初心の趣

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「奥能登国際芸術祭2020+」をマイペースに回る第三日目その3(チェン・シー「珠洲のドリームキンダーガーデン」)

まん延防止等重点措置が解除されて10月1日よりすべての作品が鑑賞可能になった「奥能登国際芸術祭2020+」にまた行ってきた。

第三日目である。

その3ではチェン・シー氏の「珠洲のドリームキンダーガーデン」を紹介したい。

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宝立エリアでも山の方

中国のチェン・シー氏による作品「珠洲のドリームキンダーガーデン」がある旧柏原保育所は、海に近い宝立エリアの中では山の方にある。

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こちらが旧柏原保育所

こちらが会場になるのだけど、周りが山だ。

隣の運動場を望むと…

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若山エリアかなと思うくらい山だ

この作品がある宝立エリアって見附島があるからか海のイメージが大きいんだけど、ここからだと海の「う」の字も見えない。

でも、長閑だから、自分は好きだ。

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長閑だけど受付の方々は元気が良かった

地元のおじいいちゃん、おばあちゃんがボランティアで芸術祭に参加して受付をしているんだろうけど、これがまた皆さん元気。さらには優しい。

リストバンドのチェックが機械を使ってコードを読み込むのではなく、数字をノートに書き込んでいたのが印象的で、最新機器を使えなくてもちゃんと参加している姿になんだかほっこりしてしまった。

作品を見る前に、いきなり心掴まれた。

 

40番 チェン・シー「珠洲のドリームキンダーガーデン

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40番だ

中国のアーティストでイラストレーターのチェン・シー(陳思)氏による「珠洲のドリームキンダーガーデン」だ。

夢の保育園(幼稚園)ってことだけど、先に言っておくと、かなり夢の詰まった作品だった。

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入ってすぐに見える造形物

「なんだこの可愛いやつは」となってしまうこちら、漫画やアニメと言った2次元創作物が具現化したようだった。

チェン・シー氏は作品に「かわいらしさの力」を備えることで現代社会の緊張と不安に癒やしをもたらすことを試みているそうで、いきなりそのスタイルを目の当たりにした。

かつ、これの何がすごいって、実はこれ、地元の宝立小中学校と七尾特別支援学校珠洲分校の生徒(児童)たちが描いた絵を立体物として仕立ててあるのだ。

どういうことかと言うと…

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とりあえず隣の部屋に行ってみよう

このように壁に生徒たちが描いた自画像や珠洲のマスコットがズラッと貼り出されていた。

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反対側の壁(黒板)にも

これらの絵の一部ではなく、絵すべてが立体化されていると芸術祭のサポートの方が教えてくれるのだ。

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部屋の前には小さな造形物がずらり

すべてがビッグサイズのものとはいかないが、このように立体化されたものがズラリと並んでいた。

絵一枚一枚が、この旧保育園内のどこかで造形物になっていると言うのだから、絵と造形物を交互に見たり、探したりしてしまっていた。

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再び戻って確認

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これだろうか?

いや、間違いなく上の行の右から2番めの絵だ。

子供の稚拙ながらキュートな絵が元になっているんだから、そりゃ「かわいいやつ」と思うのも仕方ない。

しかしまあ、見事なクオリティで立体化されていると思う。

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絵の中で妙に気になった「すず産マツタケくん」

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こちらも… いたよ…

近くにいる珠洲焼と思われる花挿くんもなかなか衝撃的。

漏れなく、3Dになっているのである。

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さらに隣の部屋

巨大でレインボーな多重鏡餅状態の雲のような、またはカラフルホットケーキのようなこちらも生徒(児童)が描いたものの一つだ。

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個人的には後ろの黒板のこの文字も気になる

絵を見ながら造形物を細かく探していたものだから、こういうものにも注目してしまう。

押し入れに入れたものの一覧なんだろうけど「カセットテープ」とか懐かしいじゃないか。その下の紙芝居もしかり。

こんなメモの文字を見るだけで童心に帰れてしまいそうなんだから、随分とこの作品、この空間に気持が持っていかれていると我ながら思う。

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一番奥の「ゆうぎしつ」にも

一番広いこの部屋には大きなものがいくつも置かれていた。

雲雷みたいなものも天井から吊るされていたけど、そんな絵あるの?となったものだから、先程の部屋に何度も戻って探してしまっていた。

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これだ

雷雲の絵と言ったらこれしかない。

しかも雷雲、絵の一部にしかすぎないので気づくまでに結構時間がかかった。

それでもこうして拾って立体化しているんだから作者も偉い。

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「ゆうぎしつ」の奥には合体したものも

猫と犬の顔が積み重なったものも置かれていたが、こんなタワー状の絵は流石になかった。

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白い猫っぽいのは単体でいた

何だったらその右隣のものが下の犬の原画なのかもしれない。

その絵に装飾されているオレンジのクローバーみたいなシンボルも立体化されていた。

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天井から星(キラキラ)のオブジェも吊るされていた

大人からしたら決して広くなく、天井も小学校の体育館と比べると低くて普通の教室くらいの高さだ。

そこから吊るされた星のオブジェが、実際には光を反射していないのでキラキラしているわけではないのだけど、これを漫画の一コマに描かれるような「キラキラ」だと認識してしまえるところも、もう童心に帰ってしまっている。

小さな子からするとキラキラは光の反射(物理)じゃなくて「星」なんだよね。

ちゃんとそのあたりも具現化している点が素敵だ。

天井の低さも相まって、ひたすら懐かしくなった。

 

感想

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親子で来ている人が多かった

お客さんの中には、絵を書いた生徒(児童)本人やその家族がいたりもして、自身の絵や友達の絵が実際に立体化されたのを目の当たりにして興奮気味に喋っている姿を見ると、これはホント、夢のある作品だなと心底思った。

もし自分が小学生の時に、自分が描いた絵がこのようにアートとして造形物にしてくれていたら、興奮気味に喋っていた小学生同様に歓喜していたであろう。

作家はこの作品で「使われなくなった保育所に元気と笑い声を取り戻す」ことを試みたようだけど、キッズたちやその親御さんたちの賑やかな声を聞いていると、その試みは間違いなく成功している。

立体化した作品そのものも夢があってすごいけど、それに参加して、実際に目にして楽しい声を上げている子供たちの姿そのものもインスタレーションの一つ(もしかしたら一番の要素)なんじゃないかと感じた。

そんな生徒(児童)たちがいるタイミングでこの作品を鑑賞できた自分は運がいい。

コロナ禍のため、人との接触が減って子どもたちの学ぶ機会(色んな意味での学び)が減ってきていたみたいだし、まん防が解除されて良かったなと「2020+」を回っていてこのとき一番思った。