初心の趣

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珠洲市の「奥能登国際芸術祭2017」をのんびりまわる第三日目その2(日置エリア木ノ浦海岸)

珠洲市で行われている「奥能登国際芸術祭2017」へ3度足を運んだ。鑑賞した様子を記す「第三日目」のその2だ。

今回は「第二日目」でも立ち寄りながら、急遽予定を変更したためにすべてをまわりきれなかった日置エリアの残りの作品、中でも木ノ浦海岸地区のものを中心に紹介したい。

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日置エリアへ

「日置」はこう書いて「ひき」と読む。

日置エリアは珠洲市の北東辺りに位置する。

第二日目その4」で紹介した日置エリアの折戸地区では山の方にあったが、今回紹介する木ノ浦海岸地区を含め残りの作品はいずれも海の傍にあった。

木ノ浦海岸地区の作品は番号で言うと4番、5番。

この二つを順に記したいと思う。

 

4番 よしだぎょうこ+KINOURA MEETING「海上のさいはて茶屋」

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4番だ

国道249号線から続く県道28号線を車で走り、バス停「木ノ浦」の手前で左折して木ノ浦海岸へと向かうと見えてくる。

作家名にある「よしだぎょうこ」さんは日本の絵画を探求している美術家だ。「KINOURA MEETING」は彫刻家や炭焼き師、茶人や経済学者らで構成されるグループでぎょうこさんもそのメンバーだ。

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メンバー一覧

共同で作成したようなのだ。

なお、4番と続く5番はすごく近い距離にあるので、受付は共有しており、同じ場所で二つのスタンプを押してもらえた。

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こちらがその受付

作品とは全然関係ないけど、ハチ・アブ用殺虫剤からリアルな苦労が覗えて面白い。

受付があり、また「ヨダカ珈琲」と看板が掲げられたこの建物の中に4番がある。

あると言っても「茶屋」こそが作品なので、この建物自体が作品であると言っていいのかもしれない。

ちなみにこの建物、珠洲市を舞台にした映画『さいはてにて-やさしい香りと待ちながら-』(2015年公開。出演:永作博美佐々木希)で使われたセットだ。

「ヨダカ珈琲店」は作中、永作博美さんが演じる主人公が店主をしていた喫茶店だ。

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引いた画

こういうところにある。

映画のロケ地だけに人が多かった。

そしてお店の側では変わったオブジェも並んでいた。

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そのオブジェたち

どれもシュールだ。

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他にもこんなものも

穴だ。こういうのを見ると覗き込んだ画を撮りたくなる最近の自分。

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船が見えた

とまあ、色々とある。これらはまだ一部でほかにもあった。

こういうのを先に見せられたものだから「海上のさいはて茶屋」もどこかブッとんだ茶屋なのだろうかと少し警戒して入ってみると…

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落ち着いたところだった

木ノ浦の海を望める落ち着いたところだった。

茶屋とあるが、どちらかと言うと「茶室」だ。

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これ、茶道具らしい

ハイカラだ。

小上がりの畳になっていて、芸術祭期間中、実際にここでお茶会を行ったりするそうだ。また、イベントやシンポジウムなどもやっているとのこと。

自分が足を運んだ時は、残念ながらそれらの時間ではなかった。

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窓の近くでは波打ち際を見下ろせる

満潮の時は波が近くまでくるそうだ。

なお、ガラス部分は踏んではいけない。

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窓からの海

いい景色だ。この景色を見ながら、なんにも考えずに、のんびりとお茶をすすりたい。

 

また、この茶室では何故か犬用の洋服も売られていた。

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ワンコ用の洋服だ

かわいいもんだなと見ていると…

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リアルでワンちゃんもいた

ミニチュア・ピンシャーだ。名前を聞いたら「アメリ」と言っていた。

むっちゃかわいい。

噛み付いたりしないので抱っこもできますよと言ってくれたが、カメラを持っていたので頭だけ撫でさせてもらった。

ちょっと警戒していた(当たり前か)けど、むっちゃ大人しい。

動物好きとしては、イベントを見れなくっても犬と触れ合えただけで満たされた。

(もしかしたら自分、下手すると「犬≧イベント」かもしれない)

海を眺めながら犬とまったり茶を点てる…

いいですなぁ… 想像するとたまらんですな。

公開時間外の夜とかに入れないのだろうか? そりゃ無理か…

 

5番 アローラ&カルサディージャ「船首方位と航路」

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続いては5番だ

4番の茶店とは同じ海岸にあるので目と鼻の先だ。

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海岸の端の方へと歩いていく

端といってもほんとすぐそこだ。

プライベートビーチを散歩している感覚で行ける。

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こういう所を通っていく

こういう道を通るたびに田舎の畦道を思い出す。

その先に現れるのが…

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こちらだ

ボートの船首に鳥のような像がついているこれが「船首方位と航路」だ。

この鳥、アメリカ・スペイン戦争にてアメリカが使っていた軍艦の船首像をモチーフにしているんだとか。

作者であるアローラ&カルサディージャはプエルトリコを拠点に活躍するアーティストユニットだそうだ。プエルトリコといえば米西戦争でアメリカが勝利したことでスペインからアメリカに割譲されているところだ。

いまも一応アメリカに属しているんだけど、高度な自治権を有している。プエルトリコの人の国籍はアメリカになるものの、アメリカ合衆国連邦へ税を払わないでいい代わりに大統領選出の際の投票権がないのだ。

過去に完全独立を求めていざこざがあったり、アメリカの51番めの州になろうとして住民投票をしたが否決されたり、最近では自治政府がデフォルト(債務不履行)で破産したりと、安定しているとはなかなか言いづらいところだ。

その不安定ぶりを象徴するかのように、この「船首方位と航路」…

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風で

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向きが変わる

(この作品は崖の上からも鑑賞することが出来る)

海に向いていたと思ったら崖の方に向いたりと、風見鶏のようにフラフラしているのだ。

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船底の構造

やじろべえのような構造をしていて、左右に傾いたり回転したりとよく動く。

不安定ぶりを揶揄するものはまだある。

船の側面に書かれている文字を見ても…

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「Unspecified Promise」(不特定の約束)

とある。反対側には、

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「有耶無耶合意丸」

Unspecified Promiseを訳すとこんな表現にもなるだろう。

そんなもので、プエルトリコの情勢を暗に示しているように思えてならないのだ。

能登も過疎化が進んで厳しい状況にあるが、上には上がいるというか異国では財政破綻している自治区もあるのだということを、能登半島の最果てから知ってほしいということなのかもしれない。そして、これを他人事として学びもしないなら、いずれ自分たちも同じような目にあうと教えてくれているようでもある。

ただ、すごいのはそれだけフラフラしていても倒れないところで、ギリギリでも生きているその強さを共感できる作品でもあるのではないだろうかと、そのようにも思えた。

 

感想

以上、日置エリアの木ノ浦海岸に置かれていた作品の紹介だ。

茶室で海を借景に犬を傍らにして茶の湯で内面を落ち着かせることもできれば、外にて木ノ浦湾の水平線を眺めながら傍らのオブジェより海外にある不安定な自治区に思いを巡らし学ぶこともできてと、一箇所で対照的な解釈ができる面白い地区であった。

もっとも、なんか色々と書いたけど、これらはあくまで自分の勝手な解釈であって、「お茶美味い」とか「船の動きが面白い」とかシンプルに気楽に鑑賞しても全然楽しめるところであると思う。

駐車場の側には…

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こんなカカシもいますしね

平和だ。

目に入った瞬間、笑ってしまった。

前にも記したと思うが、カカシってアートに負けてないと思う。

 

次回は日置エリア最後としてシャク崎にある作品について記したいと思う。