初心の趣

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廃駅の旅24 「恋路駅」

廃れた駅より、海岸にトロッコにお酒…

廃駅の旅、24回めだ。

今回は能登町にある恋路駅に行ってきた。

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目指すは恋路海岸

のと鉄道廃線を中心に使われなくなった駅をめぐる廃駅の旅もこれで24回目である。

能登線を穴水方面から北上し、前回は能登町にある「松波駅」に立ち寄ったが、今回はその隣「恋路駅」に向かった。

能登線の駅の中で能登町にある最後の駅となる。

能登町編のラストということだ。

恋路駅は、その周りが恋人たちの名スポットとして有名なところで、道を走っていると方向を示す看板もよく出ているので向かうのに迷うということはそうない。

とりあえず地図

こんなところにある。

面白いのはグーグルマップ上ではそれまでの廃駅のように「旧のと鉄道~駅」といった過去のもの扱いされておらず、今でも堂々と「恋路駅」のみで表記されている点だ。

廃駅のはずなのに不思議であるが、いまでも「駅」として活用されているのである。

その点は後で記すとして、まずは観光スポットとして有名な恋路海岸へと向かった。

位置として駅の正面にある海岸なので、ここへ向かって、ここで駐車してしまえば駅にも行きやすいのである。

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こんな看板が見えてくる

国道249号線から逸れて、より海沿いの内浦街道を走っていると「恋路ロマンチックパーク」と書かれた看板が見えてくる。

すごいネーミングだと思う。

自分の頭の中ではC-C-Bの「Romanticが止まらない」という曲がふと流れてしまった。

この数メートル前には「恋路浜」というバス停もあるので見つけやすいだろう。

矢印に沿って曲がると…

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海岸がある

駐車場もあるし、シャワーが出るところもあるし、ビーチである。

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ボートが打ち上げられていた

自分が訪れたのは6月の上旬(海開き前)でまだ泳いでいる人はいなかったが、代わりにこうしてボートが浜に打ち上げられていた。

誰のものかはわからない。

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船尾の方に回ってみると…

遠くに島と鳥居が見えた。

これ、弁天島と呼ばれる島で、いまは潮が満ちていて無理だが、潮が引けば道が現れて歩いて渡れるようである。

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近いようで遠い

渡れないと思うとなんだか遠くに感じる。

弁天島はこの海岸の象徴のようにもなっていて、夜になるとライトアップすることもあるそうだ。

ロマンチックだ… (この言葉、なんか恥ずかしい…)

ところでなんでロマンチックなのかと言えば、この海岸には源平戦乱時代の物語があるからで、若い男と娘が人目を盗んでこの浜で逢瀬を重ねていたそうである。

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バス停の近くにはそんな二人の像もある

助三郎と鍋乃という名の二人だそうだ。

でも、この鍋之に恋する別の男(源次)がいて、その源次という男の嫉妬による謀らいのせいで助三郎は帰らぬ人になり、鍋之もすぐに後を追って海に身を投げてしまったという悲しい結末を迎えている。

このことを悔いた嫉妬の男・源次は仏門に入り、諸国を修行して地元の観音堂に戻ってくると、若き日の過ちを省みて逆に男女の仲を取り持つようなこともするようになったようで、いつしか「縁結びの観音堂」と呼ばれるようにもなったんだとか。

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側には観音像も立っていた

その観音堂に参拝すると二人は必ず結ばれるとも言われていた。

そんな逸話からこのあたりを「恋路」と呼ぶようになったそうである。

ちなみに現代では「ラブロード」とも呼ばれている。

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海岸には他にもこんな鐘も

現代的な観光スポット、パワースポットとなっている。

やはり「ラブロード」である。

 

ロッコに乗りたい

海岸がインパクトありすぎて、廃駅の旅をしていることを忘れそうになったが、目的の駅は浜のすぐ近くである。

先の鐘から内浦街道を挟んで山の方へと目を向けると、もう見える。

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はい、このとおり

大きく駅名が掲げられている。

それだけではなく「歓迎」とも書かれてあるから、現役感たっぷりである。

行き方は、道路を渡って、田んぼの脇の道を進んでいけば辿り着ける。

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ちゃんと案内板もあるので心配無用だ

この案内板もまた新しい。

廃駅感を全く感じさせないのは、ここがまだ現役だからである。

といってものと鉄道の鉄道が走っているわけでは当然ない。

案内板の下に描かれてあるようにトロッコが走っているのである。

「奥能登ロッコ鉄道」、その名も「のトロ」が乗れる駅なのだ。

この近くにある奥能登最古の酒蔵「宗玄」さんが廃駅と廃線を再利用してトロッコ鉄道を2013年に開通させたのだ。

ロッコ乗りたい!

廃駅の旅を始めた当初から一番楽しみにしていたところが、実はここだったりする。

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コロナ禍で運行中止になってましたが…

自分がやってきた6月上旬、コロナ禍のためトロッコ営業していなかった

そんな予感はしていたけど、やっぱりだった。

人混みを避ける意味でも廃駅の旅をしているはずなのに、こんなところまでコロナ禍の魔の手が伸びていた。

コロナ禍をほんと、恨む…

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気を取り直して駅へ

まあ、そんなときもあるさということで、駅だけは見に行こうと矢印の指す方へと歩いていった。

ちょっとだけ山の中へと入っていく感じがあって、獣を警戒してしまう自分がいたが、距離はそんなに長くないので神社の境内を歩いていくような心地で進んでいった。

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ちょっとだけ急な階段あり

木々に囲まれて階段あり。

ここを通るとき少年時代の懐かしい田舎の山の匂いがした。

木くずと蜜が混ざったような、カブトムシを捕りに行った記憶を呼び覚ます香りだ。

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登った先にも看板あり

のトロホームを示す案内板だ。

これによるとトンネルまでの距離、270メートルと書かれてあった。

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拡大

宗玄さんは旧能登線のトンネルの一つ、その一部を利用して酒の貯蔵も行っている。

隧道蔵(すいどうぐら)と呼ばれている。

酒のトンネル貯蔵は北陸では初らしい。

「隧道蔵オーナー倶楽部」という制度もあって、オーナーになると蔵の中へも入っていけるそうなのだ。

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到着

恋路駅に到着した。

駅看板が残っているけど、次の駅の名前が旧能登線のものではない。

右の松波はあっているが、左が「宗玄」になっている。

ロッコ用に「宗玄駅」が新設されているのだ。

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ホームには待合室のような屋根付きのベンチあり

すべて木製かと思ったら金属も使われていて真新しい。

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こっちから見るとよりわかりやすい

屋外アートみたいでおしゃれだ。

明らかに廃駅になった後、トロッコが作られたときに新調されたものだと思う。

半分はベンチになっていて、一部、記帳台のようにもなっていた。

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駅ノートあり

色々と書き込めるのだ。

思い出づくりの場所だ。

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こういうのも貼られていた

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他にはこういうのも

このマスコットの名前も「のトロ」というようで、近くにある宗玄に行くとぬいぐるみやタオル、おちょこといったグッズも売られているらしく、さらには「のトロ」が描かれたカップ酒なんかも存在しているようだ。

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落書きも結構多い

ノートに書かずに壁なんかに書かれてある文字も多い。

実は海岸の鐘にも同じように思い出や記念を記した落書き(と言っていいのかな?)がいくつも書かれてあった。

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こういうものにも

左が鵜島になっているのでこちらはおそらく能登線時代のものかと思われる。

こういうものにも色々と書き込まれている。

この辺りの一つの文化みたいになっているのだろうか。

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ホームの下にはもちろん線路もある

ロッコが走るので線路もちゃんと残っている。

奥に見えるのが隧道蔵のあるトンネルだ。

そのトンネルの手前に宗玄駅もあるのだけど、宗玄駅に乗車口がないのでトロッコに乗っていく必要がある。

でもトロッコが動いていないので、たどり着けない…

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眺めるだけにした

トンネル前に木製のデッキのようなものが設けられているのがわかるだろうか?

そこが宗玄駅だ。

レールが繋がっているから、映画『スタンド・バイ・ミー』のように線路の上を歩いて行くことも物理上できなくもないけど、法律上アウトな可能性があるので自制した。

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海でも眺めるか

のトロが動いていれば、トロッコに乗りながら恋路海岸を眺められた。

仕方がないのでホームから眺めたら、それはそれで結構いい眺めだった。

田んぼも目の前にある、この田舎感がいい。

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ついでにこういうのも撮った

これはホームから松波駅側のトンネルを撮っている。

恋路駅のホームのこちら側って、線路とホームの高さがほぼ一緒なので、足元にカメラを置いてシャッターを押すとこんな画が撮れた。

ファインダーを覗いていないのでほとんど運任せで撮っているが、それがまた楽しかった。

ロッコには乗れなかったが、なんだかんだと楽しんでいる自分がいた。

 

宗玄酒造にも立ち寄った

恋路駅のホームの張り紙に「のトロ」のグッズが近くの宗玄酒造で販売されているという案内の他に、恋路駅の切符も買えるという案内も貼られていた。

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それがこちら

旅の記念としてこれは欲しいと思ったので、近くにある宗玄酒造にも立ち寄ることにした。

張り紙によると海沿いの県道(内浦街道)を北へ約150メートルのところにある。

ほんと遠くなく、何だったら歩いても行ける距離だ。

面白いのは、恋路駅が鳳珠郡能登町にあるのに、宗玄酒造は珠洲市にある点だ。

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越境するのだ

能登町最後の廃駅の旅だと思っていたら、早くも珠洲市に突入してしまったのである。

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余談だが道中こんなものも見つけた

内浦街道を北上していると、海側に線路の一部を発見した。

何のために置かれてあるのか不明だ。

海からレールを使って何かを水揚げするのに使ったのだろうか…なんてことを想像してしまった。

そういった空想もしながら海沿いを歩く(北上する)と…

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こんな看板が見えてくる

宗玄だ。

250年も続いている奥能登最古の酒蔵だ。

自分はお酒をほとんど飲めなくなったけど、トロッコを開通させた十一代目社長の徳力さんという方が、自分が子供の頃、近所(金沢市)に住んでいたのでこの酒蔵には勝手ながら親近感を抱いてしまう。

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こちらが宗玄酒造

この珠洲市のお店に来たのは今回が初めてだ。

ちょうど父の日も近かったので、それ用のお酒も買おうと思って中へと入った。

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珠洲って能登杜氏発祥の地らしい

初めて知った。

県内でもまだまだ知らないことばかりである。

店内でお店の方に色々と教えてもらい、お酒も一つ購入して、この旅の思い出として恋路駅の切符も購入した。

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本当に切符だ

買った際、店内で撮らせてもらえた。

前回の松波駅のときに記したけど、能登線が現役のときは無人駅であった恋路駅の入場券を駅舎のある松波駅で買うという人が結構いたらしい。

それくらい恋路海岸が観光スポットになっていたわけだ。

いまではこうして宗玄さんで買える。廃線になっても切符を買える文化が残っているのがエモい。

 

感想

以上、現在の恋路駅である。

廃駅となった後もトロッコが走る駅として現役で活躍しているところであった。

目の前には恋人たちに人気がある海岸があって、近くに地元酒蔵の「宗玄」があって、そこがまたトンネルを酒蔵として利用していたりと、話題にも富んだところだ。

おかげで駅周辺を色々と回ることができた。

廃駅の旅が、より旅らしくなったのが自分としても嬉しい。

旅を始めた当初から、毎回こういう感じで周辺を歩いて、駅以外の、それこそ廃駅そっちのけで色んな発見があれば良いと考えていたものである。

現実は、駅以外何もないなんてことも多いのでなかなか上手く行かなかったが、今回はその当初の理想を形にできた気がするので満足感も一入であった。

これまた廃駅の裏旅として、「駅そっちのけ、駅周辺しか見ない廃駅の旅」というのもやってみたくなったほどだ。

ロッコに乗れなかったことは悔やまれるが、その点もまたいつかなにかの機会にリベンジしたいものである。

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宗玄のお酒、美味しかったです

父の日に宗玄の「純米大吟醸 Samurai Queen」を送った所、好評だった。

後日、自分もお猪口に半分ほどもらって味見してみたが、飲みやすさに驚愕。

自分の中で車多酒造の「天狗舞 山廃純米大吟醸」を超えたと思ったほどだ。

自分、酒はもう飲めなくなっているけど、ちょこっとの味見はまだまだ好きなんだなと、どうでもいい発見を自分の中でもしてしまった。

トンネル内の酒蔵も見てみたいし、オーナーになるのもアリかな、なんてことも浮かんだ。

お酒飲まないから一人じゃオーナーになりにくいですけどね。

誰か巻き込める人を見つけようかな。なんてこともふと思う。