9月3日より50日間にわたって珠洲市で開催している「奥能登国際芸術祭2017」。
初日、9月9日、9月23日に続き10月14日にも足を運んできた。
今回は「のんびりまわる」第四日目その1として若山エリアの北山地区を中心にまったり紹介したい。
若山エリア北山地区へ
近くにダムとホタルの観賞地がある
若山エリアと呼ばれているのは珠洲市の若山町のことだ。かなり広い町(といっても殆どが山)で、同芸術祭でも4作品が同町を会場にしている(内一つはイベント)が一つ一つの距離が8kmくらい離れている。
その若山町の北山地区には作品番号でいうと36番がある。
駐車場は展示場から少しだけ離れており、その駐車場のすぐ近くには35番の一部が展示されていたりする。
36番を目指してやって来たのに最初に目にする案内が「35番」の数字なのでちょっと混乱してしまうところだった。
今回はその北山地区の紹介なので35番のその一部も紹介したいと思う。
なお、北山地区の作品の近くには若山ダムもあった。
迷ったらこちらを目指すと良いかも知れない。
こちらが若山ダム
大きくはないがダムだ。
ガードレールには稲架(はさ)もあった。干すにはちょうど良い場所なのだろう。なんでも有効活用だ。
水もすこしたまっている
見てわかるように山の中にある。
そして写真で言うと奥の道の坂を登っていくと36番の駐車場が見えてくる。
その駐車場付近の様子
「ほたるP」となっているのはこの近くにホタルの観賞地があるからだ。
その駐車場を利用しているわけだ。
このように
「北山ほたる」として知られているようだ。
この小阪を降りたところに川があり、そこで観賞できる。
小川がある
北山川というらしい。
ゲンジボタルやヘイケボタルの幼虫のエサとなる「カワニナ」というタニシのような巻き貝の一種がよく生息しているそうだ。ホタルを守るためにも、そのカワニナも守るよう(要するに獲らないでほしいという意味だと思われる)お願いが書かれた柱も立てられていた。
6月終わりから7月前半の夜にやって来ると、ホタルの観賞ができるようだ。
35番の一部がある
36番を目指したはずが35番の案内板を目にする
駐車場に車を停めて歩き出すと、まず最初にこちらの案内板が目に入る。
「あれ?」って思うけれど、35番の竹川大介「海のこと山のこと -在郷まわりと五芒星」の一部がこの北山地区にあるのだ。
しかも35番のスタンプをここで押すことは出来ない
竹川大介氏のメインの作品は若山エリアの南山にあるので、ここでは押せないのだ。
それでも順路に従って見に行こうとする鑑賞客は多かった。
「順路」と書かれてあれば進みたくなる… 鑑賞客の心理としてはそりゃそうだろう。自分もそうだった。
35番の「火のドーム」というのがあるらしい
こんなところを登っていって…
こんなぬかるみを通っていくことになるが
まさかこんな悪路を通らなくてはならないとは思ってもみなかった。
最近、雨も続いてたからか足場によってはズブズブのヌメヌメで、靴が確実に汚れるので鑑賞者の皆さんの軽い悲鳴が聞こえてきた。
足跡がつくくらいのぬかるみ
カメラを抱えながらこの道を通るのはなかなか勇気が必要だった。
自分としては、この奥能登国際芸術祭2017の中で一番の難関だった。
シャク崎以上だ。シャク崎も前日に雨が降っていたらこうなっていたのかもしれないので、その点だけはまだ運が良かったと思っているけど。
(シャク崎の作品の紹介記事は→こちら)
その先にテントを発見
「かや蒸し風呂」とある
「海のこと山のこと -在郷まわりと五芒星」では風呂を使ったアート、または風呂があると噂に聞いていたので、自分はすぐに納得した。
ちなみにテント(かや)の中はこうなっている
キノコ型の椅子が設けられて、そこに座れるようになっていた。天井はなかなか低い。180cmある自分だと少しかがんで入る必要があった。
この蚊帳の中が蒸し風呂(サウナ)になるようだ。
ただ、この時は稼働前だった
午前の10時くらいにやって来たので蒸し風呂はやっていなかった。
残念だった。
そして、あのぬかるみを再び戻らないといけないと思うと苦笑が漏れた。
この場所は蒸し風呂を利用しに行くと最初から決めて、その目的のために汚れてもいい服か、軽装&サンダル姿で向かうのが良いと思う。
36番 坂巻正美「上黒丸 北山 鯨組 2017」
駐車場から車道を少し登ると36番のある建物が見えてくる。
その前には大きな櫓(やぐら)があるのですぐわかる。
櫓(やぐら)だ
道の途中から大漁旗が何枚も掲げられ、その先の小池にはこのように大きな櫓が立っているのだから、山ではない感じがする。
こちら「ボラ待ちやぐら」だ
ボラ待ちやぐらというのは七尾湾付近で行われていたボラ漁のための櫓だ。
櫓に登って袋網に入ってくるボラをひたすら待つという原始的な漁だ。一時衰退してもう行われていなかったが、最近、石川県鳳珠郡穴水町あたりで復活している。
穴水町に行くと観光用の櫓も海に立ったりしている。
その漁のための櫓が、珠洲市の山の中にドンッと立っているのだ。
しかも、実際に漁に使われているボラ待ちやぐらより幾分デカい。
地元のおばちゃんたちにその高さを聞くと、13メートルくらいはあると言っていた。
ついでに「山に海が来た」とも説明してくれた。
この巨大なボラ待ちやぐらの後方に36番の展示場所がある。
36番だ
案内板はこんな位置にある
オブジェは奥の建物の中にあり、受付もそこにあるのだが、大漁旗やボラ待ちやぐらを含め、この敷地内にあるものすべてを作品としたインスタレーションだと考えていい。
建物の正面へ
受付は扉を入ってすぐ右にあった。
建物そのものは大きくなく、部屋も一つだけだ。
受付後方の黒板
詩のようなものが書かれてあった。
鯨組頭「坂巻正美」氏はこのインスタレーションの作者だ。
坂巻正美氏は三年くらい前から旧北山分校で「鯨談義」というものを行っている。
鯨談義と言うのは「米=大黒天」と「鯨=恵比寿」を奉る交流の場だそうだ。
山と海の物々交換をテーマにしているという。
地元のおばちゃんたちがボラ待ちやぐらや大漁旗を指して言っていた「山に海が来た」もその交流を表現しているわけだ。
通路には「クジラ漁」の垂れ幕
幕は部屋の中にもある。
今回のインスタレーションは米の大黒天がこの土地に鯨(または「海」)の恵比寿を招いている様子を表現しているらしい。
部屋に入ってみると…
舟が展示されていた
舟の上には鯨の頭蓋骨と米俵
受付の人に聞くところによると、この骨、本物の鯨の頭蓋骨だ。
後頭部ってこうなっているのか…
クジラ漁って、縄文時代から行われていたものらしい。この能登半島では漂着鯨も多かったようで大海からやって来る鯨と「恵比寿」の神格が重ねられるようにもなっていったとか。こういうのを「寄り神信仰」というそうなんだけど、この頭蓋骨はその信仰の象徴と言ったところだろうか。メデタイことをこうグロテスクに表現されると、その信仰がまた生々しく思えてくるから面白い。本当にあったんだろうなと思えてくるのだ。
実際、クジラ漁は能登半島でも行われていたわけだしね。
また、能登半島の北約50kmにある「舳倉島」(へぐらじま)(輪島市に属する)とこの土地とで実際に物々交換があったとも言っていた。
ちゃんと歴史も学ばせるオブジェでありインスタグラムでもあるようだ。
感想
以上、若山エリアの北山地区の作品の紹介だ。
稲架のあるダムを目にして、山の中でぬかるみに足を取られそうになり、そして山の中に海を見つける… 変なところに迷い込んだような感覚のあったエリアであった。
山の中にあって自然に囲まれたところであったから、その自然の厳しさ、不便さと、そこで耐えながらも生きていた地元の人達のたくましさや生活の知恵のようなものも感じ取れるエリアでもあった。
ここと比べると、あとで立ち寄った「ラポルトすず」(中にインフォメーションセンターあり)のある飯田町あたりがちょっと都会っぽく、かつ平和に見えたくらいだ。
この池、正確には田んぼらしい
休耕田に水を張ったのだとか。
大漁旗もボラ待ちやぐらも、冷静に考えると変だが、こうしてみると意外と山の中に溶け込んでいる。なんだか秋祭りでも始まりそうな雰囲気があるのだ。
なるほど、祭りだ。まつりだと考えればいいのだ。
あのぬかるみだって、泥祭りって思えばへっちゃらのはずだ!(多分!)
なんでもかんでもスマートに片付けようとしてはいけない、そう悟らされた北山地区であった。
次回は若山エリアの南山地区を中心に紹介したいと思う。