12月10日、金沢市の中心街・片町にある「金沢学生のまち市民交流館」にて「金澤町家シネマ」というイベントが行われていた。
古民家で映画を見れるという。変わったことをやっているなということで参加してみることにした。
会場は片町にある「金沢学生のまち市民交流館」
県庁が鞍月に引っ越してから随分活気が減ってきたとも言われるけど、市民の多くはそう思っているだろう。
そんな片町に古民家を利用した「金沢学生のまち市民交流館」なるものがあるというのをご存知だろうか?
自分は知らなかった。
このとおり
片町のどこにあるかと言えば旧ラブロ(現在の「片町きらら」)の真裏だ。
武家屋敷からも近いので古民家くらいこのあたりにあっても不思議ではないが、その古民家を利用してこのような施設が運営されていたのは自分も知らなかった。
でも、この写真の入口、正門ではなく裏門だった。
案内図
地図からすると下の方から自分は入ってきたわけである。
同館は「交流ホール」と「学生の家」の二つの施設に分かれており、交流ホールは新しい建物で、「学生の家」が古民家であった。
比べるとよく分かる
言うまでもなく右側が「交流ホール」だ。この日も若い人たちがイベント(またはその練習)を行っていたようだ。
目的の金澤町家シネマは「学生の家」にて行われるので、自分はここから古民家の正面玄関の方へと回ることにした。
正面の様子
ここから見ると本当に古民家だ。
金沢学生のまち市民交流館と書かれたガラスの表札がなければ、そこが交流館であるとはまずわからない。
門をくぐり玄関を抜けるとツリーがあった
世界エイズデーのレッドリボンのツリーのようだ。
このツリーを背に右手に進むとサロンがある。
到着していきなりトイレに行きたくなったので、そのサロンを通り抜けることになった。
サロンだ
だれでも自由に使える場所だ。たたし、あくまでサロンであって、団体が集会場のように使うことは出来ない。
サロンの隣には和室も
ここもサロンと同じように自由に使える。が、やっぱり団体が予約して使うことはできない。
集団で使える部屋(無料)は2階にある。
ただし、学生で構成される団体や高等教育機関、本市と協同している市民団体に限られる。あくまで学生のための交流館なのだ。
その他の団体に関しては新しい建物の「交流ホール」を有料で使うことが出来るようだ。
サロンの隅の方(土間の方)にはこんな人形もいた
サロンになっているところはもともと台所だったようで、こういう土間もある。
そこに置かれたこれら人形は「リアルかかし」というものだった。
地元サッカーチーム「ツエーゲン」を応援している女性のリアルかかしも
これら、湯涌創作の森に事務局をおく「かかしファンクラブ」の人たちが作っている(または作り方を教えている)のだとか。
そういえば湯涌の江戸村に行ったときもこういうカカシを目にした覚えがある。
(湯涌江戸村に行ったときの記事は→こちら)
ちなみに真ん中のサンタ帽をかぶったご老人はこの古民家の当主である「佐野」さんを模したものなんだとか。
こういったことをサロンの受付にいた方に教えてもらった。
その受付の方(60代後半のおじいさん)だが、どこかで見た顔だと思ったら、10年くらい前に会ったことのある方だった。自分は過去にこの方の講義(ワークショップ)を受けたことがあったのだ。
懐かしい話もさせてもらえた。
土蔵で「金澤町家シネマ」
「学生の家」の廊下
サロンから玄関に戻り、その玄関を正面にして今度は左手に行くと土蔵がある。
目的のイベント「金澤町家シネマ」はその土蔵で行われていた。
土蔵だ
ミーティングルームとある。
札だけ見ると新しいので今時の家屋っぽいが、入ってみると本当に漆喰壁の土蔵だった。
まず受付があり、そこで名前を告げて参加費である1000円を支払った。
参加するには事前にWEB上の申込フォームより申し込む必要があるので、席が空いていないと飛び入りでは難しいと思われる。
定員は各回15名だった。
この日は昼と夜に一回ずつ行われていて自分が参加したのは夜の部だった。
土蔵の中の様子
上映が終わったあとに撮影したのでスクリーンや座布団を片付け終わったあとの様子で申し訳ないが、こういったところで座布団に座りながら映画を見るのだ。
主催はNPO法人「World Theater Project 北陸」というところだった。
「World Theater Project」は2012年より始まったNPO法人だ。
映画を観られる環境にない地域に暮らす途上国の子どもたちに「映画を上映する」という支援を行っている団体だ。
現在、カンボジアにてモデルロールを形成中だという。
カンボジアの子どもたちに移動映画館という形で映画を届けているそうだ。
なんでもカンボジアの田舎の村ではテレビもないらしく、こうやって映画を届けることで新しい世界を知ってもらい、それによって子どもたちが新しい夢を抱いてくれるようになるのだとか。
そんな「World Theater Project」には北陸支部もあり、そこが今回この金澤町家シネマを開催したのだ。
北陸支部の代表の方曰く、石川県は人口に対する映画の席の数が全国でも多いらしく、その意味では映画に恵まれた県なのだとか。ただ、実際に県内の映画館というものを見てみると加賀地方にばかり集中して能登の方にはないのが現状だという。確かにそうかもしれない。県民の自分としても能登に映画館ができればなと、この北陸支部の今後の活動に期待してしまう。
ちなみにこの北陸支部の構成員は現在、その北陸支部の代表の方一人だけだった。
なんか、すごい。
寄付に関するドキュメンタリー映画を鑑賞
さて、金澤町家シネマでは世界の社会問題を扱ったドキュメンタリー映画を配給している「ユナイテッドピープル」の作品中心に上映していくという。
初日である今回上映されたのは、
『ポバティー・インク~あなたの寄付の不都合な真実~』
というドキュメンタリー映画(2014年 アメリカ)だった。
映画『ポバティー・インク 〜あなたの寄付の不都合な真実〜』予告編 2016/8/6公開!
予告編の動画
なんでもこの日本では12月は寄付月間らしい。日本ではまだ寄付というものが国民に浸透していないのでそう呼ぶようになったのだとか。その12月に寄付に関するドキュメンタリー映画を上映しようというわけだ。
さて本編を観たが、まあ考えさせられた。
ハイチへのアメリカによるコメの援助や自由貿易によって地元の農家が失業したり、貧しい国というイメージからケニアに古着を届けたことによってケニアの繊維産業が大打撃を受けたり、ユーザーが靴を一足買うことで会社が途上国の子供に靴を贈るTOMS(靴の会社)の取り組みもまた現地で靴づくりを生業としている人たちに大打撃を与えていたことなど、慈善活動や寄付という善意による行動の裏側で何が起きているのか、その副作用というべき事態を知ることが出来る映画だった。
現地の人の経済的な打撃だけでなく、アフリカは貧しい国といったイメージの定着や、自立ができなくなることへの不安、そして途上国の開発が慈善ではなく営利目的になっている実情など勉強させられることが多々あり、募金箱があると簡単に募金していた自分のそれまでの行動をも考えさせられた。
寄付が現地の産業を破壊する副作用もあるなら、自分たちは一体何が出来るのかと、観ていて悩んでしまったが、その答えも劇中にいくつか示してくれているのでタメにもなる。
特に自分が共感できたのは、現地の人達の生業を奪わず、現地の人達が発展するチャンスを与え、自立へと導くには現地で作られたものを買うこと、といった考え方だろうか。
自分も数年前、中国が世界の工場となり始め、メイドインチャイナが普及しすぎて日本の経済が傾き始めた頃に、一個人として自国の経済を助けるためには何が出来るか考えたとき「日本製を買う」という結論に至ったことがある(現在も継続中)ので現地のものを買うという発想にはすごく共感できるのだ。
他には「物を送るくらいなら教育」という発想だろうか。知識や技術を習得すると、現地の人達は勝手に発展していくものだ。
しかもその点は途上国だけの話でもないだろう。
昨今、日本国内でも非正規労働者の割合が4割近くまで上がった。はたまた人生100年時代構想なんて年取っても働かされる時代になろうとしている。そんな人達が自立し、長く仕事をするためにもやはり教育が必要であろうと思うのだ。
この映画を観ていて、そんなことを考えさせられた。
そんな『ポバティー・インク~あなたの寄付の不都合な真実~』と出会えたことだけでも有意義なイベントであった。
感想
映画を観た後、参加者たちが残って軽い自己紹介などをする座談会のようなことを30分ほど行った。座談会の参加は任意だったが、夜の部に来ていた人たちはみんな残っていた。面白いことに、現役の金沢大学生や、社会人の方でも金沢大学の卒業生だという方が多かった。
頭の良さそうな人たちばかりだ。ほとんどは現在ホワイトカラー、将来ホワイトカラーな人たちだろう。
そんな皆さんがこの『ポバティー・インク~あなたの寄付の不都合な真実~』を観てどのような感想を抱いたのか正直興味がある。
途上国への支援の話から現代日本の格差社会、超高齢化社会へまで想像を展開できた人は何人いたのだろうかと、個人的に気になった。
寄付について考えさせられる映画であったが、毎日の生活が苦しくて途上国への寄付なんて考えていられない人というのもこの日本国内に何万といるだろう。ある意味、こうやって寄付の映画を観て寄付について考えさせられるなんて贅沢な話なのだ。
途上国のことを考えるなら、まず国内のことにも目を向けてやってはどうだろうかと、ふと思ってしまったのだった。
映画の作中、現地のことを知るには現地に3年くらい住んでみないとわからない、といった台詞もある。おそらく、いやきっとそれは正しい。でも、長年この国に住んでいても、この国について見えていないことも多かったりするものなのだ。
その点からも能登に映画館がないということに気づいてくれた「World Theater Project」の北陸支部にはものすごく期待してしまう。
とまあ、なんか堅苦しい感想になってしまったが、こうして古民家で映画を観れるというだけでシンプルに楽しかった。今後は「ユナイテッドピープル」以外の作品の上映の検討や映画に関するいろんなイベントも行うらしいので、これからもこの「金澤町家シネマ」には可能な限り参加していきたい。
また、この古民家を利用した「金沢学生のまち市民交流館」そのものにも遊びに来たい。
なんかふらっと来て長居したくなるところだった
改めていうが、こんなところが片町にあるなんて知らなかった。
この場所を知れたことも、今回のイベント参加の収穫の一つだろう。