羽咋市や宝達志水町あたりの獅子舞、中でも越中獅子と呼ばれるものには最後に天狗がシシを退治する「獅子殺し」(ししごろし)という演目がある。
以前より噂には聞いていたそれを見に行くため、10月8日の夜に羽咋市太田町に足を運んだ。
ほうらい祭りで目にした加賀の棒振りとはまた違った魅力があったので紹介したい。
羽咋市太田町の獅子舞
羽咋市の獅子舞を大別すると「加賀獅子」「能登獅子」「越中獅子」の三つに分けられる。
今回見に行った太田町のものは「越中獅子」(エッチュウジシ)だ。
越中のものは羽咋と隣接する氷見(富山県)の方から伝わったもので、最後に「獅子殺し」をすることで知られている。その胴体は加賀のように大きなものではなく、四人くらいが入る百足獅子の形態だ。能登ジシも同じような形態ながら、こちらは必ず「ししごろし」が演目に入っているというわけではないようなので、あえて「越中獅子」の太田町を選んだ。
自分が今回足を運んだのはその太田町の「日吉神社」だ。
この太田町の日吉神社(羽咋市内には日吉神社という名の神社が他にも数社ある)では、10月の初旬に秋祭りをやるようで、午前中に神社を出たシシが一日掛けて町の家々をまわり、最後夜の22時過ぎくらいに神社に戻ってきてそこで「獅子殺し」の演目を披露してくれる。
本来なら午前中から見に行くべきなのだろうが、自分の時間の都合上目標を絞って夜に見に行くことにしたのだった。
町内の家の前で神輿を発見
自分が太田町に到着したのは夜の20時過ぎくらいだった。
日吉神社を探している最中、民家より掛け声が聞こえたのでそちらに向かうと神輿があった。
そして舞も行われていた
町内の家々をまわっているときの演目は「ヒトアシ」「フタアシ」「バイガエシ」「ギオンブリ」「ヨソブリ」などだそうだ。
初めてこの土地の獅子舞を目にした自分にはどれがヒトアシでどれがバイガエシなのかはわからなかった。
演舞中、鮮やかな明りと煙
越中ジシの特徴なのかそれともこの太田町の特徴なのか、花火を焚きながら舞う。色付きの花火によって夜でもこのように明るくなる。すこし煙が出すぎる時もあるが、この明るさはカメラマン(少なくとも自分のようなカメラ初心者)にはありがたかった。
最後は神社に戻ってくる神輿と獅子舞
神輿とシシマイはそのあと何軒か家々をまわって夜の22時半くらいには日吉神社へと戻ってくる。
そこで最後「獅子殺し」が披露されるとわかっている人(特にカメラマン)は、22時前には境内にやって来ていい場所を先取りしていた。
グループで来ていたのか、カメラマンが結構いた。むかしは撮りに来る人なんてほとんどいなかったのに、YouTube等で知れ渡るようになってカメラマンが増えたのだとか。
自分も日吉神社に到着
自分も22時前に境内にやって来た。
まだ神輿やシシマイが家々をまわっている頃だったので、境内に明りはなく、暗かったが、カメラマンはすでに何人もいた。
みなさん、拝殿の前に陣取っていた。なんでも戻ってくる時、ナイアガラ型の花火をくぐって勢い良く拝殿に向かってくるらしく、まずはそれを撮ろうとしていたのだ。
夜の22時頃に鳥居の側の松明に火が
この写真は拝殿前から撮っている。神輿や獅子は鳥居をくぐり、のちに着火されるナイアガラ型の花火をくぐってまっすぐこちらの方まで突っ込んでくることになる。
ししも鳥居前までやって来た
ここでも一つ演舞。
そろそろ拝殿前へと突っ込んでくることになるのでカメラマンたちはこの頃にはもう撮影の準備に取り掛かっていた。
なお、鳥居から拝殿までの通路でカメラを構えたり見学することは危ないのでできない。邪魔になる位置に立っていると注意されるので気をつけよう。
22時28分頃、ナイアガラ型の花火に着火
火がつくと一気にシシ、神輿の順に突っ込んでくることになる。
まず天狗とシシが勢い良く駆けてきた!
そして神輿も!
花火が熱いからみなさん全力だ。
拝殿前までやって来た獅子と神輿は、写真で言うと左側の広場へと曲がっていく。
その境内広場でシシゴロシも行われるため、自分もこの瞬間に広場の方へと移動した。
広場より撮影(左奥に拝殿がある)
広場にやって来ても神輿はナイアガラ型の花火の下を度胸試しのようにくぐっていた。
熱い方々だ。
さらには本殿の裏より打ち上げ花火も
この花火は太田町の日吉神社の特徴らしい。
町の小さな神社なんだけど、やることが派手だ。
準備始まる
ろうそくが灯される
ナイアガラ型の花火も消えると、境内広場にて楕円の線が引かれる。
演舞領域で、見物客やカメラマンはその線より外にいなければならない。
その線をより明瞭に視認できるようにこのようにロウソクが立てられていく。
ロウソクを線上に立てていったのは楕円の線ギリギリにて待機していた我々だ。立てていって下さいと頼まれるのだ。
このように蝋燭の灯で楕円を形成していく
ただし楕円といっても、シシや天狗が入場してくる画面奥の方にはロウソクを立てられないので視力検査のランドルト環のように隙間の空いた楕円だ。
なお、「太田青年団」と書かれた行燈が吊るされた建物の前では舞用の太鼓が叩かれる。その太鼓のリズムで演じることになるので、その前で見物することもカメラマンが陣取ることも前を通過することも禁止されている。邪魔になってリズムが狂うと演舞が台無しになってしまうので、要協力だ。
「獅子殺し」
まず天狗がやって来る
このように構えながらタッタッタと見物客の前を跳ねるように楕円に沿ってぐるぐるとまわる。
まわり終えると中央で座す天狗
このときにはまだ手持ち花火を使用しないので暗い。
仕方なくストロボを使って撮影
このような状態で天狗は待機している。そしてすでに後方には獅子も登場している。
天狗を今にも食おうと狙っているのだ。
やって来て
襲う!
自分としてはストロボを使った写真って味気ないのであまり撮りたくなかったのだが、祭りを支える地元の方が花火の着火を失敗してしまったようで、この襲いかかる瞬間だけは使用した。
すぐに花火も着火
着火のお陰で再びこのような画で撮っていく。
こちらは襲われて慌てて転げる天狗の様子だ。
仕切り直す天狗
これよりバトルが始まる。
でも…
いきなり
棒をシシに取られちゃう天狗
落ち込む天狗、ドヤ顔のシシ
『マジかよ…』って声が聞こえてきそうだった。
もちろん、本人たちは喋らないので自分の勝手なアテレコだ。
以下、写真を羅列して同じように『』を添えることもあるが、それら『』内の台詞はすべて自分の想像によるアテレコだとご了承いただきたい。
獅子『伸脚するくらい余裕っ!』
そっと取り返そうとする天狗
獅子『ガルルルゥ! こりゃわしのもんじゃ、ダラッ!』
獅子『取れるもんなら取ってみぃや!』
天狗、軽く負傷。
なんか技を繰り出してきそうなシシ
『銀牙』の赤目をチラッと思い出す自分。
ただ、そんな余裕をかましているうちに…
獅子『あ… いけね… 取られた…』
こうなると天狗が優勢だ。
獅子『ぴぎゃぁー! なんかやられたゾッ!』
獅子『ナムサン…』
獅子頭、撃沈。
このシシは背中に四人くらい入っている百足型で、このように頭がやられていても背中の方はわさわさと動いていた。天狗は、その背中も中に入っている人、一人ひとり黙らせていった(倒していった)。そうして最終的に…
こうなる
完全に倒せたか確認する天狗。このあと頭部にもまわってその生死を確認していた。
天狗『もしも~~し』
返事がないということで、どうやら決着がついたようだ。
天狗『いただきます』
と言ってはいないと思うけど、自分にはそのように見えた。
そのあと、天狗は勝利の証のように獅子頭の上で腰掛けることに。
天狗『ごちそうさまでした』
と、言っているわけ無いと思うが、そうアテレコしたくなった。
ちなみに生死確認からこうして頭に腰を下ろすまで、町の人が「ソーラ、ソラ、ソーラ、ソラ!」と合いの手のような煽りのような掛け声を天狗にかけていた。
天狗『煽りだよ…』
確認は取れていないが、天狗役の人、地元の中学生くらいの子なのかもしれない。だとしたら、この大人(人生の先輩)による煽り(と断定してしまう)も地元流の洗礼なのかもしれない。
ちなみに演目「獅子殺し」はまだ続く。
仲間が現れた
もう一戦あるのだ。
先輩はそのもう一体をも煽っていたけど
…この先輩が最強なんじゃないかと思えてきた。
それはさておき、油断している天狗に敵討ちをしに来たもう一体のシシが忍び寄るのだ。
先輩も写っちゃってますけどね…
獅子2『仇討じゃ~ッ!』
後ろからの突然の襲撃に天狗もびっくりだ。
スッテン
コロリン
いえ、本当はもっと荒々しく襲われてます。
はい、このとおり
獅子2『てめぇ! うちの嫁に何をするだァーッ!』
と、誤植するくらい荒々しかった。(※「嫁」というのは自分が勝手に設けた設定です。妄想です)
獅子2『え? 何? 襲われた? マジで?』
獅子2『この外道が!』
(※誤解のないよう改めて記しますが、『』内の台詞は自分の勝手なアテレコです。当の演者たちは真剣に演じています。最初のシシが嫁であるというのも勝手な空想です)
ここからまたこのもう一体と第二回戦が始まるわけだ。
そしてこの獅子2がまた強い。
天狗、苦戦
最初の一体以上に獰猛かも
恨みや憎しみとは怖ろしいものだ。
体勢を整える天狗
ただ、相手も強いが天狗もまた出来る子。
ギャラリーからは「天狗、がんばって~!」との子供の声も聞こえていた。
この「」内の台詞はアテレコではなく本当です。
小さな子供たちからすると天狗はヒーローだ。
勢いよく攻撃する天狗
一閃!
このあとも何度か攻撃を仕掛けているので、実際には「一閃」というわけではなかったけれど、こうやって自分の前まで近寄ってきてくれて構えてくれるその姿がカッコよかったので、こう解釈したくなった。
格ゲーの超必殺技の演出みたいなカッコよさ
獅子2もついにダウン!
獅子2『な~んてねッ!』
獅子は獅子でこのように簡単にはやられない奴だったので、いろいろとわかっているなぁと見ていて思えた。
ここからもう少し天狗の攻撃が繰り返され、シシもそのうちやっつけられていく。
天狗のジャンプ攻撃
越中詩郎のヒップアタックではない。華麗に棒打だ。
そして今度こそ…
成敗!
殺せたかどうか確認し、そのあとギャラリーの前を最初のときのようにまわった後、このように後ろ姿を見せてくれた。
決めのポーズはこちら
どうだろうか、このカッコよさ。
闇夜のシシ退治これにて落着、だ。
まとめ
演目が終わったのは夜の23時半頃であった。
実際に見てみるとその演舞にはストーリーがあった。天狗のピンチもあれば逆転もあって、最後しっかりと成敗もしてと、そのしっかりとした構成はまるで芝居を見ているようであった。声がないので無音映画のようなものだろうか。
本記事では自分の妄想による勝手なアテレコを挿入してしまったが、そうしたくなるくらい、またそれができてしまえるくらい演舞に展開があり、天狗や獅子の感情が伝わってきた。
(※誤解のないようここでもう一度記しますが、写真に添えていた『』内の台詞は自分の勝手なアテレコです。当の演者たちは真剣に演じています。茶化しているように見えたらごめんなさい。)
これは、カメラマンがたくさんやって来るのもわかる。
自分としてもこのように真ん前で見ることが出来、とても運が良かったと思っている。
退場のときの姿
退場もカッコよく、獅子2体が起き上がって天狗を背負って去っていった。
馬にまたがる武将みたいだ。
(倒した相手を見方にしているようでドラクエ5を思い出したりもしたけど)
終わった時、自分は無意識のうちに拍手していた。
いいものを見れた。
羽咋市にはこのように「獅子殺し」のある越中獅子を伝承している町がほかにもいくつかある。気になった方は、9月の半ばか10月の頭頃の週末(町によって秋祭りの日にちが違う)に羽咋市に足を運んでみてはいかがだろうか。
ただし、その際はマナーだけは守っていただきたい。