奥能登国際芸術祭2017を開催初日(9月3日)に回った様子を綴った記事その6だ。
今回は正院エリアを紹介したい。
ただし、正院エリアのすべてではない。
正院エリア
正院エリアは縦にも横にも長かった。
同エリアには作品番号で言うと18番、17番、16番、15番のスポットがある。さらには広域展開している37番の一つも観ることができる。
そのうち18番だけエリア内でも北の方にあるのだ。
なお、同じ正院エリアでも15番は今回省かせていただく。15番もエリア内ではかなり東の方にあり、作品の配置場所としてはむしろ蛸島エリアに近かったからだ。
18番 ひびのこづえ「スズズカ」
北の方にある18番だ
それまで海の近くを車で走っていたのに急に山の方へ向かっているような気分であった。
実際には山の麓といったところにある旧保育所がその展示場であった。
旧飯塚保育所だ
「スズズカ」と書かれたプレートも掲げられている。
入ってみると…
ふわふわしたバルーンの衣装がいくつも展示されていた
保育所の体育館であったと思われる広い場所にこれらはあった。
作者であるひびのこづえ氏はコスチューム・アーティストで、ダンスパフォーマンスの衣装なども手がけるのだとか。
実際この会場でも芸術祭期間中、週末になるとこづえ氏の創造性豊かな衣装をまとってプロダンサーが踊るショーも展開される。
展示場は舞台にもなっているのだ
舞台は鏡面仕立てだ。
天井を見るとそこにもバルーンの装飾がある。
公式ガイドブックによるとこの衣装インスタレーションの名は〈重力と無重力の間〉とあった。
確かに、鏡面の上に立って足元に映る天井のバルーンを見ていると、天井のバルーンとの板挟みでどっちが地上でどっちが天井かわからなくなりそうだ。
ダンスパフォーマンスショーとなると暗い中で照明も使うだろうし、ダンサーは逆立ちしそうだし、観客席から見ていても天地逆転の錯覚が起きそうだ。
舞台をただ撮るだけでも天地がわからなくなってくる
この写真、180°回転させたら天井に見えるんじゃなかろうか。
180°回転させた
天井に見えてきた。なんか、酔いそうだ。
衣装も個性的
ついでに壁には人の顔も
この壁で壁ドンはできないな。
この独創的な会場で行われるダンスパフォーマンスのショーは計3作ある。
「WONDER WATER」(9月16,17,18,23,24日)
「Humanoid LADY スズズカver.」(9月30日、10月1日)
「LIVE BONE in スズズカ」(10月7,8日)
いづれも土日祝に行われている。
鑑賞パスポートとは別にチケットを買う必要があり、どれも前売りで1000円。当日では1500円(パスポートがあると1300円)となっている。
またこの会場、ワークショップの教室にもなったり、稽古場になったりもするそうだ。
静止したものを見るだけのアートではない訳だ。
なお、別のスペースでは食堂も
地元の米で作ったおにぎり弁当を食べれる。
もう一箇所足を運びたくて急いでしまったので自分は食べることができなかった。
これもまた宿題ですかな。
16番 麻生祥子「信心のかたち」
もう一箇所まわりたかったというのがこの16番だ
公開時間が終了する17時の10分前くらいの時間に足を運んだ。
こちら旧銭湯を展示場にしているのだが、16番だけではなく、17番も隣に展示されている。
どうなっているかというと…
こうなっている
旧銭湯の右側(男湯)が16番、左側(女湯)が17番になっているのだ。
銭湯の名前は「恵比寿湯」。中央のタイル絵も恵比寿様だ。
創業は大正9年(1920年)で町の人たちに長らく親しまれていたのだが、一昨年に営業を終わらせたそうだ。
どっちから入ってもよく、自分は何となく右側(男湯)から入っていった。
そしたら左側に受付の人がいて、少々手間を取らせてしまった。まあ仕方ない。
その浴室には…
泡が立っていた
泡立つという意味ではない。泡が山のように立っていたのだ。
天井から床タイルまで泡だ。
泡発生装置が組み込まれていて定期的に泡を発生させているそうだ。
発生中は音がする。
地元の人たちの力強さをこの溢れ続ける泡で表現しているようだ。
自分は夕方にやって来たのだが、泡の密度を考えると朝方が一番見頃だったのだとか。ただ、朝方はその分、床の方まで泡が広がっていないそうだ。
と、作者ご本人がおっしゃってました
ちょうど作者の麻生祥子氏がいたので、一枚写真を撮らせてもらった。石川県出身の方だ。最初、受付の方(ボランティアの受付の方も結構作品に詳しい)かと思っていただけに、作者と聞いてちょっと驚いた。
自分は、作品は発表した時点で作者の手を離れるものだと考え、視聴者が十人十色に勝手に解釈できるものだと思っている人間なのだが、こうして作った人本人に話を聞くのも嫌いじゃない。
自分が抱いた直感的な感想と比較することで、自分の感性の現在の鋭さをチェックできるからだ。ちょっとした答え合わせみたいなもんですな。そんなもので、何でもかんでもすぐに作者本人に聞いてしまうつもりもなく、まずは自分の肌で感じて頭で考えることが第一としている。
ちなみにこの作品を目にした時の自分の頭の中は、泡発生装置の仕組みにばかり興味が向いてしまっていて、どういう気持ちで何を表現したくてこの作品を作ったのだろうかという点まで頭が回っていなかった。
さらにいうと、この浴室に入っていって遊びたくなっていた
申し訳ない。
17番 井上唯「into the rain」
隣の17番だ
受付の人がいた番台から行き来できるかと思ったら、一度外に出て女湯の扉を開けて入っていかなくてはならなかった。
入るとすぐ紙の靴下みたいなものを貸してもらえる
16番でもそうだが、この銭湯内は土足では上がれない。上がれない上にこの17番ではこの履物まで渡されるのだ。
この中に入っていくためだ
タイトルにあるように、雨の中を入っていくようなイメージの作品だ。
雨、草木、そして水、自然の営みを表現しているそうで、これらの生地の波紋の模様はは「染め」の技術で仕立ててあるのだとか。
潜ってみるとこんな世界
この日は、朝到着した頃こそ雨が降っていたけど、昼以降は天気が良かったので、梅雨時に見られる晴れ間「五月晴れ」(さつきばれ)を見上げているような心地がした。
浴室の方まで入っていける
脱衣所だけではなく、17番はここまで入っていける。
ただし、かなり低い。触っちゃいけないものもあるので遊べるようなところではない。
触ってはいけない「重り」たち
結局重りだけじゃなく、染め上げた布にも頭が触れないよう注意して潜っていた。
それでもインスタ映えするようなところですけどね
みなさん、仲間やカップルで自撮りしていた。
中にはキャンプのテントみたいに横になっている人もいた。
みんな自由だな。
まあ、こういう感じなので、その気持もわかる
寝たくなりますわね。
感想
正院エリアはもう一つ15番もあるが、今回の正院エリア内の作品紹介は以上だ。
最後の恵比寿湯の二つの展示を見終えたところでちょうど公開終了時間である17時になってしまったのだ。
旧保育園も旧銭湯も、こうして作品を体験するとまだまだ活かしようがあるのだなと納得させられる。いや、今回の正院エリアに限らず、この日にまわった展示場ほとんどで同じことが言えるだろう。
これで開催初日にまわった第一日目が終了となるが、撮っていて樂しいし、珠洲の町を知れて色んな意味で勉強になるし、まだまだ残りも見に行きたかったというのが率直な感想だ。17時までというのは早い気がしたくらいだ。
そういうことで、後日また訪れて見に行くつもりだ。そのつもりで記事のタイトルも「第一日目」にしたのだ。(と、自分に言い聞かせたい)
なお、ここで最後にもう一つだけ作品を紹介したいと思う。
37番 アレクサンドル・コンスタンチーノフ「珠洲海道五十三次」
37番だ
広域作品の一つだ。
これが、16番、17番のための駐車場の前のバスの停留所にあった。
というかバス停留所そのものが作品だった
バス停「正院」だ。アルミニウムパイプに囲まれて鳥の巣のようになっている。
ロシア出身のアレクサンドル・コンスタンチーノフ氏による同作品は、珠洲市のあちこちで同じようなものがいくつも展開しているらしい。自分としては第一日目の一番最後に写真を撮った作品で、おまけにスタンプも自分で押せたものだから、この作品がRPGでいうところのセーブポイントに思えてきた。
次回、このセーブポイントから奥能登国際芸術祭めぐりを再開すればいいのである。
第二日目がどうなるかわからないが、また足を運べたら当ブログにて再びのんびりと紹介したいと思う。