石川県加賀市には山中温泉と呼ばれる温泉街がある。山代温泉、粟津温泉、片山津温泉と一緒に加賀温泉郷と呼ばれているところだ。県内の成人で山中温泉の正確な場所は知らなくても、その名を知らない人はまずいないであろう、石川県の温泉観光地だ。
ただ、山中温泉のその地に巨大な杉が、しかも4本も存在し、そのうち一本が天然記念物にも指定されているていると知っている県民がどれくらいいるかとなると微妙な話となってくる。
そう、この山中温泉には、屋久島の縄文杉にも大きさで負けない、またかつて昭和天皇も石川国体の際に行幸なされた「大杉」があるのだ。
それは「栢野大杉」と呼ばれている
ゆえの「栢野大杉」である。
また、栢野町の山の中にドンッと生息しているのではなく、とある神社の中にそれらはある。それらというように4本の巨大な杉が一つの境内に立っているのだ。
その神社というのが、
菅原神社だ
「村社」とある。神社の旧社格の一つで、郷社の下にあたり、無格社の上になる。村が奉幣(ほうへい)していた、もっとわかりやすく言うと村でお供え物をして村で守ってきた神社だ。
境内はけっして広くない
むしろ狭いと言ったほうがいい。
この写真は鳥居の足元から撮ったのだが、その先に見える社までしか縦の長さがない。
100メートルもなかったと思う。
そしてもうすでに一部が見えているように、この狭い境内の中に巨大な杉が4本も立っている。そのおかげでますます狭く感じてしまう。
手水舎も鳥居の前にあった
栢野のバス停の隣に駐車場として使われるスペースがあり、その前にこの手水がある。仮に鳥居をくぐった先を境内とするなら、境外にあることになる。
その鳥居が、
こちら
石造りだ。
そして「菅原神社」の文字。御祭神も、このブログでも度々出てくる学問の神・菅原道真だ。
引いた画がこちら
杉が高い。
この高さを表現しようと杉を入れると鳥居が半分しか入らず、鳥居をすべて入れようとすると杉が入らない。あちらを立てればこちらが立たずの状態であったため、「大杉」を取って撮った結果がこの写真だ。
高すぎて、常に見上げなければならない。
鳥居を全部入れた画がこちら
鳥居をくぐるとすぐに橋となるのがわかる。
橋は「浮橋参道」という名だ
大杉を守りながら鑑賞もしてもらうために設けられたようだ。
ちなみに立て札にも書かれてあるように境内は禁煙です
大杉に火が移りでもしたら大変だ。
自分が皇室好きだからか、高まってくる。
その天覧の大杉が…
こちら
カニのハサミのように二股に分かれているこの大杉が、この境内の中でも一番古い。そして、いわゆる「栢野大杉(大スギ)」は4本あるうちでもこの一本を指す。他の3本の大杉は普通に「大スギ」または「菅原神社の大スギ」といった具合に、区別して記されるているのだ。国の天然記念物に指定されているのもこの二股に分かれている一本で、その高さは約54.8メートル、幹囲は11.5メートル、樹齢は2300年という。
また、他の3本の大スギも高さではこの「栢野大杉」に負けておらず、3本は県の天然記念物に指定されているとのこと。
この迫力、この太さ
幹の途中でコブのようにぽっこりと飛び出ている箇所も
そしてでかすぎる
高さがありすぎて、境内から全体像を撮ろうとするとだいたい上手くいかなかった。
下から撮った図
やはり、高い。ただ、この高さのおかげで日陰になるから、夏などは過ごしやすそうだ。
このような立て札も
硬貨などを聖木に挟むことも禁止されているようだ。
大杉の間を抜けると社
浮橋参道を中央に、右に2本、左に2本の大杉がある。(栢野大杉は鳥居を正面にして右側の奥)
その大杉の間をくぐり、浮橋を渡りきった先に社がある。
大杉のお陰、という表現が正しいかわからないが、日陰を抜けた先にあるため明るい。
はい、このとおり
こうして見ると写真が傾いているように見えるが、これは自分の写真の技術の問題というより、拝殿へと上がる石段が最初から傾いていたせいだと思う。
こちらは普通に撮れる…
斜めになった土台の上にある賽銭箱は撮りづらかった
左右に傾いているだけじゃなく、前後にも傾いているように見えてくるんですよね、これが。
さて、社を正面から写した写真でもすでに見えていたと思われるが、この神社にも狛犬がいる。しかも2対もいた。大杉を目当てに撮りに来たものの、狛犬もいるならこれまたしっかり撮らなければならなくなるから最近の自分はすっかり狛犬好きだ。
撮った
吽形の狛犬だ。しかも以前、小松市の安宅住吉神社を訪れた際にも見かけた子連れ狛犬だ。
親子揃って凛々しい
同じ方向を向いているせいもあるのか、『巨人の星』のワンシーンに見えた。
見上げる先は「星」ではなく「大杉」ですが
ちなみにお母さん(父ちゃんではない)、
首が太めです
裏から見ると子供もサッカーボールをトラップしているようにも…
サッカーボールではないが、対となる阿形の獅子は、
毬をトラップしている
獅子が毬というパターンは子連れ狛犬ではよく見られる。
だいぶ侵食を受けていて、もとの柄などはわかりづらい
獅子の胴体もそうだが、白カビも見られる。
柄が潰れたり、白くなったりは、しかしそれはそれで味だ。
横顔
白カビを傷跡とみると、歴戦の猛者のような風格がある。
斜め撮り
そんなものでこうして撮ると、大杉を見上げるというより睨みを利かせているようにも見えなくもない。
でも顔を入れない構図だと哀愁がある
ついでに尻尾もかわいい
先にも書いたがこの神社には狛犬が二対いる。これら狛犬たちのすぐ手前にもう一対の狛犬たちがいるのだ。
しかもその趣が、最初の一対とは明らかに違う。
こちらがそれ
口も閉じているので確かに阿形の狛犬だが、目の大きさも、ブタのような鼻の潰れ方も、垂れた耳も現在一般的に見られる「狛犬」の形とは違う。
同じ神社の狛犬なのに、「墓場鬼太郎」と「ゲゲゲの鬼太郎」くらい差があるように思えた。
でも何でしょうか、この不思議な愛嬌
見慣れない分、もののけのように見えても、じっくり見ているとかわいらしく思えてくる。この視覚的特徴、やっぱり「狛犬」だ。
足は細く爪は鋭い
デフォルメされた丸みのある現代的な狛犬と比べるとリアルな造形だ。
それでいて尻尾は大味
カールなどの装飾もなく、細くもない。
こちらは阿形の獅子
ちゃんと口を開けているものの、その口の形が笑っているように見えてくる。
口の周りの鬣(たてがみ)も髭(ひげ)みたいだから、あわせてまるで好々爺のようだ。
顔のアップ
寄ってみて牙を見つけても、口を曲げて笑っているようだ。
こうなってくると、ブタのような鼻も、丸く大きな瞳もますます威嚇とはかけ離れた印象となる。
細い足首と爪
この爪すらも、もはや、痩せた老人の指先のよう。
杉を見上げてもほのぼの
頭のなかで俳句とか練っていそうだ。
改めて4本の「大杉」
この大杉の前にしては威嚇や虚栄なんてものは通用しませんわな。
自分が小人であると思い知るにはいい神社であり、それを思い出させる狛犬たちでしたよ。
最後に
「大杉茶屋」に寄る
神社の前には茶屋があった。
昔ながらの休憩所のような茶屋で、入ってすぐにカウンターがあり、客が立てるスペースが1畳くらいしかない狭い店内で手作りの草団子を売っている。
座れる場所といったら、軒下のベンチくらいだろうか。
そこで「草えがら」を買い、食べながら帰った。
こちらが「草えがら」
中には餡が入っている。手積みのよもぎをふんだんに使っているそうで、たしかに草団子らしい風味があった。それもくどすぎず、かといって主張が弱いわけでもない。素朴で丁度よい味だった。
ただ、自分はこの神社に訪れる道中で、金沢市の富樫にある「パティスリー ホソヤ」というケーキ屋で買った「和栗のモンブラン」も食べていた。
こちらがそのホソヤの「和栗のモンブラン」
秋限定で、以前昼頃にふらっと行っても売り切れていたので、栢野に向かう前の午前中に立ち寄ったら買えたのだ。ムース状で栗の個体が一切ないのに、「そこに栗がいる!」と思わせるくらい和栗の風味が強いケーキだった。この味は、また食べたいと思った。それくらい、美味しかった。
そしてさらには、神社に行く直前でカレーライスも食べている。
短い時間の間に炭水化物や糖分を摂取しすぎたものだから、「草えがら」を美味しく頂いて帰宅する頃には、血糖値が急に上がったのか、頭が痛くなった。
甘いものを食べすぎて頭が痛くなったのは、子供の頃にチョコレートケーキを食べすぎた以来かも…
調子に乗るなということだ。
これも、あの大杉の教えなのかもしれない…