すべて回るには最低でも2日間はかかるであろう、珠洲市内全域を使った「奥能登国際芸術祭2017」。
初日である9月3日に足を運んでみてきたアートの紹介その5だ。
今回は直(ただ)エリアの作品をまとめたいと思う。
直エリア
直エリアは旧珠洲駅や古墳なんかがある野々江町のあたりだ。
飯田エリアまで走っていた県道249号線から逸れることで行けるエリアだ。
県道249から逸れても、ここもまた海が近かい。
直エリアにある作品は21番、20番、19番だ。
この順番で紹介したい。
21番 Gim Hongsok「善でも悪でもないキオスク」
21番の作品がある場所は旧珠洲駅だった。
のと鉄道の穴水から蛸島全線が2005年に廃線になったことで使われなくなった駅の一つだ。
現在、その側には「道の駅 すずなり」がオープンしているので、いまでは電車ではなく車で観光客がよくやって来ている。
こちらがその道の駅
建物の名前は「すずなり館」だ。
地産のものが売られている。インフォメーションコーナーもあるので、宿泊や体験など旅行に関する紹介もしてもらえる。
この道の駅の隣に珠洲駅のホームだけがいまも残っている。
駅のホームだ
こうして撮るとまだ電車が走っている現役のホームにも見えてくる。
このホームにあったのが、21番の作品だ。
キオスクだ
ちゃんと黄色の案内もあった
受付はこのキオスクの店員の方にしてもらうことになる。
ただ、スタンプは案内に吊るされており、セルフで押すことになっている。
受付がこのキオスクなら、作品そのものもこのキオスクだ。
最初戸惑ってしまったけど、この受付をしたキオスクこそが21番のアートなのだ。
なんだか見慣れないキオスクだ
キオスクそのものは日本でもよく見かけるが、建物のサイズだったり、看板のハングル文字だったり、陳列されているものであったり、見慣れたキオスクと比べると違和感がある。それでもそれがキオスクだとすぐに認識できるのだから、キオスクって世界に通ずる文化なんだと思えてくる。
「キオスク」ってもともとペルシャ語らしい。中東辺りで建てられていた庭園の簡易建造物だそうだ。日本では駅文化のようになっているけど、そもそもは庭園から発達したようなのだ。
難しそうな本が置かれていた
韓国人アーティストによる作品なのでハングル文字の書物をいくつか見かけた。
日本の本もあれば、西洋の本もある。
公式ガイドブックによれば「海の向こうの国々との関係を表現」とも書かれてあった。
置かれている本の種類といい、ラックを見ていると人類の多様性を考えさせられた。
なお、このキオスクでは珠洲の塩も売っていた。
アートなのか商売なのか最後までわからない不思議な魅力のアートだった。
20番 田中信行「触生—原初—」
続いては20番だ
こちら、海の近くの古い蔵のようなところにあった。
黄色の案内がなければ見過ごしてしまうような古い蔵
あまりに町の風景に溶け込みすぎて、そこがアートの展示場になっているとは普通思わない。
しかもこの建物の真ん前に車を着けることもできない。畑へと続く狭い農道のようなところを入っていって辿り着く場所なので車が入っていけないのだ。
クルマで来た場合は、この建物からすると正面にファミリーマートがあるので、そこの駐車場に停めることになっている。
入ってみると現れるのがこちらのアート
波打つ壁のような、衝立のようなものが立っていた。
こちら、漆が塗られているそうだ。
作者の田中信行氏がずっと漆を扱った作品を作り続けているアーティストのようで、今回も漆を用い「人間の原初性を思い起こさせる作品」に仕上げたとのこと。
漆の中でも乾漆法という製造法で仕上げているそうだ。オブジェでありながら絵画のような質感がある。
その波打った表面を格子窓から漏れる淡い光が覆って心地よい陰影を作っている。
一つ間違えると禍々しくなりそうなところだろうが、そうならないところもまた氏の言うところの人間の原初性というものだろうか。
もう一つこういう作品も置かれている
こちらも漆で出来ているが、上のものと比べると表面がテカテカとしている。
こちらは乾漆ではない。漆を何層も何層も塗り固めて出来ているそうだ。赤いのか黒いのかよくわからない、べっ甲のような質感をしている。
側に窓があり、多めに光を受けるように配置されているのでことさら光って見える。
昼間と夕方のように太陽の傾き具合でその表情も違ってくると案内の方も言っていた。
乾漆の方を「陰」とするならこちらは「陽」になろう。ただし、それ一つでは光れない(太陽光を受ける必要がある)というのが、自分の目にはまた人間くさい。
この作品は見た目そのものがシンプルなだけに人によって見えてくるものが違うだろう。
どう見えてしまうか、どう受け止めたかによってその人の人としての哲学やバックボーンと言った原点のようなものも見えてくるのかもしれない。
そう考えると、ちょっと怖ろしい作品でもある。
19番 角文平「Silhouett Factory」
そして19番だ
こちらはさらに海に近いところにあった。
町に設置された案内看板に従って行こうとすると「こんなところで曲がるの?」というようなところで右折させられた。クルマ一台通れるくらいの砂利道を海に向かって進まされるのだ。
その先に倉庫があり、一応駐車スペースもあった。車道に戻る時はさらに防波堤の側を走りグルっと迂回する必要があった。
展示場がなければ、まず立ち寄ることがない場所であろう。
なお、この日の受付は外国のかた(アジア系)だった。
さっそく倉庫の中へ
中には桟橋があり、立ち入れるのはその橋の上までで砂の上には入ってはいけない旨を外人(アジア系)の方に説明してもらった。少々カタコトでもちゃんと日本語でだ。
中に入るとこうなっていった
倉庫内の桟橋の向こうに海ある景色が切り取られていた。
ピントを変えるとこんな感じ(写真が傾いてしまったが…)
切り取られた風景の前には切り絵が吊るされている。
カニもあれば七輪も見える。禄剛埼の灯台も見えれば、塩作りの様子も見える。
電車も見えれば船や飛行機も見え、さらにはキリコ祭りも。
言うまでもなく珠洲の産業や文化を切り取っている。
「珠洲って何があるんですか?」と聞かれたら、ここに来させて「こういうのがあります」と見せることでインフォメーション代わりにすることも可能ではないだろうか。
また子供がいる方なら子供を連れてやって来ることで、この切り絵から珠洲の文化を学ばせることもできるのではないだろうか。
桟橋に立ちながらそんなことを考えた。
なお、倉庫の正面から観ることもできた
子供みたいに「これ、あっち側に回れるんじゃね?」と閃いて、そして子供みたいに実際に回ってしまった。
作家さんからすると作品の趣旨をぶち壊しているような真似だ。
ただ、ここに立つと、桟橋から人物も入れた良い風景画が撮ってもらえそうな気もしないでもない。
そんな写真を撮ってもらえれば、写真を見返すたびにそこに写る切り絵から珠洲の文化を思い出せるだろう。
と、言い訳をしておきたい。
感想
直エリアにはインフォメーションコーナーもある「道の駅 すずなり」があったと思えば、最後の19番では作品そのものがインフォメーション代わりになるんじゃないかと思えたり(妄想)と、珠洲の「情報」というものがキーワードとして頭に浮かび印象的だった。一方で、21番では人間の善悪だとか20番では原初性を考えさせたり、個人としての「人間」を振り返ることになったことも印象的だった。
公式ガイドブックによると直エリアって「農村地区と市街地が接する」ところだそうだ。異なる性格のものが接することで活気のある町となっているようで、今回印象に残った「情報」と「人間」というカテゴリーも、二つくっつけることでまた何か活気のある思想や感性が生まれるのではないかといった期待をしてしまった。
そういえば道の駅では顔はめパネルも発見していた
これって「情報」と「人間」をくっつけた一例となりうる観光資源ではないだろうか?
さすがにそれは…
…ないか。
次回は正院エリアの作品をしたいと思う。