市内主な36社を参拝しながらスタンプを集める「金沢お宮さんめぐり」をしていると、逆さ狛犬以外にも変わった狛犬を見かけたりする。
36社を無事すべて参拝し終えて、狛犬写真家を自称しようかと目論む自分が一番変わっているなと思ったのは、寺町にあった闕野神社の狛犬だった。
何が違うって色が違う。
寺町にある闕野神社
闕野神社だ
闕野神社はこう書いて「がけのじんじゃ」と読む。
自分は最初読めなかった。
お寺が密集している寺町にある神社で県道144号線沿いに写真の石柱を見ることが出来る。
十一屋から寺町に入ってすぐのところで、あの辺りはずっと商店や家屋が並んでいて駐車できるところがあまりないので、車で移動している者からすると気楽に立ち寄ることのできない神社だ。
自分も、今回の「金沢お宮さんめぐり」で初めてそこに神社があると知った。
いや、寺町のあの144号線は中学生時代に何度も通っていたので、鳥居そのものは絶対に一度は目にしている。目にしていながら、記憶になかった。失礼な言い方だが、それくらい目立たない神社だ。
当神社のことが書かれてある高札(案内板)
これによると「闕野」はもともと人の姓だったようだ。
ここには書かれていないが、以前(江戸時代くらいまで)は山伏金剛寺に勤仕(つかえる)していたそうだ。むかしは神仏習合が普通だったことが覗える。寺が多い寺町に鎮座したのもそういう繋がりがあるからかも知れない。
境内の様子だ
これまた失礼極まりないが、ご覧のように広くはない。
狛犬も、もう見えている。
狛犬をチェック
これらがその狛犬だ
おすわりタイプで赤瓦みたいな色をしている。
自分がこれまで目にしてきた狛犬は石で作られたものばかりだ。
そのため、どれだけ白く変色したり緑色の苔が生えていたりしていても、その基本の色はライトグレー系のものばかりだった。
特に屋外に置かれているものはそうであった。
神社によっては拝殿の奥に石以外の、例えば陶器でできていたりする狛犬を置いているところもある。色付きのものも少なくない。自分も何度か目にしたことがあるが、屋外にてこのように色の付いた狛犬を置いているというのはとても珍しい。
吽形の顔
耳は垂れ、吽形には角がある。口角が上がっていて、まるで笑っているような表情だ。
その目にはガラスのようなものも
もともと白目があったことも色から覗える。黒目はガラスのようなもので来ていて光を反射していた。
屋外にいる狛犬でこんな作りをしているものを自分は初めて見た。
阿形の口だ
深くはないが空洞のようになっている。
背中もチェック
鬣がさらさら、体表には逆上狛犬でもよく見られたナルト模様がある。その模様が背中の方で一部隆起している。
爪もチェック
足はやや細めで爪には怪物じみた鋭さがある。
爪が一本欠けているところに注目すると、表面は赤瓦のような色をしていても、中は違うようだとわかる。
この狛犬は何で出来ているのか気になる
爪の欠けたのを目にして、この狛犬が何で出来ているのかという疑問が湧いた。
その赤瓦のような色から最初は粘土でできているものかと思った。いわゆる陶器だ。
ところが、この狛犬の割れ目などを目にすると、どうやらそれも違うように思えてくる。
さらにわかりやすい前足の断面図
ちょうど破損していた前足だ。
どうだろうか? この断面を見る限り、自分には石で出来ているように思えた。
本体を軽く拳でノックしてみると、かなり硬い。感触もゴツゴツだ。
石川県には能登瓦という生地が固く締まった丈夫な瓦もあるので、「石です」とは言い切れないかもしれないけれど、瓦や陶器であるとも思えない。
ただ、こういうのを見ると粘土かなとも思えてくる
作者名だろうか「森良明」さんとある。「明治四十二」という年号に「六十翁」というのも読める。
この文字があまりに細くて、しかもサラサラっと書かれ(彫られ)すぎているので、粘土の柔らかい時に彫ったのかなとも思えてくるのだ。何より、楕円に「森良明」という印が、陶芸用の印鑑を思い出してしまってならなかった。
石のように硬い物質にこんなハンコを押せるのか、それともこれも彫ったものだというのか… はたまた石を土台に表面に粘土を塗って焼いたのであろうか… 謎だ。
ちなみに狛犬自体には「明治四十二」と彫ってあるものの、狛犬が乗っかっていた台座には…
大正五年五月とある
おそらく狛犬が作られた年と奉納された年が違うのだろう。
いろいろと不思議な狛犬だった。
余談・天狗の面
不思議といえば、最初の方に載せた高札(案内板)の写真に天狗の面についても書かれてあったとお気づきだろうか。
この闕野神社、開運厄除の天狗の面で知られている。
そのため「金沢お宮さんめぐり」のスタンプでも…
このとおり天狗だ
なんでも、むかし当神社の境内では「宵詣り」と呼ばれる人に呪いをかける行いが流行ったのだとか。境内のケヤキの木に無数の藁人形が五寸釘で打ち込まれていたと言うから恐ろしい話だ。これを残念に思った参拝者の一人が天狗の面をケヤキの幹と枝の間にかけて悪魔祓いをしたという。その天狗のお面が現代にも残っていて、昭和五十六年に豪雪で落下したそのお面を、開運厄除、災難除のお面として本殿に安置して信仰しているのだそうだ。
そんないわくつきのお面を…
撮ってしまった…
拝殿の奥にも狛犬がいるなぁとカメラを向けて罰当たりながら撮ってしまったら、その天狗のお面が写っていた。左の方に。しかも狛犬の方は光量を失敗して暗くて見えないのに…
この出来事は不思議を通り越して奇妙であった。
まとめ
以上、闕野神社とそこにいた珍しい狛犬の紹介だ。
金沢には逆さ狛犬以外にも古くて変わった狛犬がいる、その一例を示すことができたのではないだろうか。
結局、あの狛犬が何で出来ていて、どのようにして作られているのか疑問は残ってしまったが、伝説や逸話、奇談のたぐいのようにはっきりわからないからこそ印象に残るということもあるので、しばらくはわからないままにしておきたいと思う。
まあ、そう言いつつ、誰かが教えてくれないだろうかとも人知れず期待もする。
いずれにせよ、小さな神社でもそこにはそこだけの由緒や伝説や、変わった狛犬などもいるもので、それらに触れてみると意外な発見、意外な面白さがあるものだ。
今回、「金沢お宮さんめぐり」で改めてそのことに気づけた。
最後に真正面からの一枚を
むっちゃ目が合っている気がする。
よくよく観察して色々と調べたりもしたせいもあってか、生き物みたいに見えてきた。
不思議だ。