石川県の能登の方には現在「のと鉄道」という第三セクターの鉄道事業者によるローカル列車が走っている。
もともとは旧国鉄管轄だったもので、能登線と呼ばれる路線では穴水から珠洲市の蛸島まで伸びていた。いまでは過疎化や道路の発達によりその能登線が廃止され、七尾駅から穴水駅までの七尾線だけが残っている。
そののと鉄道七尾線の駅の一つ「能登鹿島駅」で4月16日に花見のイベントが行われていたので見に行ってきた。
目的はサクラを撮ることだ。
能登鹿島駅は別名「能登さくら駅」と呼ばれるくらい桜で有名な駅なのだ。
車で向かったが途中からは電車で
穴水町は栓抜き型をした能登半島で言うと引っ掛け口あたりにあり、金沢市から見ると七尾市よりも上の方にある。
自分はいつものように車で向かった。金沢市から80km近く離れているが、のと里山海道を使うと約1時間15分くらいで到着できた。
そして到着してすぐに駐車できないことに気付いた。能登鹿島駅は駐車場がないのだ。来客たちは道路脇に停め、駅の周りで路駐の車がずらっとバリケードを作るように並んでいた。
しかたなく自分は、この駅の二つ前の駅である能登中島駅に一旦戻り、そこの駐車場に車を停めて列車、つまりのと鉄道を使って鹿島駅へ向かうことにした。
運転しながら中島駅の前を通った際に、目ざとく駐車場が空いていたのを確認しておいたのである。
能登中島駅だ
現在こそ合併して七尾市に組み込まれているが、自分の中で中島町といったら鹿島郡のイメージがある。祖父母が住んでいた場所なので、この地には子供の頃よく訪れていた。この駅も、何度か利用したことがある。
駅舎に飾られていたお面
中島町には国指定重要無形民俗文化財の「お熊甲祭」という奇祭がある。このお面は祭りの案内役「猿田彦」をイメージしたもので、実際の祭りでもこんな感じの天狗みたいな神さまのお面を付けた人が太鼓の音に合わせて枠旗や神輿を先導する。
一日フリーきっぷを購入した
最初は能登鹿島までの片道の切符を自販機で買った。すると背後から駅員の方がフリーきっぷの方がお得だからと話しかけてきて、買った切符を返して追加料金を払うことでこのフリーきっぷを購入することになった。
自分が向かう能登鹿島駅までは片道で370円なので、往復で740円だ。本来、切符で買ったほうがオトクなのだが、穴水まで行けるし七尾だって行けるという言葉に負けて、こちらを選んだのだった。
自分としても、電車に乗る事自体がかなり久しぶりであったので、ついでに穴水まで列車で行きたくなったのだ。
フリーきっぷの書面にある「つこうてくだし」は石川県、特に能登の方の方言だ。意味は難しくなく、「使ってください」だ。
この書面でも懇願されて、その懇願に情が働いて負けた気がした。
このあと実際に穴水まで足を運んでいるので、損はしていない。
ホームの駅名板
能登中島駅は別名「演劇ロマン駅」と呼ばれている。
こののと鉄道七尾線では、起点の七尾駅と次の和倉温泉駅以外のすべての駅に別名が与えられている。
中島町には、俳優の仲代達矢さん主宰の俳優養成所「無名塾」と縁のある「能登演劇堂」がある。無名塾では毎年、この能登演劇堂を起点として全国公演を行っているそうだ。
その無名塾との繋がりから「演劇ロマン駅」となっているのだ。
駅のホームからわかるように田舎だ
ホームの露店だ
まんじゅうを見ると、祖父母の家でよく食べたなぁと懐かしくなった。
桜もなかなかキレイ
のと鉄道の駅や線路ではよく桜を目にする。
七尾線は桜の鉄道と誰かが言っていたが、間違ってはないと思う。
そして自分がこれから向かう能登鹿島駅は、こののと鉄道の中でもっとも桜が多い駅なのである。
反対ホームに列車がやって来た
しかもラッピングされた列車だった。
永井豪記念館のラッピングだった
『デビルマン』や『マジンガーZ』などで知られる漫画家の永井豪先生は石川県輪島市出身だ。輪島に行くと永井豪記念館もある。
こののと鉄道七尾線も2001年3月までは輪島まで伸びていた。同年4月より穴水―輪島間が廃止になっているのだが、この永井豪記念館ラッピングの列車はまだ運用されている。
自分としてもこのラッピング列車の存在は知っていたが、こんなに近くで見たのは初めてのことであった。
こちら側にも列車がやってきた
これに乗って、2つ先の駅が目的地の「能登鹿島駅」だ。
自分は何も考えずに乗り込んだ。
そうして一番奥の車両へとすすむと、何だか違和感があった。
こういった額縁がいくつもあるし
イラストレーターのサインもあった
岸田メル氏のイラストとサインだ。
あとで調べて知ったが、金沢の湯涌温泉や、こののと鉄道七尾線の西岸駅もモデルとして使われていたアニメ『花咲くいろは』のキャラクターデザイン(原案)をしていたのが、この岸田メルさんという方だった。
こんなサインも見つけた
これまたあとで調べてみた。どうやら『花咲くいろは』で鶴来民子役を演じた小見川千明さんのものだと思われる。
もうおわかりかと思われるが、この車両、『花咲くいろは』のラッピング車両だったのである。
外から見るとこういうの
※こちらの車両は自分が乗ってきたものではないです。数時間後に駅に到着していた車両です。
改めて言っておく、自分は桜を撮りに能登鹿島駅に列車で向かったのである。
そうであるのに、カメラを首からぶら下げながら列車に乗り込み、そしてその車両内にて声優のサインを撮り、当駅にて桜よりも先にアニメのラッピングを撮っていた自分はまるで『花咲くいろは』のファンであるかのようだった。
自分は普段アニメを見ない人間なのだが… まあ、なんでも良いですけどね。
何にせよ「能登鹿島駅」に到着だ
ちなみに中島駅とこの鹿島駅の間には『花咲くいろは』の舞台の最寄り駅のモデルになった西岸駅がある。
西岸駅に関しては当ブログでも一度取り上げているので、詳しいことは割愛する。
さすがに『花咲くいろは』の聖地とされているだけあって、この日もその西岸駅に何人ものお客さんがいた。
鹿島駅に向かうついでに西岸駅にも寄るという人が多かったのだ。
桜の撮影
さて、桜を撮る
この駅には跨線橋(こせんきょう)がないので、駅舎の方へは線路の上を跨いで行くことになる。この写真はそこから撮っている。
能登鹿島駅では桜の数が他の駅より明らかに多い。
まるで「さくらのトンネル」とはよく言ったものである。
ここに列車がやってくるとますますトンネルのように見えるだろう。
でも「列車が来る=この場所には立てない」(駅員の人が危険だからと通してくれない)ので、なかなかそんな画は撮れない。
そしてまた、この日は人が多かった。
祭りなのでしょうがないが、このようにホームにズラッと並んで、やってくる列車を一斉に撮影したり、乗客に向かって手を振っているのだ。
桜と列車だけを撮ろうとするなら、まずむいていない日だった。
到着した時の車内からの様子はこんな感じだった
改めていう、この日は祭りだったのだ。
人が多くて当然で、このように写真を撮られることも、写真を撮ろうとして人が写ってしまうことも仕方のないことなのである。
人が写り込んでしまうなら、それらも含めて「さくら駅」を撮ってしまえば良い。
こう開き直ると、それはそれで祭りの画として成り立つものだと一人勝手に納得できた。
ということで撮った
これが「花見だよ!in能登さくら駅」のいつもの景色なのだろう。
人があって、はじめて祭りも意味をなすものだ。
調子に乗ってバシャバシャと撮る
ホームから離れて芝の上からも撮る
こうしてみると、自分の技量がないせいで、構成的にはどれも同じような画になってしまっていた。
反省だ。
変化球として駅前のバス停も撮った
駅の敷地の内側も外側もこのように溢れんばかりに桜の木が多い。
のと鉄道七尾線の中でも、この駅が「能登さくら駅」と呼ばれる理由が撮りながらよくわかった。
名付けられた理由も書かれてあった
「桜のトンネル」がその名の由来である。
どこから桜を狙ってもトンネルのように見えるくらい桜の量が多いのだ。
ホームの傍の田んぼ(?)ではこんな光景も
このように水面に散って風によって集まってきた桜の花びらたちを「花筏」(はないかだ)と言うらしい。
さくらは下から撮るものらしい
駅舎の傍では小さな舞台(ステージ)が設けられていて、そこで実行委員の方がマイクを使ってそのようにアナウンスしていた。
桜は通常、下を向いて咲いているため、下から撮るとちょうど花の「顔」を正面に捉えられるそうなのだ。
試してみるとこの一枚が、今回撮った中では自分の中で一番納得のできる一枚に仕上がった。
ステージの様子も撮影
自分がこの駅に到着した頃、ステージではワンマンライブが行われていた。
歌っていたのはこの方
石川県輪島市在住のシンガーソングライター「Masumi」さんという方だった。
さくらにちなんだ歌を歌っていたが、さすがに歌がうまい。
どうしてあんなに音を外さず歌えるのか、素人の自分には羨ましい。
Masumiさんの歌を聞き終えたあと、ステージの傍の屋台にて団子を売っていたので買った。それがまた、普通の花見団子より大きかった。
こちらがその団子
玉の一つが500円玉より大きかった。
写真を撮らせてもらうとき、お店の名前を聞くのを忘れた。ただ、旗には「菜友館」と書かれていた。もしかしたらこれが店名、または会社の名前なのかもしれない。
一つ400円と高めだが、食べごたえはあった。
他には焼き鳥も食した
炭で焼いてて風によっては煙がすごかった。その煙に誘われて買ったようなものだ。
また、その風の強さのお陰で、この日はただ満開の桜を見れただけではなく、花吹雪のように散っていく様も何度も見れた。
そのうち法被(はっぴ)を着た子たちが舞台の方へ
太鼓だろうか?と思っていたら、太鼓だった。
この背中に「長谷部」という名を背負った子たちは「長谷部子供太鼓~龍組~」という団体の奏者たちだ。
長谷部子供太鼓は地元穴水の団体で、石川県ジュニアコンクール5位の実績がある。
自分が到着する前、つまりシンガーソングライター「Masumi」さんが登場する前にも彼ら長谷部子供太鼓の演奏が行われていたらしい。
これからまたステージ上で太鼓の演奏が行われたわけなのだが、このときのメインは彼ら長谷部子供太鼓ではなく、輪島の和太鼓「虎之介」であった。
その「虎之介」の実績がまたすごく、全国ジュニア大会で3回も優勝していた。
虎之介の子どもたちの演奏
久しぶりに和太鼓の演奏をライブで聞いたが、和太鼓のあの連続で発せられる重低音の波動は、こちらの心臓や丹田を揺さぶって骨髄まで響くようだった。
そして演奏している子どもたちがどこまでも笑顔で楽しそうに、かつ最後まで力強くバチを振るものだから、心まで揺さぶられた。
気がつけば、隣にいたお客さんたちと一緒に自分も手拍子を打っていた。
途中でこういうコミカルな演出もある
真ん中のお兄さんの踏ん張りがまた目立っていた
一番長く叩いていたのがこのお兄さんかもしれない。
叩いて叩いて、疲れてきても気合と根性でバチを振る手を緩めていなかった。
それに合わせて周りの子たちもずっと笑顔で叩き続けるそのチームワークの良さに圧倒された。
演奏中に舞い散るサクラがまた乙
風によって舞っていたものの、何だか太鼓の振動によって舞い散っているかのようにも見えてきた。
それくらい活気と熱気があった。
そう感動しているのにラッピング電車に反応してしまった自分
振りかえるだけにしておけばいいのに、つい撮ってしまった。
まるで鉄道写真家かアニメファンのような反応だ。
どちらでもないはずなのに…
最終的には長谷部子供太鼓とコラボ
子供の和太鼓と思って侮ってはいけない。
本当にいい演奏だった。
みんな楽しそうで格好良くて、自分はもう子供じゃないけど自分も和太鼓をやってみたくなったくらいだ。
少年少女たちがうらやましい。
演歌を聞きながら駅を後にする
和太鼓のあとは三輪一雄さんによる歌謡ショーが行われていた。
こちらはそのリハの様子
三輪一雄さんはこの能登鹿島駅がある鳳珠郡穴水町出身の歌手だ。
鹿島駅をイメージした「能登さくら駅」という歌で1990年4月にデビューしている。
毎年、能登さくら駅の花見イベントで歌っているそうだ。
この歌謡ショーはラジオななお「歌の直行便」という番組の収録も兼ねていたので、このように前説とリハーサルが行われていた。
毎年、和太鼓のあとはお客さんがいなくなってしまうものだけど今年はたくさん残ってくれたと自虐も盛り込みながら、歌とトークで会場を盛り上げていた。
肝心の歌は、もちろん上手い。
どこまで自虐ネタなのかそうでないのか、NHKに出られることをいまでも夢見ていると語っていた。
実行委員の方も登場
この方もよく喋る方であった。
そしてこの頃、自分は穴水駅まで行こうと列車に乗りに駅のホームへ向かっていた。
十分サクラも撮れ、祭りも楽しめたのでこの駅を去ることにしたのだ。
ホームで待っているとき、東南アジア系の撮影クルーらしき人たちがいた。
その様子
撮影と言っても、おそらく音楽のPVの撮影だと思われる。
ジージャンにキャップの男性がさくらをバックにクチパクで歌いながらカメラを前に踊るようにポーズを決めていた。
ということは、カメラの前でポーズをとっているキャップの男性はその東南アジアの何処かの国のスターであるのかもしれない。
珍しいものを見れて、こちらとしても思わずシャッターを切っていた。
こういうのも「祭り」の一風景なのだろう。
駅の写真は人があってこそ?
去り際は青めの写真で
色調を変えると寂しさが出るのでは、との狙いだ。
もちろん、まだ祭りは続いていた。それでも去るとなると一抹の寂しさがあったのだ。
ちなみに、穴水駅から能登中島駅まで戻る時にふたたびこの駅を通過したのであるが、ちょうど祭りも終わったあとのことだったので、そのときには写真は撮らなかった。
終わったあとだけにこの駅でお客さんがたくさん乗り込んできてすぐに満員になったので、撮れなかったという方が正しい。
あの混雑は、寂しさとは無縁だったな…
ふたたび中島駅に戻ると、そこでも桜を撮った。
人がいない
祭りであった能登鹿島駅に比べて人がいっさい写らない写真を撮れた。
こうして見比べてみると、「祭り」であるかないかに限らず、駅のホームでサクラを撮るなら、多少なり人が写っている方が駅らしくて良いのではないだろうかと思えた。
誰もいないと、ちょっと殺風景すぎる気がするのだ。
写真の構成というのはやはり難しい。
今回のサクラの撮影でそのことがよくわかった。
ついでに自分は花より団子派だということもよくわかった
こちらは能登中島駅で売られていた「かぼちゃパイ」。
袋の文字は仲代達矢さんが筆を執った書体だそうだ。
パサパサしているのかと思ったらしっとりとしていて美味しかったです。