹介、第四日目その12だ。
今回は旧粟津保育所で展示されていたカールステン・ニコライ氏の「Autonomo」と「図書室:カールステン・ニコライが推薦する子供の本」の写真をまとめたい。
旧粟津保育所へ
カールステン・ニコライ氏の作品が展示されているのは旧粟津保育所だ。
2017年の3月に閉所となっている保育所だそうだ。
奥能登国際芸術祭では旧保育所での作品の展示も少なくなく、保育所が次々と閉所となっている現実が見えてくる。
これも過疎化が原因なんだろうが、寂しい話だ。
旧粟津保育所へ
こちらは正面玄関の様子だ。
作品は建物の奥の方にある遊戯室に展示されているので、ここから入るわけではない。
いったん裏へと回る必要がある
駐車場から見える建物の角にちゃんと案内板や幟旗も置かれていたので、そう迷うことはなかった。
中庭の方に出る
ジャングルジムやスベリ台がまだ残っている。
まだまだ使えそうな遊具であり、建物だと思うのだけど、子供の声が聞こえてこないのがやはり寂しい。
なにやら作品が2つあった
案内板が2つ並んでいる。
ガイドブックには「Autonomo」の一つしか記載されていなかったが、現地についてみると「図書室:カールステン・ニコライが推薦する子供の本」という作品もあるということでちょっと驚いた。
受付はこちらから
廊下から中庭に通ずる出入り口の一つにこうして受付が設けられていた。
自分が足を運んだときに係の人の姿が見えなかったのだが、作品がボールを使ったものなので、係の人はそのボールの回収なんかをしなければならず、こうして一時的に受付の席にいないことがままあるようだ。
まあ、展示されている遊戯室はここからすぐ側なのですぐにやって来てくれる。
この入口の正面にあるのが「図書室」で、左に曲がった先にあるのが「Autonomo」だ。
どちらから鑑賞しても構わないので自分は「Autonomo」のある遊戯室の方へ先に向かった。
10番 カールステン・ニコライ「Autonomo」
受付から振り替えると遊戯室がもう見える
すでに作品の一部である金属の円盤が見えている。
しかも、ここからでも何かが発射されている音が聞こえてくる。
10番だ
カールステン・ニコライ氏の「Autonomo」だ。
作者のカールステンさんはドイツの人で科学や数学に影響を受けながらも、アートの多様なジャンル間の境界線をぼかす取り組みを行っているんだとか。
こうした芸術家としての活動の他に、「Alva Noto」という別名義でミュージシャンとしても活動している。
ジャンルとしてはテクノ系の音楽だ。映画「レヴェナント: 蘇えりし者」の音楽を坂本龍一と共作したのもこの方だ。
部屋に入ってみた
金属でできた円盤が数枚吊るされていて、床には黒いボールが散乱していた。
何だこれは?と眉をしかめる人も多いと思うけど視覚的にはこれだけの作品だ。
ただし、見ていると右奥の衝立の裏から黒いテニスボールが勢いよく発射されるので、「運動」も追加される。
さらには発射されたボールが壁やこの金属の円盤に不規則に当たって音が鳴るので「音」も加わる作品である。
テクノ音楽(ノイズ系音楽)っぽい発想だ。
なんだったら「音」を楽しむ作品だと思ってもいいかもしれない。
自分などはそう思った。
そしてそれは「写真泣かせ」の作品でもあるので、さてどう撮ろうかと悩まされもした。
ワイヤーが張ってある
このように境界線を設けられているので、円盤の方に近づくことはできない。
そりゃ、ボールが不規則に飛んできて当たると痛いので、この措置も妥当だろう。
写真としてはさらに泣かされますが…
もちろん衝立のほうにも近づけない
衝立の裏にピッチングマシーンのようなものが隠されていて、そこから飛ばしているんだろうと思うのだけど、確認は出来ないのだ。
球が発射されるタイミングも不規則で、いつ飛んでくるのかわからないのでボールをカメラで追いかけるのも難しい。
ただ、難しいからと言って挑戦しないわけでもない。
視覚的に撮るものが少なく、音も写真じゃ伝えられないとなると、あとは「運動」を捉えるしかないということで、カメラの連写機能を使ってかなりのスピードで動く黒いボールを追いかけてみたのだった。
GIFにしてみた
いつ発射されるかわからないし、球のスピードも速いし、円盤に隠れるは、円盤に当たって変なところに飛んでいくはで、連写にしてもその弾道を追うことはなかなか難しかった。
自分でも、何枚撮ったかわからない。何回撮っても失敗ばかりしていた。
もう意地になって、まともに弾道を追える画が撮れるまで連写していたのだからカメラの容量の無駄遣いだろう。
でも、そうやって撮りまくって、跳ね返る音を何度も聞いていると、不規則性の中に面白さも発見する。
毎回跳ね返り方が違うし、跳ね返り方が違うと音も違うしで、一球一球が一期一会だと思えてきた。
なんだかんだとこの作品を楽しんでいた自分がいた訳である。
球を打ち尽くすと回収に来る受付の方
こういう光景も微笑ましかった。
跳ね返ってきた黒いテニスボールは、ワイヤーを張られた外側、つまり自分たち鑑賞者側の方にも飛んでくることがあり、それを避けるのも楽しかった。
また、こちら側に転がってきたボールを拾い、投げて円盤にぶつけて音を鳴らしていた人もいた。
そういう楽しみ方も許されるなら、この作品、もっといろんな音を奏でられたんじゃないかと思う。
楽しみ方の幅が広がりそうな、伸びしろのある作品だと思う。
「図書室:カールステン・ニコライが推薦する子供の本」
ニコライ氏の作品はもう一つある。
受付のすぐ側の一室に氏が推薦する子供用の本が並べられていた。
こちらの部屋
テーブルの上に数冊、棚の上に数冊。
主に絵本が並べられていた。
厳選されているのか数はそんなに多くない。
もちろん手にとって読むこともできる。
飛び出す系の絵本もあれば
台形の形をした変わったものもあった
海外のものも一部あったけど基本的に日本語訳されたものなので気楽に読める。
個人的にはコレが懐かしかった
「はらぺこあおむし」だ。
子供の頃に家にあった。
日本語版が45周年だそうで、自分の歳を感じると同時にこれって元々は海外の絵本だってことにこのとき初めて気づいた。
これを読んでもらっていた幼少の頃は、日本語版だとか、作者が外人だとかまったく気にしてなんていなかった。
そんな懐かしさから、これだけは中を開いて最後まで読んでしまった。
果物の絵に一個ずつ丸い穴が空いていたページが特に懐かしかった。
こう懐かしがりながら、でも結末を覚えていなかったら、最後まで読んだ時、新鮮な感動があったりもした。
絵本、大人にも響くものがある。
感想
作者のカールステン・ニコライさん、絵本にしても、球が飛んでくる「Autonomo」にしても子供に向けた作品を作っているなとの印象がある。
展示場所も旧保育所だしね。
でも、仮に子供向けだとしても、どちらも大人の心にも触れるものがあった。
絵本は懐かしさがわかりやすいが、「Autonomo」もやんちゃにもこちらからボールを円盤に投げて音を鳴らしてしまったりと子供っぽい反応を示したときには、やはり少年期の懐かしさが込み上げてきたものである。
こんな近くまで転がってきたら拾わずにはいられないし
投げずにはいられなかった。
ええ、自分も投げました。
気がつけば童心を取り戻していたのだ。
意地になって連写でボールの行方を写真で捉えようとしたのだって、子供っぽさ全開だ。
視覚的に捉えるだけでは味気がない作品と感じるかもしれないが、子供のように独創的に自分なりの楽しみ方をプラスすると、作品の見え方も全然違ってくる。
いうなれば「鑑賞の工夫」をオススメしたい。そう思えた作品だった。
偉そうに言っているが「それは自分が子供っぽいからだろ」と、お気付きになられた方は… 大人だ。