9月3日より珠洲市で始まった「奥能登国際芸術祭2017」へ10月14日に四度目の訪問をしてきた。
四度目ともなるとまだ見ていない作品というのもほんの少しだ。
今回はその一つである若山エリア南山の作品(35番)を中心に記したい。
若山エリア南山地区へ
一番山の中かもしれない
奥能登国際芸術祭2017の作品は1~39まである。
自分はこれまで珠洲市の南側にある33番から順に海沿いを反時計回りにまわって珠洲市北西にある1番へと巡り、最後は珠洲市中程の山間部にある若山エリア(36~38)を目指すというルートを基本的にとってきた。もちろん途中、広域展示(37、38番)もあって寄り道もしているのでキレイにこのルートで回れたわけではないが、この南山地区の作品へはほぼ予定通りほんと最後の方に訪れることになった。
これまで1~38番まで巡ってみた自分からすると、この南山地区は一番山の中にあったのでは、という印象がある。
同じ若山エリアの北山よりも山の方ではないかとそう思えた。
道中に鳥
これ、車道の真ん中だ。山の中にあって車があまり通らないせいか鳥が余裕で道の真中でくつろいでいた。
自分も思わず車を停めて車窓から撮っていた。路側帯に寄せるわけでもなく、通行車線上に停めてこうして撮っていられるほど、人も車もこない道路だった。
この鳥はトンビだろうか? でもちょっと違う気もする。
こうして自分が側で写真を撮っていても逃げないのだから大した奴だ。
このトンビを見つけた道路をさらに登っていくと、そのうち作品の案内も見えてくるのだった。
奥能登国際芸術祭の幟と35番の案内
「海のこと山のこと」の文字も手書きなら、支える足も竹だ。
「水のドーム」と書かれた案内
こちらも木に巻かれていた。
これによると南山は湧き水が有名で、この35番には五右衛門風呂があるらしい。
駐車場は民家の敷地内にあった。
35番 竹川大介「海のこと山のこと -在郷まわりと五芒星」
35番だ
自分にとっては38番目に訪れた作品だ。
案内板の全体図
樹齢500年の大ケヤキの株と書かれたその場所の中央に板は立っていた。
これまで旧民家や旧小学校などを活かしたインスタレーションや作品をよく目にしてきたが、この35番では自然をよく使っているなとの印象がいきなりあった。
もっとも、この前に北山地区で35番の一部である「火のドーム」を見てきたので、あの辺りのぬかるみと比べるとまだ落ち着いたところではある。
スタンプはセルフ
この手作り感とゆるさがステキだ。
どこまでも自然体でかつメトロポリタンな香りがしない。
順路とある
民家の庭を抜けて、ちょっとした広場に展示物がある。ただ、その前にこんなものもあった。
リヤカーだ
輪島から来た「こんか娘」とある。
こんか娘はこうして「こんかいわし」や「いわしのいしる」「わかめ」などを積んだリヤカーを引いて能登を歩き、随所で物々交換してきたらしい。ちなみに「こんかいわし」とは「こんか漬け」という魚の糠漬けをイワシで作ったものだ。地元の保存食だ。
芸術祭の鑑賞客の中にも移動中のこのリヤカーを見つけてこんか漬けなどを購入したのだとか。自分も移動しているところに遭遇したかった。
10月末には逆に米を積んで輪島の舳倉島に戻るらしい。
リヤカーはこのあたりに置かれていた
このリヤカーを尻目に案内板の横を通過して茂みを迂回するとちょっとした広場だ。
迂回と言っても庭の中を歩いているようなものですぐそこだ。
ここがその広場
「海のこと山のこと」の中心拠点、「水のドーム」だ。
その名の通り、ドーム状のものが建っている。
そのドームの中で五右衛門風呂もあり、この日の係の方(地元のおっちゃん)が湯を沸かしていた。
その方がまたよく喋る方で、ここの湧き水を飲むと美人になれるとか、嘘か本当かよくわからないこともよく教えてくれた。
ドームの中でチラッと写っている作業服の方がその人
この方が教えてくれたように、この敷地内には水を使った展示物もあった。
こちら
「水玉風呂」と書かれてあった。
風呂として使うにはちょっと小さいかも。
脇に椀が置いてあり「美人になる水」を飲むこともできる。
この水、どっから伸びているんだろうと思ったら…
こっから伸びていた
山から伸びていた。
近寄ってみると…
斜面に竹を突き刺してある
これも嘘か本当か、係の方曰く「斜面に竹を刺しただけで水が出てくる」らしい。
ここにもお椀があったので、係の方がすすめる水を自分も一つ飲んでみることにした。
奥能登名水百選にも数えられる若山町南山の竹泉だ
少しだけ飲んでみた。軟らかい水だった。飲みやすい。
そして飲んだ後に「女性が飲むと美人に、男が飲むとオカマに」とその係の方は言っていた。高田純次ばりのテキトーぶりだ。
それでも話しやすい人で、五右衛門風呂についてもいろいろ話してくれて、いつ頃沸かし終わるかも教えてくれた。
「入ってみる? 足湯にしてもいいよ」とも言ってくれるので、自分も利用させてもらうことにしたのだった。
この五右衛門風呂、入ってOKなのだ。
「足湯の旅」番外編
ちなみに、ここにあるドームすべてに五右衛門風呂があるわけではない。
中には「山海儀礼塚」と書かれた貝塚のようになっているところもあった。
このように
ほかにも舞台のように何も置かれていないドームもあった。実際にそこで舞踏の公演やスペシャルライブなどもあったようで、このインスタレーションは五右衛門風呂がメインというわけではないらしい。
色んな人やモノが交流する場なのだそうだ。
まあ、日本人にとっては風呂もまた交流の場だろう。
その風呂(五右衛門風呂)は二つあった。
一つは…
地獄釜と書かれていた
ただし、こちらは自分が足を運んだ時、沸かされていなかった。
もう一つは…
極楽釜だ
地獄と極楽で何がどう違うかはわからないが、響きだけなら「極楽」の方が良いだろう。
釜を上から撮影
このように板(簀子)が浮いている。
釜を下から火に直接かけているわけだから、全身で浸かる場合は素足が釜の底に直接触れないようこの板に乗っかりながら入湯していくことになる。直接釜底に触れると火傷してしまうのだ。
五右衛門風呂ってどこもこういう板が用意されているものなのだと言っていた。五右衛門風呂なんて現代ではまずお目にかかれないので、自分もこの板のことは初めて知った。
係の方はさらに「火も撮ってあげて」というので沸かしている火も撮った。
ファイヤーだ
直焚きだ。沸くのに30分以上はかかると言っていた。
温度調整は火を弱めたり水を足したりしてするみたいだけど、なかなか難しそうだ。
手を入れて熱さを確認
沸くまで少し待ってからこうして手を入れてみた。
熱くはなく、かと言ってヌルいわけでもない、程よい温度だった。
入りどきだ。
階段を使って入っていく
その階段から土足厳禁だ。
もし全身で浸かりたい人はこの階段を登る前に衣服を脱ぐことになる。
実際、この五右衛門風呂へ全身で入っていった人もいるそうだ。
腰を下ろす場所はこちら
自分は足湯として使用するのでこの敷かれたタオルの位置で腰掛けることになる。
なお、足湯にするにしろ、全身で浸かるにしろ、拭きタオルは持参しないといけない。
自分の場合、一週間前に小松のどんどんまつりでゴミ拾いをした時に貰ったタオルが車に積まれていたのでそれが役に立った。
(どんどんまつりに行ったときの記事は→こちら)
浸ける
思わぬところで「足湯の旅」となってしまった。
まさか奥能登国際芸術祭2017で足湯をしようとは思ってもみなかった。
そのお湯は、手を入れたときと同じように熱くもなく温くもなくちょうど良かった。
事前にその水を飲んで軟水だとわかっていたからか、足を浸してもやわらかい感じがした(多分、思い込み)。
自然に囲まれながら五右衛門風呂で足湯、最高だ。
ただ、弱点もあった。
この日の風向きのせいもあったと思うけど、湯を沸かす火の煙がちょうど自分の方へと昇ってきた。
息が苦しいということはないものの、涙が出てきて目を開けていられなかったのだった。
これが全身で浸かるなら釜の中でカラダの向きも変えられて煙も避けれたと思うけど、足湯なので向きも変えられないし、ポジションも高いしで昇ってきた煙をちょうど顔で受けてしまうのだ。
自分より先に足湯として利用していた小学生くらいの男の子も同じように涙目になってしまったそうだ。
結局、自分は5分と経たずに上がってしまった。
そして、笑った。
足湯で煙にまかれて涙を流すなんて、いままでの足湯の旅でもそんな経験はない。
足からデトックスという点では失敗かもしれないけれど、「変な経験値」という点ではこれまでにないものだった。
感想
以上、若山エリア南山地区の作品の紹介と、図らずも始まった足湯の旅だ。
足湯ができると知れたことも、失敗しながらも愉快な体験ができたのもすべてはあの場所にいた係の方(おっちゃん)のお陰だろう。
あの方、普段からいるのかと訊ねたら、この日が初めて番をしたと言っていた。そのわりには手慣れたガイドぶりだったと思うので、それもまた本当か嘘かは不明だけど、何にせよその係の方を見ているとボランティアでこうして芸術祭に参加するって楽しそうだなと思えてきた。
その方、そんな自分に、もしまた3年後に本当に奥能登国際芸術祭が行われるならこうしてボランティアで係や案内の仕事をやってみてはどうかと、これまた冗談のように言っていた。3年後、再び奥能登国際芸術祭をするかもしれないという噂がある(まだ決定ではない)のだ。これに関してはちょっと本気で考えてみたくなった。
風呂番をするのも楽しそうなら…
リヤカーを引くのも楽しそうだ
今回ボランティアでも参加していた方々がだんだんと羨ましく思えてきた、若山エリア南山地区であった。
次回は、若山エリア上黒丸で目にした演劇と舞踏を簡単に紹介したいと思う。