初心の趣

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珠洲市の「奥能登国際芸術祭2017」をのんびりまわる第一日目その3(飯田エリア前編)

珠洲市で始まった「奥能登国際芸術祭2017」へ初日の9月3日から足を運び、その様子を紹介している「のんびりまわる」シリーズの第一日目その3だ。

今回は前回に記した「ラポルトすず」がある飯田エリアで目にしたほかのアート作品を紹介したい。

ただ、飯田エリアだけで計7つのスポットがある。「ラポルトすず」の中にあった巨大ガチャポンを抜いてもまだ6つあるので、飯田エリアでもさらに前編後編とわけ、今回はその前編としたいと思う。

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飯田エリア

飯田港のある飯田町には作品番号で言うと22番から28番までのアートがある。しかもそれらはすべて「ラポルトすず」の駐車場に車を停めて歩いていける距離にあった。

一気に紹介したいところだが文字数が膨れ上がりそうなので、今回は前編として28番、25番、24番を紹介したい。

数字が飛んでしまっているのは、自分が現地でそういう順番でまわっていたからだ。

 

28番 EAT&ART TARO「さいはてのキャバレー準備中」

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28番だ

アーティスト名が変わっているが、EAT&ART TARO氏は食をテーマにした現代美術アーティストだ。

今回の試みも面白くて、アート作品でありながらカフェとしても営業していた。

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場所は海の側

これ、「ラポルトすず」の駐車場から撮っている。ラポルトとは目と鼻の先だ。

受付で鑑賞パスポートのスタンプを押してもらうと作品鑑賞順路というものを教えてもらった。

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こちらがそのマップ

この作品、タイトルのとおり準備中のキャバレーを演出している。

準備中のお店の中を裏から入って覗けますよといった作品なのだ。

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そんなもので入り口は裏口

こんな所から入っていく。自分はこの時点で笑ってしまった。

積まれたビール瓶やケースが営業感を醸し出している。

入ってみても…

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すぐバックヤード

調理場だろうか、従業員の方々がマジで作業していた。

そんなものだから『入っていいの?』との遠慮と戸惑いが胸に湧くのだが、スタッフの方々は自分の姿を目にして「いらっしゃいませ」と言ってくれるのだから、ここから入って間違いないのだ。すごい演出だ。

さらに進み、ホールに出てみるとキャバレーらしくステージがあった。

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ステージだ

キャバレーというと、日本では接待飲食店を思い浮かべてしまうが、もともとはダンスやコメディーショーができるステージのあるレストランや酒飲み場のことだ。

若き日のピカソなど芸術家たちの溜まり場になっていたのもキャバレーで、酒を飲みながら作品談義をしていた場所なのだとか。

EAT&ART TARO氏も、この奥能登国際芸術祭の期間中にそういった作品談義ができる場所を作りたかったようだ。

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そんなもので建物内では実際に飲食店を営業している

カフェになっており、自分がこの施設に足を踏み込んだ時もカウンターにて2、3組のお客さんがランチしていた。

カフェの営業時間は平日だと15時~20時。

金土日祝は12時~20時となっている。

水曜日は定休日だそうだ。

また、キャバレーショーも開催期間中に3回行われると書かれてあった。

こちらは9月9日(土)、10月7日(土)、10月21日(土)。

いずれも予約制で19時より開場だ。キャバレーショーが行われる日のカフェの営業は17時までとなるので注意が必要だ。

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テーブルだと海を眺めながら食事やお酒を窘める

窓がまた大きい。この建物、もともと海辺にあるレストランだったようだ。雰囲気の良さを考えるとこのように今でもオシャレなレストランとして復活できそうな気さえする。

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ホールをさらに進むと楽屋に到着

「キャバレー準備中」のメインではないだろうか。

出演者の衣装や小物などが置かれていた。小物に触ることはNGになっているが、衣装は手にとって見てOKだそうだ。

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楽屋の生々しい空気を感じさせれば…

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アンティークのようにも見える

慌ただしいのか落ち着いているのか、一つの枠に収まらない空間だった。

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さらにはマスカーレイドも

こちらはこれ単体で気品があるようでいて毳毳(ケバケバ)しくも見えた。仮面舞踏会に興じる中世の貴族たちって、今の価値観で考えると変態ばっかりだったのかな、なんてことも思えてくる。

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楽屋を抜けると静かな港町の情緒

ここを抜けてインスタレーションは終了する。この古い扉を見ていると、あの絢爛で雑多な空間が一炊の夢であったかのような気さえした。

 

25番 南条嘉毅「シアターシュメール」

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次は25番に向かった

このあたりは民家もあれば、個人経営の店もある。長屋のように横に長い建物もあったりと町並みがどこか懐かしい。

この25番の作品がある施設もそんな情景に溶け込んで建っていた。

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それがこちら

昔の映画館だ。「飯田スメル館」という名の地元で親しまれていた映画館だったようだ。見て分かるようにかなり年季を感じさせる。

いまではシネコンや巨大ショッピングモールに行かないと映画は見れないけれど、昔はこんな町中に映画館があったわけだ。「ちょっとそこまで」と散歩ついでに映画館に行けるって、映画好きからするとそれはそれで贅沢な話だと思う。

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入場の半片(はんぺん)は必ずお受け取り下さい

今も昔も映画館のルールとしてこのあたりは変わらない。

ただ、むかしって、一回チケットを購入するとその日何回でも同じ映画を見れた気がする。席を完全に管理しているいまの映画館では考えられないことだが、自分は映画を一度見終えても外に出ずにそのまま席に居座ってもう一度同じ映画(次の上映時間のもの)を見たことがある。

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むかしの映画のポスター

営業していた頃のポスターだろうか。

うる星やつら4」って86年公開の映画だ。時代を感じる。

なお、ここのアートは劇場タイプのもので1コマ7、8分の上演を約20人ずつ入れ替わりながら見ていく。

「上演が今始まったばかりで次は10分後です」といったやりとりはさながら昔の映画館だった。

また、建物の周りや1階部分は撮影OKなのだが、観覧席である2階に上がるとNGだと言われた。

このアートは撮影できないのだ。

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チケット売り場の中は撮影しましたけどね

撮影はできないが、順番が回ってきて自分も見たので、その様子を文章だけで伝えたい。

見てみると、上演と言っても役者が出てくるわけではなかった。暗い舞台で上から珪藻土が静かに落ちてくる様子にスポットライトを当て、周りに不規則に配置されたレトロな機器や雑貨とともに去りし時代を懐かしませてくれた。

これ、地元の人が見るからこそ意味があるんじゃないだろうか。自分の隣では「よくわからん」という声も聞こえてきたけど…。

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出る時はこの階段から降りてくる

正面の入口から入って2階に上がり、鑑賞して入り口とは別の出口から出ていく。お客さんを巡回させる構造も狭さも時代を感じさせる。自分と同じ時間にやってきていたお客さんも近所の方や、昔なじみの人が多く、アート作品とは言え再び稼働しているこの旧映画館そのものを懐かしんでいた。むかしを懐かしむという点だけを捉えれば、昔になじみのあった人達が集まるこの建物そのものだけでアートとして成り立つのかもしれない。

 

24番 吉野央子「JUEN 光陰」

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次に足を運んだのは近くにあった24番だ 

同じ町中にあるのでまわりの雰囲気も同じだ。

こちら、町中にあった旧スナックを利用したインスタレーションであった。

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「ドルフィン」と書かれた看板のある建物(こちらもスナックらしい)の…

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2階が会場

「JUEN」という名のスナックだった店舗だ。

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階段を登るとドアに「暴力団追放宣言の店」

堅気なスナックだったようだ。

堅気だけど…

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魚が泳いでました

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カウンターにも

公式ガイドブックを読むと、このお店の在りし姿、華やかだった頃へ思いを馳せる展示とある。

魚たちが泳ぐ華やかな建物…まるで龍宮城だ。

さらにこれまたガイドブックによれば「架空の三人をキャスティングした物語を設定」とある。どれがキャスティングされた架空の3人なのか、ちょっと自分にはわからなかった。

わからないので、勝手に想像するしかない。

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一人目、と思いたい

勝手に解釈すればするほど、何だか楽しくなってきた。

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さらに通路へと続く

展示はまだ続く。この通路を抜けていくと奥の座敷へと繋がっており、そこもまた作品空間となっていた。

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今度はウナギがいた

穴子かも知れない。なにせがサザエさんに負けないくらい魚介類で攻めてくる。

奥の神様の像がキャスティングされた2人目だろうか? いや、自分のインスピレーションが訴えるところでは「NO」であった。

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別の部屋では再びサカナの群れ

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さらには輪廻のような円

スナックってディスコライトなんかを使って照明が独特だったりするけれど、サカナたちがそのディスコライトなどで生み出される光影そのものに見えてきた。

光影の「影」を仮に「陰」に変えるとタイトルにある「光陰」に化ける。

「光陰」そのものは「月日」や「とき」という意味だから、そうすると「ありし日」がサカナたちによって見えてきそうだ。

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さらに進むとこんなのもいますけど

キャスティングされた一人だろうか。自分としてはそう思いたい。

キャステイングされた者は光に照らされる立場なのかもしれない。少なくともあのサカナたちのような光影の一部とは見えない。光、しかも自然光に照らされる姿は主役級の、またはゲストとしての貫禄や風格があろう。

まあ、初見はドラクエの「ぐんたいガニがあらわれた」にしか思えなかったけど。

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出来る限りイケメンに撮ってやりたい

よく見ると、よく出来ている。もう少し小さいものだったらオブジェとして飾っておきたくなる。

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もひとつこういうのもいた

キャスティングされた3人目だろうか。自分はもうそう思い込む。

この大きさはマグロ級だ。こちらも「照らされている側」であろう。

ただ、その口には光影も含んで見える。

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口から波動砲でも発射しそうな淡い光が見える

照らされて溜め込んだ光影を光陰に変えて誰かにぶつけんとしている…

と、勝手に解釈させてもらった。

ただし、こっちから撮ると…

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光影、さらには光陰をひたすら溜め込んでいるようにも見えますけどね

角度によっていろんな解釈ができるオブジェであった。

また、光といえばこんな光の集め方もしていた。

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グラスタワーだ

ホストクラブみたいだと一瞬思ったことは自分の脳内で消去したい。

なんにせよ、サカナのオブジェたちがどれも可愛かった。もっとコンパクトにして照明器具として売られていたら買いたくなるかもしれない。

まあ、そんなことばかり考えていたものだから、キャスティングされた3者によって設定された物語なるものは自分にはまったく読み取れなかった。というかその物語なるものをすっかり忘れていた。申し訳ないが、仕方ない。

なお、まったく余談であるが、受付のところにいたこちらも…

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むっちゃ可愛かった

受付をしていた人の飼い犬らしい。

受付をしている人たちはボランティアなのだそうだ。学生さんや、どうやら町の人が有志で行っているようなのだ。

 

感想

以上、飯田エリアの前編だ。

今回紹介したところは、どこもかつて営業していた店舗を使っていた。

共通するものと言ったら「古きに思いを馳せ、その古きをいまに活用する」といったところだろうか。

受付をしていたのが町の人なら、お客さんとして足を運んでいたのもかつてそこを利用していた町の人たちが多かったことも印象的で、珠洲市の町の人たちがみんなして作り上げて、盛り上げている国際芸術祭なんだなという感想を抱いた。

こう書くとまるで内輪のお祭りのようだと誤解もされようが、珠洲市民ではない自分たちとしても、それら町の人たちがいるからこそよりその町を知ることもできる。

実際、町の人達の施設を懐かしむ話し声を聞いているだけでも、その建物の歴史が見えてきたのだった。

次回は飯田エリアの後編を紹介したい。後編もまた今回のように古い店舗を活かし「町の歴史が見えてくる」展示ばかりだ。

いや、この飯田エリアに限らず奥能登国際芸術祭のアート作品の殆どがそうであろう。

町の歴史、ときにその町にある店舗の歴史なのでかなりマニアックな歴史鑑賞になるのかもしれないが、そのマニアックさ、自分はかなり好物だ。アートなんてそれくらいマニアックなほうが良い。

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マニアックで何が悪い?

あしからず。