石川県七尾市の能登島にある「のとじま水族館」にも館の裏側を覗けるマニアックなイベントがある。
毎週土曜日(繁忙期除く)限定、しかも一日に2回だけで、おまけに10名先着の、あんまり知られていないイベントだ。
一年くらい前にNHKでやっていたドラマ『水族館ガール』を見てから水族館の裏側を一回この目で見てみたいと思っていたので、先日体験しに行ってきた。
なんだか水族館ファンとしてのレベルが上がった気がしたのでまとめたいと思う。
今年は年間パスを購入したので何度も足を運んでいる。
もう間違いなく年間パス購入費の元は取っている。
申込場所と待ち合わせ場所
申込みはチケット売り場で
裏側探検の申込みは入館チケットを購入する売り場にて受け付けている。
土曜の午前(10:40)と午後(13:40)に1回ずつ計2回行われている。
だいたい40分間くらいの探検だ。
入館料はかかるもののイベントそのものは無料だ。
先着10名というのは、おそらく水槽の裏側の狭いと所を入っていくので人数制限を設けているのだと思われる。
待ち合わせはレクチャーホール内
申し込みを済ませて時間になったら水族館本館内にあるレクチャーホールに集合する。
そこにレクチャーホールのマダイの水槽の前に待ち合わせの看板が立っているのでその前で5分前には待っていれば良い。
この日、自分は午前(10:40)の方に参加してみた。この時のメンバーは自分を含めて3名だった。残りの二人は友人同士だと思われる若い女性の方々だった。
時間になると飼育員の方が一人現れる。若い男の飼育員さんだった。
その方に通行証を手渡された。
通行証には隊員とある
案内してくれた飼育員の方の通行証には「隊長」と書かれてあった。
それにしても写真の露出が少なくて暗い写真だ。
これから入っていく裏側はどこも基本的に暗く、このようにISO感度を上げて撮っているため画像がザラザラしている。そのことをあらかじめご理解いただきたい。
マダイの水槽を上から覗く
最初に軽くマダイのショーを説明される
裏側探検と言っても、ずっと水族館の裏側だけを回るわけではない。
表側の展示を説明してくれた上で、バックヤードへと入っていくことになる。
主に本館の裏側を体験することになるので、紹介される生き物は魚たちがメインだ。
海獣たちやペンギンの解説はお食事タイムやふれあい体験などで聞くことができるのに対し、そういったイベントのないマニアックな魚たちの説明をこの裏側探検では聞けるわけだ。
ちゃんとイベントの住み分けが出来ているのである。
こういったところに入っていける
小学生の時、こう入るなと書かれると余計に入ってみたくなることが多かった。
大人となった今でもワクワクしてしまっていたので、このカリギュラ効果な心理はあまり変わっていないのだろう。
裏通路だ
気分は隠しダンジョンだ。
鉄筋コンクリートの無機質な質感が一般人を冷たく拒んでいるみたいで良い。
暗い通路の奥に水槽が見えてくる
雰囲気はすでに妖しい。
寄ってみるとなんじゃこりゃな図
血の池に見えた。
裏側探検とは、小松市のハニベ巌窟院のような地獄ツアーなのかと一瞬思った。
なんてことはないマダイの水槽だ
最初にレクチャーホールで解説してもらったマダイたちだ。
マダイのショーの時に照明の色が変わる演出が行われる。
赤の時に上から見ると、おぞましい画になるようだ。
そのLED照明
少し前までは手動で切り替えていたこちらも、今ではオートで色が切り替わっているのだとか。
マダイショーでは水中スピーカーを使ってタイたちを移動させているのだが、そのスピーカー操作はいまも人の手で行っているそうだ。
スピーカーで音を出して餌を与え「音が鳴る=餌をもらえる=移動する」と覚えさせるまで数週間から一ヶ月かかるらしい。
やろうと思えば輪くぐりなんかも覚えるようなので、魚もなかなか頭が良い。
搬入庫で作業現場も見学
搬入庫も案内してもらえる
水槽の裏側だけではなく、こういった館内裏側の作業場のようなところも案内してくれる。
自分としては、こういう裏でどんな作業をしているのかを見たかったので、ここでは人知れずかなり興奮していた。
『水族館ガール』でもこういう場所があったなと思わせるこの搬入庫では、魚や海獣たちのエサの準備もしているのだ。
解説用にエサとなる魚たちもあらかじめ置かれていた
鯖やスルメイカ、ニジマス、オキアミ、シシャモなどがセットされていた。
中には、本来置かない魚まで置かれていた。今回隊長を務めていた若い飼育員の方を試そうと誰かがわざと置いたらしい。
隊長こと飼育員の方はそれら使わない魚の説明も軽くしつつ、どけていった。
関係のないものはどけていったあとの図
苦笑いしていた隊長が面白かった。
このように一つ一つ説明してくれる隊長
このエビに似たものは釣りでもよく使われるナンキョクオキアミ。
オキアミは色んな魚が食べてくれるエサとしては万能なものだ。
こちらはボールに入ったブラインシュリンプ
ブラインシュリンプはアルテミアの一種で、ペットショップなどに観賞魚用の餌として売られているやつだ。
アカイソアミもあった
魚によっては生きた餌を好む奴もいるので、このようにエサにも色々と種類がある。
これらのエサは冷凍されたものを買ったり、海から自分たちで獲ってきたりしている。
のとじま水族館は海のそばにあるので、自分たちでエサを調達できるのだ。
この搬入庫にいる間、ずっと波の音を耳にできたが、それくらい海に近い。
洗い場で包丁を使って切り身にしている女性飼育員の方
黙々と作業していた。
職人みたいで後ろ姿がカッコイイ。
NHKでやっていたドラマ『水族館ガール』でも見られた光景だ。
こういうリアルな作業現場を見たかったのだ、自分は!
見れて満足。
冷蔵庫も見せてもらえた
さらに暗い冷蔵庫内
広さは4畳もあっただろうか?
そんなに広くはない。
この冷蔵庫では主にエサの保管をしている。
一週間分を保管して、また一週間後に蓄えていく。
さらにこの奥には冷凍庫もあった。
冷蔵庫と冷凍庫の室温
冷蔵庫では1℃くらい、冷凍庫では-25℃くらいだ。
冷凍庫の中にも入らせてもらえるので入ってみた。
自分は学生時代にアイスの卸屋でバイトをしていたこともあったのでその寒さには懐かしくなった。まず、Tシャツ一枚で長く入っていられるようなところではない。
他の二人(女性)はすぐに出ていったのに、自分は懐かしがって、おまけに写真も撮ろうとしていたので、30秒以上はいた。
職務上、一緒に入っていた隊長はきっと「まだ出ないのかよ?」と思っていたに違いない。
-25℃の世界は30秒くらいでもカラダがおかしくなるんじゃないかと思えるくらい寒い。というか、肌が痛くなる。
ちなみに冷凍庫内の写真は、あまりにも暗すぎて結局まともに撮れていたものが一枚もなかったので割愛させて頂く。
防寒具を着ていたら撮影をもっと粘っていただろう。
ポンプ室→水槽の裏側へ
ポンプ室も案内してもらう
この薄暗さがだんだん秘密基地のようにも思えてきた。
奥に進んでいくと「深い海の生きものたち」コーナーで展示されている水槽の裏側にたどり着く。
狭いところに水槽と配管
お客さんの心象だとか考えなくても良いこの配置、雑多な感じがザ・裏側。
天井も低い
自分はこの頭上注意の案内に2回頭をぶつけた。
男からするとそれくらい低い。
奥には予備槽と呼ばれる水槽もあった
出番を控えている魚やケガや病気をした魚を入れてある。
その予備槽の手前のホースの入ったものは濾過槽だ。
浄水場のろ過装置と同じような仕組みで下に砂が敷いてあり、下からポンプで水を吸い取ることで、砂を通して水をキレイにしている。
さらに細かいゴミなどはバクテリアによって除去しているそうだ。
砂にたまったゴミは逆に下から水を送ることでブクブクと浮き上がらせ、回収しているという。
現在展示されている水槽を上から眺めることも
展示されている水槽が並んでいる。
横から見るのと上から見るのとでは見え方が違う。
というか見なくて良いものまで見えてしまう
弱ってしまって浮いていた一匹。
上からだとこういうのにすぐ気づく。
深海魚コーナーの水槽も覗けた
深海は、水深200メートルより深い海を指す。
その深海に合わせて光量や水温なども調節しているそうだ。
おかげでこんな赤い色をしている。
それにしてもこの写真、何の魚かわかりづらい。
変なのがいるというくらいしか伝わらない。
倉庫のような場所にはクラゲ
最後にこんな場所も案内してもらえた。
ラッコ水槽の隣の倉庫みたいなところ
ファーストフード店「ドルフィン・テイル」のオープンカフェスペースから斜め前に見えるところだ。
戸の内側に入れてもらえる
ここに何があるかと言えば、クラゲがいた。
クラゲのいる水槽の裏なのだ。
展示前の、クラゲの赤ちゃんなどもここにいた。
本当は暗い部屋だが明るくしてから入っていく
中はなんか研究室の倉庫みたいだった。
飼育中のクラゲたち
こんな感じに育てている。
サイエンスティックな香りのする光景だ。
中にはうじゃうじゃいる水槽も
実験のために増殖させているような雰囲気があるのだ。
エサの量にもよるが、大きくなるまでに数週間くらいかかるという。
意外と早いと思ったら、クラゲの寿命は1年なのだそうだ。
クラゲにはこれを与えている
乾燥した卵のまま購入して、それを海水で孵化させる。するとちゃんと生きたプランクトンとして使用できるのだとか。
こんな機械もあった
こちらプロテインスキマーというものだそうだ。
海水中のタンパク質など余分な汚れを小さな気泡で取る機械だ。
この水族館ではクラゲ用だけに使っている。
クラゲは水が重要なのだ。
感想
水族館裏側探検隊はここまでだ。
館内の裏側を回り、回りながら隊長こと飼育員さんの説明を聞いていると、目安の時間である40分間があっという間に過ぎてしまった。
正直に言えば、好奇心を刺激されてもっと見て回りたかった。本館以外も見学したくなったというのが本音だ。
(こう書くことで、いつか本館以外の裏側探検も企画されないかなぁと淡い期待をしたい)
まあ、それでも、隠しダンジョンを探索しているようなあの興奮を味わえ、飼育員さんの作業現場も見れただけでも贅沢というものだ。
マニアックなイベントなのに贅沢というのも変なものだが、水槽を表からから見ていたときよりも魚のことについて、水族館について詳しくなった気になれるから、この裏側探検に参加したことがない人に比べると水族館ファンとして一つ階級が上がったような優越感にも浸れるので、贅沢というのも間違っていないのかもしれない。
なお、最後にこんな参加賞のようなものをもらえた。
缶バッジだ(おまけに「能登の海からのたより」という冊子も)
ペンギンのものとクラゲとジンベイザメのものの3種類の内から一つもらえる。
クラゲを見た後だけにクラゲも欲しく、のとじま水族館と言ったらジンベイザメだからそちらも欲しく、かなり迷ったが、写真のように自分はペンギンを頂いた。
このペンギン、金沢市内を走る北鉄バスにラッピングされているのをよく目にしていたので、こいつにしていた。
この缶バッジ、のとじま水族館ファンレベルが一つの上の階級である証にならないだろうか?