初心の趣

カメラ初心者の石川県人が同県を中心に地方の変わった魅力を紹介しています

のと鉄道の怪談列車に乗ったらお化けが何だか可愛かった

七尾駅から穴水駅まで走る第3セクター鉄道「のと鉄道」では毎年夏になると能登怪談列車という酔狂な企画が催されている。

列車で移動しながら怪談を聞けるのだ。

以前より大変興味があったので、このたび予約を取って見に行ってきた。

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七尾駅から出発

能登怪談列車は七月後半から八月にかけての土日(ときどき金曜日もあり)の夜20時から運行する。

区間七尾駅から能登中島駅までで、中島駅まで行くと再び七尾駅へと戻ってくる、予約制の特別便だ。

乗車できる駅は七尾駅からと、隣の和倉温泉駅からだ。

県外から旅行に来て和倉温泉で泊まっている人も参加しやすいように和倉駅からも乗れるようにしているのだろう。そのため、怪談そのものは和倉温泉駅を過ぎてから始まることになる。

話される怪談の本数は行きで1本、戻りで1本の計2本だ。

今年の話は「和右衛門の手」と「列車わらし」であった。

乗車できる人数には限りがあるので、参加するには事前に予約する必要がある。

満員でなければ当日17時まで予約を受け付けている。

自分は日曜日の昼3時頃に電話をかけて、なんとか当日の席を取ることができた。

金曜日や土曜日は前日には予約で満席ということが多いが、日曜日はまだ比較的当日でも取れるチャンスがあるようだ。(もちろん要確認)

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7時45分に七尾駅

受付が改札にて7時45分より始まるので向かった。

写真で言うと「花嫁のれん」で隠れている一番右端の改札だ。

お代もこのときに払うことになる。料金は大人で2500円、小人で2000円だ。

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受付の人が浴衣姿

制服を着た駅員さんではなく、浴衣を着た方だったのでそこが怪談列車の受付だとすぐわかった。

ちなみにその浴衣の方がモデルみたいにスラッとしてカワイイ方だった。

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乗り込むのはこちらの一両(写っているのは自分ではありません)

のと鉄道を走る普通の列車一両が怪談列車となる。

外見は地元の広告がラッピングされた普通の車両だが、中は怪談話にふさわしい装飾がされていた。

 

怪談列車の雰囲気

突然だが、自分はホラー映画を見てもゲラゲラと笑ってしまう人間だ。

中学時代に友人より笑えると教えてもらった映画『13日の金曜日』を見たとき、ジェイソンが殴ってふっ飛ばした人間の頭部が屋根を転がって最後ダストボックスにスポッと入るシーン(友人オススメのシーン)で笑ってしまったことがその始まりだ。

それ以来、ホラーは笑えるものだと頭にインプットされてしまい、怖がるということをほとんどしなくなった。

中学時代に夏休みによくみんなで野田山墓地(前田利家の墓がある)で肝試しをしていたのだけれど、そのときも自分は『13日の金曜日』を薦めてくれた友人とともに一行の殿(しんがり)を任されていた。肝試しが苦手な人からすると、列の一番最後って怖くて嫌なんだとか。そうして、自分とその友人は、肝試し中にこっそり列から抜け出して先回りして他のみんなを驚かせていたものだった。

そんな自分なので、この怪談列車にも怖がりにいくという感覚はほとんどなかった。

列車に実際乗り込んだ時も、何だか楽しくて、ニヤニヤしながらカメラを構えていた。

この怪談列車、車内での撮影はOKだ。(ただしフラッシュだけは控えてほしいとのこと)

ということで車内をバシャバシャと撮影した。

怪談列車の雰囲気を伝えるべく、以下にその写真を並べていきたいと思う。

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窓には御札(板キリコ)

板キリコの他には行燈型の箱キリコも所々に吊るされて、怪しく光っていた。

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こちらが箱キリコ

自分の田舎は能登の方なのでそちらではあまり見かけないが、金沢のお盆では風物詩となっているものだ。

こういった装飾は怪談話にふさわしい。ただ、自分はこの日、田舎に行ってお盆のための墓掃除を昼間にしていたので、怖ろしいという感情よりも「お盆だな」と季節を感じてしまっていた。

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座席には切られた「手」も

ドラクエで言うとマドハンドだ。この状態は言うなれば「罠にハマって動けなくなったマドハンド」だ。

自分は映画『アダムスファミリー』が大好きなので、こういうのを見るとハンドくんを思い出してしまう。

そして触ってしまう。ビニールだろうか、プニプニであった。いい感触だ。

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こちらが今回の語り部のかた

西本浩明さん(演芸列車東西本線)という方だった。

語り部は他に2人いるようで、日によって違うようだ。

緑色のライトを当てながらまず車内の説明をしていた。

暗い車内で撮影をしようとするとどうしても光量が足りないので、この西本さんの緑色のライト目掛けて撮るということが何度もあった。

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七尾駅を発車して数分後に和倉温泉駅に到着

ここで新たに8人ほど乗車してお客の数は計20人くらいになった。

中には県外からやって来ていたカップルもいた。

自分は対面式の4人用の椅子に座っていたので、同じ年ぐらいの男性の方と、小学生くらいの男の子を連れていたお父さんとの相席となった。

自分の隣が男の子だったので、怪談を聴きながらその子が怖がるかどうかも興味深く観察していた。

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西本さん、スピーカーをチェック

車内すべてに声が届くようにスピーカーが置かれていた。

また、同時にラジオを飛ばしているとも言っていた。

そのためハウリングが起こることもしばしばとのこと。特に怪談をしていると、何かを呼び寄せるのかハウリングの頻度も上がるとか。

自分としては、どうせならたくさんハウリングしてほしいと願った次第だ。

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和倉温泉駅を発車すると怪談もスタート

次の駅が「田鶴浜駅」なので、田鶴浜といったら〇〇といった話題から始まり、その土地にまつわる怪談へと語りが流れていった。

田鶴浜と言ったら建具で有名だと西本さんが言っていた。

自分はその日、七尾市中島町にある田舎の墓掃除を現地で合流した家族と済ました後、その家族と昼飯に行き、帰りの田鶴浜で「竹内の味噌まんじゅう」の洋菓子をおごってもらっていたので、この時の自分の頭の中では建具よりも「田鶴浜=味噌まんじゅう」であった。

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そのときの洋菓子こと竹内の「ふっくら」

自分が食べたのはチョコ生クリーム。食べる前に冷凍庫に3時間ほど入れるとクリームが凍ってアイスみたいになる洋菓子だ。買ったものをすぐに食べてもクリームは固まってくれていた。

田鶴浜の怪談を聴きながらこんなことを思い出してしまっていた訳だ。

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話の内容上、演出としてマドハンドを手にする西本さん

先ほど自分が撮影していたマドハンドだった。

こうして手で持っていると、ジョジョ第四部の吉良吉影を思い出す。

サンジェルマンのサンドイッチを食べたくなった。あのお店、どこかに実在していないだろうか。

なお、このマドハンド田鶴浜の怪談が終わった後に、撮影にどうぞと我々お客に手渡されていた。

最初に「どうぞ」と言われたのが、自分の隣りにいた男の子であったのだが、その子は気色悪がってかなり全力で拒否していた。

できればその瞬間を撮りたかった。

 

田鶴浜の怪談が終わる頃には能登中島駅に到着し、そこでトイレ休憩等のためにしばらく停車する。この車両には後方にトイレもあった。

その休憩(列車を動かしていた運転士さんは切り替えで大忙しだったが)再び和倉温泉駅七尾駅へと戻ることになる。

その戻りの際に、怪談をもう一話聞かせてもらえる。

「列車わらし」という話で、クライマックスには語り部の西本さんが車両後方にあるトイレへと叫喚とともに引きずり込まれていた。

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そのトイレから出てきた白い影

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バケモノ登場だ

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降り口がある車両前方へと移動するバケモノ

西本さんがバケモノになってしまった…これから進行はどうするんだろ?

自分はこのバケモノを撮りながら、そんなことを心配し、時に隣に座る男の子の様子を確認していた。(このときはあまり怖がっていなかった)

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自分の心配を他所に西本さん後方より再び登場

いらぬ心配であった。

お客以外では車内には運転士さんと語り部以外いないと思っていたらもう一人いたようだ。

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こちらがその白い影、バケモノこと「わらし」さん

なぜこのような写真を撮れたかというと、西本さんが再登場して怪談を〆た後、どうぞ撮影してくださいと言ってくれたからだ。

その声に真っ先に反応したのが自分であった。

その自分に続いて、他のお客さんもぞろぞろと車両前方に集まり、列をなしていた。

撮っていいのだ。

撮っていいどころか…

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一緒に記念撮影OK

記念撮影をお客さんのスマホでしてあげていたのは語り部の西本さんだった。

しかもノリノリで撮っていた。

光量が足りないとこうして緑色のライトを自ら当てたり、笑顔を促したり、和倉温泉駅で降りる方を優先させたり、その軽妙な対応は手慣れたものであった。

自分の隣りに座っていた男の子も「撮ろう、撮ろう」と興奮気味のお父さんに促されてやはり一緒に記念撮影に臨んでいた。

おかげでなんだろうか、もう怪談を聞いて鳥肌を立たせるという本来の目的から随分かけ離れた、全く性質が逆なイベントのようになっていた。

なにせが、皆さん楽しそうに記念撮影をするのだ。

スマホタブレットで撮影したその写真も、おそらくインスタグラム等のSNSによって発信されるのであろう。

言うなれば、このお化け「わらし」も今流行のインスタ映えSNS映え)するフォトジェニックというわけである。

もっといえば、この怪談列車そのものも、インスタ映えSNS映え)する写真を撮りたくて参加している人がほとんどだったのではないだろうか。

それはつまり、怪談を聞いて怖がりに来たわけではないのである。実際、二話の怪談を聞いて無茶苦茶怖がっている人は自分が見た限りゼロであった。

時代だ… SNSでなんでも発信する今の時代らしい…

自分は、その記念撮影の光景を後方から撮りながらそんなことを考えていた。

でも、自分もこうしてブログで上げているのだ、そのSNS映えを目的にしていた人たちとなんにも変わりはない。

むしろ一等先に動いてバシャバシャと撮影していたのだから、こんな光景を作り出した、つまりは怪談列車を怖がるものではなく楽しむものに変えてしまった一因が自分自身にあることも否めないだろう。

正直なところを言うと、今回怪談列車に乗り、それをブログ記事にまとめるにあたり、怪談列車の演出がバレないように数枚の写真だけを使用した構成にするつもりでいた。

最後の「わらし」の姿を載せるなんてことも、その元々の構成からするとご法度である。

それでも載せてしまったのは、もはや怪談列車は幽霊話で怖がるものではなく、インスタ映えSNS映え)する写真を撮れる酔狂な場なんだと、この記念撮影を見ていて悟ったからだ。

のと鉄道からしても、この酔狂な現場を拡散してもらって、それを見てまたどんどんお客さんが来てくれたほうが良いだろうと、そう考え至ったからである。

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ということで自分は自分で記事用に撮影

なんだかオリエンタルホラー路線のビジュアル系バンドのアルバムの歌詞カードにありそうな写真になってしまった。

七尾駅に着き、明るくなってから撮ると雰囲気がなくなりますよと西本さんは言っていたけれど、これはこれで良いのではなかろうか。

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さらに寄って撮影

このお化け「わらし」は、記念撮影中、一言も喋らなかった。そこは徹底していた。

ほかの乗客の方も口にしていたのだが、そんな無言の「わらし」が次第と可愛く思えてきた。

 

降車後

乗車の受付をしたとき、専用の乗車券と「お守り布」と呼ばれる細いリボンのようなものをもらっていた。

そのお守り布を持っていることによって、乗車中わらしにいたずらされないのだという。そして降車後には七尾駅のホームに設置された「わらしの祠」に結びつけていってほしいとの説明があった。なんでもその「わらしの祠」が今回の怪談列車の評価のアンケートも兼ねているそうなのだ。

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わらしの祠(ほこら)の様子

このように縄が三段走っており、「超怖かった」「怖かった」「楽しかった」のどれかの評価をすることができる。

写真を撮って勝手に楽しんでいた自分はもちろん「楽しかった」にくくりつけた。

これ以外にない。

 

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「わらしの祠」の全体図

こうしてみると一番下の「楽しかった」の縄にお守りが一番くくりつけられているのがわかる。

みなさん、怪談列車は「怖い」よりも「樂しかった」ようだ。

自分はこの結果を目にして、中学時代に目覚めた「ホラーは笑える」という感覚が自分たちだけの狭い感性ではなかったと思えた。意外と仲間がいるようで、勝手に嬉しくなっていた。

 

後日、穴水駅

なお、受付でお守り布と一緒に受け取った乗車券は願掛け札となっており、のと鉄道穴水駅ホームに置かれた「わらし塚」と言うところに投函することで交通安全や願い事成就になるかもしれないと説明書きされてあった。

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こちらがその専用の乗車券

裏には名前と住所を書くところがあるので、それらを記入して投函しておくと抽選で豪華賞品が送られるチャンスもある。

応募の締切は9月末日となっていた。

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いつものことながら、行ってきた

後日、穴水駅にやって来た。

そういう話があるなら行かずにはいられない。

駅のホームへ出てみると駅舎の前にそれらしきものが置かれていた。

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このいかつい鉄の箱が「わらし塚」だ

どう見ても塚には見えず、どちらかと言えば昔の拷問器具や棺を想起させてしまうが、塚だ。

開けようとするとギシギシと軋む音がして、扉もやや重かった。

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中の様子の一部

全部を見せてしまうともったいないので一部を見せる。

納礼箱というものがあったので、そこに名前と住所を書いた乗車券を入れてきた。

当選したら嬉しい。

他に、投函した後に持っていっていいという祈願成就のカードがあった。

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そのカード

これを手にするにはある箱を開けなければならないのだが、開けた瞬間に音がなるのでびっくりする。

カードに描かれたおそらく「列車わらし」と思われる女の子、こちらもなんだかかわいい。

怖さ、ゼロだった。

 

感想

二次元の画「列車わらし」もかわいい、リアルの無言な「わらし」も可愛い、怪談列車は最後に記念撮影会…

ホラーを見ても笑ってしまう自分が言うのもなんだが「怪談って怖いもののはずだったよなぁ?」とまとめながら小首をひねってしまった。

何かが違うようで、しかし現代においてはそれもまた怪談の楽しみ方の一つであると擁護したくもなる。

今回の怪談列車に乗ってみて、時代によって楽しみ方の価値観やマナーが変容していくことを学べた気がする。

中には純粋に怖さを求めていた人もいたかもしれない。それを考えると自分たちのしたこと(怪談を楽しんだこと)に少しは反省もしなければならないだろうが、その変容する時代の波は止められないであろう。わらしの祠のアンケートを見ても新しい価値観やマナーがマジョリティになることもあるのだ。

原理主義に陥らず、変容を見極め認めることもイベント事業には必要なのだろう。

客なのに、まるで主催者側の人間であるかのような感想を最終的に抱いてしまった今回の怪談列車体験であった。

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最後に穴水駅で食べた「能登牛カレーパン」の写真をアップ

以前穴水駅に寄ったときには売り切れで食べれなかったカレーパンを今回ようやく食べた。しかも揚げたて。中に固形の牛肉がいて美味だった。

最後の最後にこういう情報をぶち込むことからもわかるように、客としての自分はかなりマイペースで気ままである。

お客は、周りに迷惑がかからない程度にその人なりに楽しめば良い。(迷惑かけたら即謝る)

いつもそういうふうに考えているからだろうと思われる。

あしからず。