初日である9月3日に続き、9月9日に改めて珠洲市の奥能登国際芸術祭2017へ出かけた話その3だ。
今回は三崎エリアの作品を中心に紹介したい。
三崎エリア
三崎エリアは珠洲市の東側にある。
作品番号で言うと11番、10番、9番があった。いつもどおり数字で言うと逆からまわっているので、この順番で紹介したいと思う。
11番 Ongoing collective「奥能登口伝資料館」
まずは11番だ
ずっと海側を走って、少しだけ山側に入った先にこちらがあった。
旧保育所
壁にデカデカと奥能登口伝資料館と書かれてあるのでそこが会場だとすぐわかる。
受付は入口入ってすぐのところにあった。玄関の前には地元のおばあちゃん、おじいちゃんたちが3人ほど椅子に腰掛けていた。中にはテーブルに地産のものを並べて売っている方もいた。
作家名も掲げられてあった
「Ongoing collective」は個人名ではなく2016年に結成したアートグループ名だ。東京・吉祥寺にある芸術複合施設「Art Center Ongoing」のディレクターの呼びかけで集まったアーティストやミュージシャン、キュレーターなどがそのメンバーだそうだ。
本作ではその中から10名のアーティストと2名のキュレーターが参加していると書かれてあった。
どのようなインスタレーションになっているかというと、各教室に1作品ずつ珠洲で撮影した奥能登口伝にまつわる映像作品(ミニドラマやドキュメンタリー風のもの、パフォーマンス映像など)が放映されていた。
中庭にも作品があるのだが、そこだけはちょっと違ってオブジェ(?)が置かれていた。
中庭にはこんなのがあるのだ
牛だ。入り口は後方にあり、お尻の方から入っていくことになる。
中はゴミ置き場のようになっていた
海の漂流物だろうか。乱雑に置かれすぎていて、これがアートなのかと一瞬目を疑ってしまう。
それでいて吐水口のようなものも
日本庭園などでは竹などから水がでてくるものだ。
これがあるおかげか、この場が一つの庭園のようにも思えた。
耳を澄ましていると「ひょいひょいひょい」という、秋の虫の音を思わせるような、それでいて妖怪めいた鳴き声のようなものも聞こえた。
なかなかブラックが利いた庭園である。
その牛の口の部分から見える景色が…
五輪を思わせるジャングルジムや…
枯れ枝で一杯の滑り台などであった
現役の保育所だったら、子供が怖がりそうな気がする。
中に入ってみてもア―ティストそれぞれの個性的な空間が作られていた。個性的すぎて、これまた作品として優しくないなと思えるものもいくつかあった。
例えばこの教室
部屋の中はこんな感じ
呪詛のように言葉が並んでいる
でも、こういうのって小学生くらいの子だと好きかもしれない。
逆に大人には優しくないかも。
他にもこんな感じの部屋だったり
音声だけが流れる配線むき出しの部屋だったり
シュールな石のオブジェがある部屋だったり
パフォーマンス映像を流している薄暗い部屋だったり
何故か卒業式だったり
そうかと思えば珠洲を舞台にミニドラマが流れていたり
優しくないであろう作品群だった。
自分としては学生時代に放送研究会(放送なんか研究せずに酒ばかり飲んでいた)という部活に入って映像や音声作品を作っていたので、実はこういう作品、嫌いじゃない。むしろその学生時代の頃を思い出して懐かしくなってしまっていた。
そんなもので本当は全部の映像作品を最後まで見ていたかったのだが、一本30分くらいあったりするものだから、さすがに全部を終わりまで視聴するというのは諦めた。
のんびりまわるとは言え、それだけで半日が潰れてしまう。
そのため、一本だけ最初から最後まで観ることにした。
ポスターを見ただけで、これだけは観ておきたいと思えた作品があったのだ。
それがこちら
小鷹拓郎氏による『村にUFOを誘致する』だ。
こちら、玄関入ってすぐ左手にある。真っ先に目につくポスターだ。
真っ先に目について真っ先に「この作品はきっとバカだな(褒め言葉です)」と思った。
そして実際視聴してみると、やっぱりバカ(褒め言葉です)でした。
その映像の一部
台本無しのアドリブなのに、皆さん「UFO」について語っている。しかも方言丸出しだ。
UFOを誘致すれば地域が活性するとか、UFOにどんな悪影響があるかわからないからと住民の中で唯一人誘致に反対している人が登場したりだとか、リアルなドキュメンタリーっぽいのに観光資源のように「UFO」と口にするからシュールだった。
オチはないと言えばないけど、珠洲市の皆さんがみんなでバカやっちゃったというあの雰囲気が微笑ましくて、視聴中笑いを堪えきれなかった。
自分は帰り際、これら映像作品がワンパッケージのソフトになることを望む旨を受付の人に話した。
それくらい面白かった。
受付の方々も、そのことを本当にメモしていたから、もしかしたらDVDか何かにいつかなってくれるかもしれない。
10番 岩崎貴宏「小海の半島の旧家の大海」
続いては10番
三崎町の中でも森腰にある。
11番とは打って変わってこちらはどちらかと言うと静かな展示場であった。
その舞台となっているのが…
こちらの古民家
周りに田畑があり、木にも囲まれていてすんごく長閑なところにある。
何年前に建てられたものか正確な年月は定かではないが、現オーナーさんのおばあちゃんが暮らしていた家だそうで、空き家になってからでももう20年経っていると言っていた。
古民家の前では野菜が売られていた
無人だ。「お代はここへ」と箱だけが置かれている。性善説に立って人間を見ていないとできないことだが、田舎ではよく見かける光景だ。
かぼちゃが美味そうだった。
受付は玄関を入ってすぐだった。そして作品も入ってすぐに目にできた。
部屋が塩で埋もれていた
部屋が塩でいっぱいなのだ
海外から取り寄せた塩を2トン使って部屋に敷き詰めてある。
その上にこの家にあったものや珠洲市で見つけたものを再利用して置いている。
そのイメージは塩の大海
救難筏のようになっている棚もあれば…
沈みゆく巨人のように足元から埋もれている日本人形もいる
ノアの方舟みたいだ
巨大な氷山のようなものもあった
これ、ジオラマを撮っているみたいで面白くて、色んな角度からシャッターを切ってしまっていた。
しかも部屋の中も静かだから、集中力も高まって、いっぱしのカメラマンになったような気さえした。
途中で色温度を変えてみたりもした。大きな望遠レンズがあったら、もっと違った画になっていたんじゃないだろうか。
カメラ小僧心をくすぐられる作品だった。
9番 小山真徳「最涯の漂着神」
三崎エリア最後の紹介は9番だ
こちらは三崎町粟津の方にある。しかも海岸にあり、屋外展示のため時間に関係なく見に来れる作品であった。
それがこちら
クジラと破船を一体化したという構造物だ。
なんでも破船とクジラってともに奥能登の漁村に幸をもたらしていたのだとか。
船首から
ここから撮ると黒い何かがV字型に広がっているのが分かる。
近寄ってみると黒いものはかなり広く伸びている
ちなみにクジラの骨に当たる部分は、流木だろうか、木でできていた。
この黒いのワカメとか海藻だろうか?
そんなことを考えながらさらに近寄ってバシャバシャとシャッターを切っていたら…
人魚像がいた
これは不意打ちだった。
人間、予期していないところから突然人の形が見えるとびっくりするもんだ。
その女神像のような人形像の髪が伸びて砂浜の上をV字に広がっていたのだった。
このように
女神のような人魚像と言ったけど、これだけ髪が長いと絡みつくイメージしかなくて、そうなると海に引きずり込む妖怪とかセイレーンの類にも見えてくる。
モチーフが骨だしね
そういうのに見えてしまうのだ。
改めて近寄ってみる
近寄ってみると、その手にはお賽銭が置かれていた。
こういうのを見ると、やっぱり女神像だなと訂正したくなる。
自分も小銭を一つ置いた
この女神のような人魚像が何の神様かは不明なので作法がわからず、とりあえず二礼二拍手一礼してしまった。
ところでこの像、どこかで見たことあるなと思ったら、芸術祭の鑑賞パスポートの表紙に描かれていた人魚だった。
改めてパスポートを取り出す
やっぱりそうだ。
あとでラポルトすずに戻った時に、インフォメーションにいたお姉さんもパスポートの人魚だということを話していたので間違いない。
それにしても…
いい天気だった
感想
以上、三崎エリアの作品の紹介だ。
山あり海あり、室内あり屋外あり、賑やかだったり静かに落ち着いていたり、こうしてみると3つだけでも多様だった。そしてどれもインパクトがあった。
特に最初の11番で見た「UFO誘致」の短編映画はズルい。
ちなみにその短編映画の中で「みさき小学校」にて踊るようにUFO乞いをしているシーンがあったのだが、その時に映っていた学校の横断幕がずっと気になっていた。
あれは映画用に拵えた横断幕なのか、それとも普段から掲げてある横断幕なのか見てみたくなっていたのだ。
すると、最後の作品番号9番がある粟津の海岸の近くでその学校があった。見つけるや思わず車を停めて撮りに行ってしまっていた。
その横断幕がこちら
「早寝、早起き、朝ごはん」だ。
映画用ではなく普段から掲げてあるようだ。
すごくまっとうなことが書かれてあるのだけど、この前で地元のおばあちゃんたち(勤務地「畑」とかいう愉快なおばあちゃんたち)が阿波踊りのようなUFO乞いをしていたものだから、劇中、ふざけた文句にしか思えなかった。
いや、改めてこうしてみると、やっぱりふざけているように見えてくる… あの短編映画のせいだ…
次回は日置エリアの折戸地区を中心に紹介したいと思う。