石川県の中能登町には天日陰比咩神社(あまひかげひめじんじゃ)という二千有余年の歴史を持つ神社がある。
先日、そこに足を運んだところ逆さ狛犬がいたので紹介したい。
能登國二ノ宮 天日陰比咩神社へ
天日陰比咩神社は中能登町にある。
二千有余年の歴史を持ち、能登國二ノ宮だ。
二ノ宮とは神社の神格のことで一ノ宮の次にあたる。
酒造りの祖神を祭り、お酒づくりを伝承していることでも知られる神社で実際に「どぶろく」というお酒も製造している。
天日陰比咩神社だ
ご覧のように鳥居の前に「杉玉」もぶら下がっていた。
杉玉は「酒林」(さかばやし)とも言う。よく酒蔵や酒屋の軒先にぶら下がっているものだ。新酒が出来たことを知らせる杉でできた玉で、最初は緑色をしていて吊るしているうちにこういう茶色になる。
境内でお酒を作っているのだ。
鳥居の様子
低くはないが高すぎるでもない鳥居だ。
奥に見えるのが本社だ。
鳥居からの距離もそう離れておらず、境内も広すぎない。
木々が多いことからわかるようにこの神社は山の方にある。
珍しいものでは横に伸びている木もある。鳥居の左隣に見えるものがそれだ。
横に長~く伸びてます
「いろは楓」と呼ばれているものだ。
その樹齢は600年余りで、枝が横に10メートルくらい伸びている。
龍の形にも似ていることから「龍髭楓」(りゅうしゅかえで)とも呼ばれているそうだ。
さて、そんな鳥居のそばにさっそく逆さ狛犬がいる。
鳥居の写真でもチラッと写っているその狛犬がどこにいるかおわかりだろうか?
柱の陰にいる
こっちにも
影にいるので鳥居を正面にするとそう見えるものではない。
鳥居をくぐってすぐ足元にこやつらがいたので、正直驚いた。
ウエルカム逆さ狛犬だ。
逆さ狛犬を撮る
逆さ狛犬と言ったら金沢あたりでよく見られる。
それがこの能登の方、しかも能登國二ノ宮で見られるとは意外であった。
改めてそのフォルムを確認したい。
まずは左側の一体
口が開いているので阿形だ。見事に後ろ足が蹴り上げられ、足の裏も天を向いている。
全体的に小ぶりで、犬でいうと中型犬くらいのサイズだ。
金沢で見られる逆さ狛犬もだいたいこれくらいの大きさだった。
お顔
ザビエルのような頭頂部で耳が垂れている。これも金沢で見られる逆さ狛犬とよく似ている。
体の模様
こちらも金沢でよく見られた渦巻き系の模様が散見される。
逆さ狛犬って珍しいものだけあってルーツが同じなのだろうと思わせる。
というか台座に「金沢」の文字
台座におそらく製作者であろう「水口清太郎」という文字が彫られており、その横に、少し欠けていて見づらいが「金沢」と読み取れる文字も彫られていた。
「金沢」のものと似ているのも当然だ。
右側の一体もチェック
こちらは少し胴体が斜めになって、顔の向きも胴体に対して角度がついているからか、より躍動感を感じさせてくれた。
頭にも角がある。
尻尾は顔より大きいながら、綿菓子のような柔らかさを感じさせる可愛らしい意匠だ。
その横顔
歯を見せているのでこちらも口が開いているのかと思ったら、よく見るとその歯はしっかりと閉じている。
カテゴリーで言ったらこちらは吽形にあたるのだろう。
歯を食いしばっているようでより力強さが伝わる。
ちなみに後ろに写っているのは自分の車だ。この神社、そんなに大きくないところだけどちゃんと4,5台停めれそうな駐車場がある。
後ろ足の様子
逆さ狛犬を観賞する場合はこの後ろ足もチェックしたい。
足の裏が丸見えの狛犬なんてそういないからだ。
こちらのものは肉球が彫られておらず、カサカサ踵とは無縁のようなツルツルとしたデザインだ。
犬というより人間の足の裏に近いと思ったのは自分だけだろうか?
金沢風の逆さ狛犬ながら、作る人、作られた個体でところどころ微妙に違うものだということを改めて知ることの出来た出会いであった。
境内の他の狛犬もチェック
この天日陰比咩神社、鳥居をくぐってすぐのウェルカム逆さ狛犬のほかにも狛犬がいる。
それも自分が確認した次第では2対いた。ついでなのでそれらも紹介したい。
ずんずんと境内を進んでいく
奥の本社の前に狛犬が一対いるのがここからでも見える。
それに向かって進んでいくと道中に手水舎も見えてくる。
龍の形した手水
いかつい龍だ。
蜘蛛の巣をまとっているのは愛嬌だが。
この龍の手水の側にはさらにこんなものもある。
「鎮座石」というもの
この石、木札によると天狗の足跡が刻まれているのだとか。
ズームアップ
石の表面手前の大小の靴の裏のような跡がそれだそうだ。
天狗って高い下駄を履いているイメージがあるけど、そのあたりは気にしないでおこう。
さらに、この鎮座石の向かいにはこんなものもある。
「みくりや」と書かれた小屋だ
ここにも杉玉が軒下にぶら下がっていた。
どうやらこの小屋の中で「どぶろく」というお酒を作っているようだ。
「どぶろく」とは醗酵だけさせて濾していない酒のことで日本酒ながら清酒とはまた違うものだ。にごり酒のようで、それともまた違う種類の酒だ。
小屋の前には結界が張られていたので関係者は立入禁止なのだろう。
これらの前までやってくると本社ももう目の前だ。
=狛犬の目の前だ
阿形も吽形もこっちを見ている。
ともに「お手」のポーズをしているようだが、いわゆる子連れ狛犬だ。
子連れの吽形だ
どうだろうかこの勝ち誇ったような表情は。
口角の上がりっぷりも余裕の笑みとばかりだ。
子供もどこか余裕
見様によってはこちらを見下したような表情でもある。
阿形はどこか怒っている
ナメたやつはすぐにシメてそうな、いつもの台詞は「この軟弱者が!」と言っていそうな、そんな形相だ。
蹴鞠を持っているのでサッカーの闘将にも見える。
背中で語る闘将
渦巻状の毛が流麗ながらいかつさも醸すという不思議な魅力の背中だ。
子連れ&手毬の狛犬は石川県内でもよく見かけるが、こちらの台座を見てみると…
「東京」と書かれてあった
彫った人は「町口喜太郎」という方だろうか。
それとも奉納したのがこの方なのか。
なぜ東京なのか。東京から運ばれたのか、東京の技師がやって来て彫ってくれたのかいろいろと謎だ。
昭和三十六年四月とあるので60年くらい前のものだ。誰か知っている人、いないだろうか?
なお、この阿形のちょうど背後の方にもう一つ社がある。
そこにも狛犬がいたのでそちらも撮っておいた。
こちらがその社
石でできた鳥居を見上げてみると「天神稲荷社」と書かれてあった。
稲荷神社だとだいたい狛狐がいるものだけどこちらでは狛犬がいた。
まずは社の中を撮影
なんか人形みたいなものがいっぱい吊るされていたので思わず撮った。
いわゆる「つるし雛」というものだ。
なんでも3月20日に若い男女らがインスタ映えするように飾り付けを行ったそうだ。
インスタ映えと言う言葉を神社でも聞こうとは…時代だ。
インスタ!
映え!
どうやら自分の腕では映えさせられない…
気持ちを改めてこの社の狛犬を紹介する。
吽形と
阿形
見た目は岡崎型に近いだろうか。
当神社の3対の中では一番年季が入っているように見えた一対だ。
台座にも昭和三十一年九月と書かれてあった。
この顔の汚れっぷりがステキ
苔か白カビか、その両方か。首周りには赤茶びた色もある。
この風雪に耐えた貫禄がシブい。
比べて腹回りは細め
世のおじさん方は貫禄がついてくるとお腹周りにも貫禄がついてきたりするものだけど、こちらの狛犬は胴体が細めで、そこだけ見るとどこかスポーティーだった。
顔も大きめ、腕も太めでこのシャープな腹回りなのでバランスがおかしいが、ほんと贅沢もなく色んなものに耐えていたという説得力はある。
最後に尻尾
背中で語ると言うより力強く燃えるように逆立つ尻尾で語るような狛犬であった。
珍しさで言えば逆さ狛犬が勝るのだろうが引けを取らない味わいがある。
感想
以上、天日陰比咩神社の逆さ狛犬、ならびにほか2対の狛犬の紹介だ。
子連れもいれば、苔をまとったものもいて楽しめた。
かつ派手な破損のない個体ばかりであったから、全体的にキレイであった。
そのキレイというのは境内の木々やその緑に溶け込んだ美しさでもある。
年季があってもその場と調和しているように見えるのだ。
日本の美というか、二千有余年の歴史を映しているようだと、勝手ながらそれら狛犬から自分は感じ取った。
「みくりや」を眺める狛犬
酒造りを伝承し、いまではここで「どぶろく」も作っているらしい。おかげで一回飲んでみたくなった。
最後に地図
この神社では「神主体験ツアー」というものも行っているらしい。その中でどぶろく作りも体験できるとか。
そんな話を聞かされるとまた足を運びたくなる。