先日、金沢市内にある長田菅原神社の紹介したときにも記したように、金沢市には市内の主なお宮さん36社のスタンプを集めながら参拝する「金沢お宮さんめぐり」というものがある。
(長田菅原神社の記事は→こちら)
少し前になるが、何ヶ月かかかった末に、自分はその36社すべてを参拝しスタンプも無事コンプリートすることが出来た。
36社を実際にまわってみると、金沢市には逆さ狛犬がかなりいるなということがわかったので、36社のうち逆さ狛犬のあった神社をコンパクトに紹介したいと思う。
石川県の逆さ狛犬
石川県あたりでは「逆さ狛犬」という少し変わった狛犬を見られる。
その名のとおり、後ろ足を天高く蹴り上げて逆立ちしているような格好の狛犬だ。
なんでも明治時代に国家神道から狛犬の規格が全国で統一されたらしく、ある日を境に現代でよく見かけるスタイル(岡崎現代型の狛犬で見られるようなお座りスタイル)の狛犬ばかりとなっていくのだが、金沢の石工はひねくれ者が多かったらしく、そのある日までに「逆さ狛犬」をたくさん作ったのだそうだ。正式に統一される前に作ったのだから文句はいえまいと、作り手の中の自由な精神を守りたいちょっとした反逆なのだろう。
ただ、見られるといっても月日が経って壊れたものもあるだろうし全国的に珍しいものなので市内にもそんなにないだろうと自分としては思っていた。ところがこの「金沢お宮さんめぐり」の神社の中だけでも36社中10社で逆さ狛犬を見かけてしまった。
36社を巡り終えた証(全部巡って狛犬を確認してきた)
狛犬写真家を自称しようかと目論む自分としては「逆さ狛犬」が多いと言うのは興奮ポイントだった。
以下にその10社の写真を並べていく。ただし、量が多くなるので今回を「前編」とし、10社のうちその半分の5社を取り上げたい。
淺野神社
淺野神社(あさのじんじゃ)だ
金沢市浅野本町1丁目にある。
車のことでトヨタに寄った際、待ち時間中に近くを散策して見つけた神社だ。
たまたま立ち寄った神社なのであるが、「金沢お宮さんめぐり」というものをこの神社で初めて知った。自分としては記念すべき最初の神社なのだ。
この案内を見かけて初めて「金沢お宮さんめぐり」を知った
そしてその最初の神社でいきなり逆さ狛犬と出会った。
逆さ狛犬だ
これが逆さ狛犬だ。見事に後ろ足を蹴り上げている。カラダの表面にはナルトのような渦巻き模様も見え、頭には角も生えている、吽形(口を閉じた形)の逆さ狛犬だ。
対となっていたのは子持ちの阿形(口を開けた形)
子持ちもまた珍しい。
台座に彫られた文字を見ると「大正三年九月」とあった。
明治時代に国家神道で狛犬が統一されたものの、実際に岡崎現代型のような規格ばかりになっていったのは昭和の戦後になってからだそうだ。そのため、このように大正時代の逆さ狛犬というのも見られる。まだ国からの抑圧が強かった時代の方がひねくれた石工が多かったというのも皮肉な話だ。
肉球がたまらん
この淺野神社でいきなり逆さ狛犬であったことから、「金沢お宮さんめぐり」で逆さ狛犬がどれだけいるか数えたくなったのだった。
宇多須神社
宇多須神社(うたすじんじゃ)だ
金沢市東山1丁目にある。わかりやすく言うと、観光地として有名な「ひがし茶屋街」の奥にある神社だ。
以前、顔の潰れた狛犬がいるということで紹介した菅原神社のすぐ目の前にある神社だ。(菅原神社の記事は→こちら)
ここ宇多須神社の神前で結婚式をあげると、紋付袴の新郎と角隠しをかぶった新婦がお披露目としてひがし茶屋街を歩く風習がある。自分も一度、その光景を目にしたことがあ。すごく風情があってよかった。
宇多須神社の逆さ狛犬だ
やはり吽形で角あり、体表にナルトのような模様がある。
しかも高いところにいる
台座の上にさらに台座があってその上に狛犬が乗っていたので、ずっと見上げっぱなしだった。
その台座には明治の文字
明治二十七年五月とある。
この頃から逆さ狛犬は作られていたようだ。
対となる阿形は子持ち狛犬
高いところにいるのでやっぱり撮りづらい。
普通、吽形がメスという捉え方をされているので阿形が子持ちというのは珍しい方だが、淺野神社でもそうであったように、金沢市内の、特に逆さ狛犬がいる神社ではたまに見かける。
今年1月に参拝した近所の神社でも阿形が子持ちで吽形が逆さ狛犬だった。
(近所の神社の記事は→こちら)
同じ市内だけに石工の系統が一緒なのかもしれない。
子供の方はこういう顔をしている
かわいいもんだ。
なお、ここ宇多須神社にはもう1対狛犬がいる。逆さではないが体表のナルト模様が一緒だったので紹介したい。
拝殿の隅っこにいる
こういうところだ
なんだか忍んでいるなと思える狛犬だ。
そう思っていたら境内に…
忍者もいた…
人形ですが。
神職さんに聞いてみると、これ、大学生がイベントで作っていったものだそうだ。
ユニークな神社だ。
小坂神社
小坂神社(こさかじんじゃ)だ
金沢市山ノ上町にある。
この長い石段を登っていった先に拝殿がある。
この神社、創建は737年(奈良時代)だそうで、「金沢五社」の一社に数えられ、市の条例が変わるまでは48社を束ねていたそうだ。
金沢五社はこの小坂神社の他に、上記の宇多須神社、神明宮、椿原天満宮、安江八幡宮が数えられる。それらどの神社もこの「金沢お宮さんめぐり」に含まれている。
その拝殿の前に逆さ狛犬がいた。
こちら
こちらもすごい高い台座にいた。
吽形で頭に角があり、そして体表にナルト模様。先の2社の逆さ狛犬によく似ている。
ただし、対は子持ち狛犬ではない
その口には玉もあった。
系統としては似ている節があるがどこも微妙に違うのだ。
台座に書かれた文字を見ても「大正六年」とあった。時代も若干違う。
ちなみにここの狛犬、その目を見ると…
ちょっと青い(みどり)
青い目をした狛犬と言えば、先日紹介した、前田利常が徳川家から正室を迎えたことで徳川家の流れをくむ東照宮のような神社になった長田菅原神社でも見かけた。(本記事冒頭にリンクあり)
この小阪神社の由緒によれば、この神社、一度一向一揆で焼失した際に前田家の支援によって今の場所に再建されている。しかも徳川家から利常公の正室となった「珠姫」の病の祈願所になっていたそうだ。
青い目の狛犬って「珠姫」と何か繋がりがあるのかもしれない。(あくまで想像ですが)
ちなみに境内にはねまり牛のようなのもいた
鹿みたいなのもいるし
なんだか動物園のようにも見えてくる。
余談になるが、この小阪神社には稲荷社もあり、そこの狛狐がまた…
個性的
動物好きを刺激する神社だ。
椿原天満宮
椿原天満宮(つばきはらえんまんぐう)だ
先の宇多須神社、小阪神社同様に金沢五社の一社だ。
ここにも逆さ狛犬がいるということは、金沢五社の5分の3に逆さ狛犬がいることになる。(他の二社も見に行ったが、そこは逆さではなかった)
半数以上だ。逆さ狛犬率がなかなか高い。
その逆さ狛犬
こちらの神社のものはカラダにナルト模様があるものの阿形だ。
腰の反りっぷり、足の跳ね上げっぷりも先の3つとどこか違う。
後ろ足が真上ではなく斜め上に上がっているのだ。
そのため一見ちょっと不安定そう。
よくバランスが取れているなと思う。
足場も胴体もヒビあり
年季を感じさせるヒビだ。バランスの悪さも少しは原因になっているのかもしれない。
台座に書かれた文字を読み取ることが出来ず、いつに作られたものなのか正確なことはわからなかったが、古いのは確かだろう。
対の吽形
いわゆるおすわりタイプの狛犬ではなかった。
後ろ足を地面につけているものの、こちらもこちらでケツを上げている。
「準逆さ狛犬」と呼びたくなるポーズだ。
また余談だが、こちらの神社にも稲荷社があり、その狛狐も…
いい顔をしていた
逆さ狛犬がいるところおかしな顔の狛狐がいる…偶然だろうか。
野間神社
野間神社(のまじんじゃ)だ
こちらも古い神社で創建は太古に遡り、文献に登場したのは656年だそうだ。
これだけでもかなり古い。
鳥居の近くには…
軍馬記念碑や
忠魂碑
砲弾のようなものも置かれている
忠魂碑は日清戦争、日露戦争、日支事変、大東亜戦争による小坂町出身の戦没者を合祀していると書かれてあった。
そんな野間神社にも…
逆さ狛犬がいた
しかもペアで逆さ狛犬だ
ただし、後ろ足は地面についている。
そのためこれを逆さ狛犬と呼んでいいのかは定かではないが、そのお尻の上げっぷりが立派なので一応「逆さ狛犬」として数えたい。少なくとも先ほどの椿原天満宮の狛犬のように「準逆さ狛犬」くらいにはなるであろう。
(追記:「後編」にて「逆さ狛犬」の定義についても触れています。この狛犬が正確には「逆さ狛犬」ではないことも)
形も違えば、阿形吽形共に逆さだから、先の4社の逆さ狛犬とはまた系統が違う。たぶん石工の系譜が違うのだろう。
では、いつの頃のものだろうかと台座を調べてみると…
明治三十八年とあった
宇多須神社と同じ明治時代のものだ。
全国的にも明治時代の狛犬って減っているので貴重だ。
なお、この神社には狛犬がもう1対いた。
こちらは平成になって奉納されたもののようでかなり新しかった。
平成八年九月奉納の狛犬
子持ち狛犬だが、いわゆる岡崎現代型だ。
昭和以降の狛犬ってだいたいこの顔つきのものだ。
現代の狛犬と、それ以前の古い狛犬の違いを比較しやすい神社であった。
まとめ
以上、「金沢お宮さんめぐり」で見つけた逆さ狛犬の紹介前編だ。
金沢五社を中心にまとめてみたら、その5社の中でも6割で逆さ狛犬だったので、やっぱり逆さ狛犬って結構いるもんなんだなと改めて思えた。
次回、後編で残りの5社の逆さ狛犬も紹介したい。