映画ソムリエを目指す猫

〇〇なときに観たい映画をレビューしており候。

『ひみつの花園』 退屈な生活から抜け出したい時に観たい映画

ひみつの花園

公開:1997年2月15日

上映時間:83分

監督:矢口史靖

脚本:矢口史靖鈴木卓爾

製作:高井英幸、矢内廣

撮影:岸本正広

音楽:矢倉邦晃

編集:米田美保

出演:西田尚美利重剛加藤貴子田中規子、鶴田忍、角替和枝内藤武敏、他

 

あらすじ

子供の頃から三度の飯よりお金が好きで、銀行員になった鈴木咲子は、ある日、銀行強盗人質事件に巻き込まれてしまう。車に押し込まれて樹海に連れて行かれたものの、崖から落ちる運転事故によって犯人たちは死亡、車の爆発とともに川へとふっとばされた咲子は一緒に流されたスーツケースのおかげで一命をとりとめた。退院後、山中の川で沈んだそのスーツケースの中に強盗された5億円が入っていたとわかった咲子はスーツケース回収を計画、樹海に詳しい地質学の教授に会いに多摩川大学へと向かうのだった…

 

レビュー目次 

 

 

低予算の映画

この映画、予算は5000万円だったらしい。

映画の予算としてはかなり低い。

主人公がお金欲しさにとんでもないことをしでかし、やってのけていくストーリーなのに、えらいギャップだ。

おかげで、プロローグの川で流されているシーンでは人形を使ったりミニチュアを使ったりとお金をかけずに作られている。

普通なら命の危機が迫るような撮られ方をするんだろうなぁと思うシーンにミニチュアシーンが挟まれたりするので、サスペンスっぽいようで呆然とさせられる。

いや、西田尚美さん演じる咲子ののんびりマイペースながら強引に他人を巻き込んでいく無自覚な手前勝手さからして呆然モノである。

でもそれら呆然が、不思議なほど爽快で、見ていて心地よい。

こんなぶっ飛んだ作りをした、でもゆる~い映画は、なかなか他にないからである。

矢口史靖監督らしい映画だ。

 

お金を眺めてニヤニヤする神経

それにしても、人間の趣向というものを心得た私のような猫でも、時に理解が及ばない人種もたまにいるものである。

この映画の主人公・咲子の、預金通帳を見ていてニヤニヤしていられる根性がよくわからない。

紙の上に書かれた数字を眺めて悦に浸れるとは、彼女の脳みそはインスタントにできているものである。

それでいて、そのお金で何を買いたい、何をしたいという目的もないのだからさらにわからない。

おまけに目的がないのに、お金のためにならなんでもしようとする、隠れたバイタリティの高さがあるから、尚、わからん。

わからないと思う私は、おそらく彼女のような女と出逢えば、本作の他の主要な登場人物たち同様、彼女の行動に巻き込まれ、振り回されてしまっているのだろう。

 

咲子の行動

彼女のやらかしたことを並べるとこんな感じだ。

樹海の洞窟っぽいところの川に沈んだスーツケースを回収するために、地質学の教授を訊ね、そこにいた助手に大学に入って学べばと冷やかされると、預金を下ろして一人暮らしを始めて、猛勉強して受験に合格して、数百万円する実験装置も自分で買って、泳げもしない登れもしないのにダイビングにロッククライムも習っている。

お金が底を尽きると学生をやめてキャバクラで働いてもいる。

お金のために水泳大会にでたら優勝してしまったり、ロッククライミングの大会で優勝したりする奇跡のような出来事も起こしている。

また、地質調査の道具をボロアパートに置いておいたせいでアパートの床を抜けさせて弁償を求められると、親の通帳にまで手を付けようとして、それも失敗すると銀行強盗まで企てるというぶっ飛んだ行動まで起こしている。

これらはすべて、お金のためだ。

動機が不純で、そして無茶苦茶だ。

 

動機が不純でも無茶苦茶でも何故か惹かれる

こう無茶苦茶なのに、それでも観ていると、目的もなく惰眠を貪るような生活をしている人間よりも、彼女のほうが遥かに人として充実しているように思えてくるから不思議なものである。

そう思えるのは、どこかで彼女を肯定してしまっているからであろう。

その肯定はまた、この咲子というキャラクターに私自身なんだかんだと惹かれてしまっているからであろう。

実際にこんな女がいたら振り回されるであろうとわかっていながら惹かれているというのも、何だか自分がマゾ体質であると白状しているかのようであるが、そう惹かれてしまうのだから仕方がない。

悪のカリスマ的魅力が、彼女にはあるのである。

そしてそれを彼女自身がほとんど無自覚にやってのけるから滑稽で愉快である。

ここまでナチュラルに自分の欲望、いや、彼女の場合はお金はほとんど趣味みたいなものかもしれない、その趣味のために自身のエネルギーや人生を注ぎ込めることに、憧れてしまうのである。

おそらく、それまで退屈な生活を送っている者ほどそう感じるであろう。

たしかに地味にとんでもないことに巻き込まれるけれど、退屈な毎日から一瞬でも抜け出せるなら、この人に巻き込まれても良いかもしれない、そう思えてくるのである。 

 

巻き込まれたことで今度は自分が

よくよく考えると、彼女もまた最初は巻き込まれた人間である。

金持ちでも貧乏でもない中流階級の娘として育ち、特にやりたいこともなく、お金が好きだからと銀行に勤めたものの、他人のお金をいくら数えても虚しいだけだと思っていた地味な女である。

それが強盗人質事件に巻き込まれて、それがきっかけで、今度はいろんな人を巻き込む側になっているのだ。

彼女のような女に巻き込まれることで、今度は自分が他人を巻き込むくらいに充実した人生を送れそうな気になるのである。

 

退屈な生活から抜け出せる、秘密の花園のような甘美な想像を与えてくれる映画である。