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映画ソムリエを目指す猫

〇〇なときに観たい映画をレビューしており候。

『THE 有頂天ホテル』 仕事が忙しくて大変というときに観たい映画

THE 有頂天ホテル

公開:2006年1月14日

上映時間:136分

監督:三谷幸喜

製作:亀山千広、島谷能成

脚本:三谷幸喜

撮影:山本英夫

編集:上野聡一

音楽:本間勇輔

出演:役所広司松たか子香取慎吾佐藤浩市篠原涼子石井正則戸田恵子生瀬勝久角野卓造原田美枝子唐沢寿明津川雅彦伊東四朗西田敏行川平慈英堀内敬子オダギリジョー麻生久美子、YOU、寺島進、他

 

あらすじ

大晦日、「ホテル・アバンティ」では毎年恒例のカウントダウンパーティーを控えていた。ホテルにはいろんな客、色んな関係者が顔を出すもので、パーティが始まる2時間前だというのにあっちでもそっちでも小さなトラブル、小さな事件が起きて、ホテルマンたちはずっと忙しい。副支配人の「新堂平吉」を筆頭に各々いろんな出来事に振り回されながら、最悪の大晦日を過ごすことになるが…

 

レビュー目次

 

ホテル内にはいろんな業務がある

この作品はタイトルにも書かれてあるようにホテル業の話である。

ホテル業界に憧れを抱いているもの、興味を抱いている就職活動前の学生などが見れば、業界の人間がどのような仕事をしているのか知ることが出来て、少なからず進路選択の一助となるであろう。

ホテルと言えばベルボーイやフロント、支配人くらいの印象しかない者も多いかもしれないが、ホテルの中には多種多様な業務があるもので、この『有頂天ホテル』でもいろんな部署の人間が登場する。

ベルボーイはもちろん、客室係コンシェルジュ調達課の人たちやキッチン内のコックの姿、はたまた筆耕係(筆で字を書く人)や、これはフィクションだろうが探偵まで見受けられる。

さらにホテルに訪れるお客たちも個性的で、政治家もいれば授賞式に訪れた鹿の交配の先生、ホテルの前で事故にあった大富豪などもいて、そのどれもが大人しくない。

おまけにパーティー用に呼ばれた芸人や歌手たちもみな個性が強く、小さなトラブルを起こしては、ホテルマンたちをかき回してしまっている。

このトラブル続きの様子はさすがコメディだが、実際のホテルでも、特にイベントが多い12月ではバックヤードは忙しさでまるで戦場だ。ホテル業界はけっしてジェントルな業界ではないのである。

何にせよ、三谷幸喜監督の業界の一面のみ、または綺麗事だけを見せないという姿勢は、この猫の目には好印象である。

こと映画に関しては人間ばかりが主役に取り上げられて、我々猫のようなたまに登場しても家財の一部のようにしか映されない肩身の狭い身分からすると、日陰にいる者たちにスポットライトをあててくれることに敬意を評したくなることもある。

 

登場する人たちそれぞれにドラマがある群像劇

しかもこれはホテル内に起きた群像劇だから、中心となって動く副支配人に限らず、客室係にもベルボーイにも、またお客たちやパーティのために呼ばれた芸人たちにもそれぞれにドラマがあり、この猫の目には羨ましい限りであった。

よくよく考えてみると、登場人物たちの身の上は決して幸福でもない。それぞれ何かしら欠点がある。

ホテル内で一番ジェントルである副支配人にいたっても、元劇団関係者で離婚歴があり、その離婚した元妻が鹿の交配の先生の嫁として来客すると、見栄を張って「今日は授賞式で呼ばれている」と嘘までついている。

かといって鹿の先生が善人であるかと言えばそうでもなく、ホテルにやってくるコールガールと愛人関係であって、過去に恥ずかしい姿を携帯電話で撮られている。

歌手になる夢を諦めてこの日で退職して田舎に帰ろうとしていたベルボーイにしても演歌歌手の大物に「プロになるな」と冷酷に言われている。

その演歌歌手も自殺したがっていたり記者たちに邪魔者扱いされたり、一方で記者たちが追いかける、汚職疑惑の掛かった政治家はベルボーイの歌に感動してしまっている。

この政治家にしても逃げずに記者会見を開くと言いながら、最終的には逃げ出して、それをホテルの面々が手助けするというドタバタな展開をむかえているのである。

そしてさらに言えば、この政治家とホテルで客室係をしている女とは元愛人関係で子供までいるという設定であるし、その客室係も事故してやって来た大富豪の愛人問題に巻き込まれるし、その富豪の本当の愛人が実はベルボーイの同郷の娘であったり、またまた一方で総支配人芸人(マジシャン)の白粉(おしろい)を勝手に使ってしまって白い顔で変人扱いされるし、いつの間にか白粉を使われてマジシャンはキレるし、芸人たちの社長新人熟女歌手をクビにすると言えば、マジシャンたちは勝手に歌わせることを計画したりするし…

とまあ、まるでそれぞれが主人公であるようで、それぞれのエピソードが巧みにときに奇想天外に絡んで最後のカウントダウンパーティーへとなだれ込んでいくのだから、上映時間136分があっという間に過ぎていく。

 

濃厚

かのイングランドの戯曲家・シェイクスピアが、「戯曲の基本同じ舞台(ホテル内ならホテル内のみ。別の場所に舞台が飛ばない)、劇中で流れる時間にしても数時間程度(翌日、数日後といった展開にはしない)」と言ったとか言わないとか言われているが、年末カウントダウンパーティーが始まるまでのホテル内の2時間の間を描いたこの映画はその基本に合致しよう。

そのたった2時間で、ホテル業界で働く人たちの慌ただしさを詰め込んでいるこの映画は、我々猫が誕生日くらいにしか頂けないとろみ仕立てのまぐろフレークより濃厚である。

 

仕事が忙しくて大変というときにこそ観たい

この映画はホテル業界に憧れる若人たちへ、その業界の裏側の慌ただしさを知る意味でも薦めたい映画である。

本当のホテル内の現場は怒号も飛び交うもっと苛烈で忙しい精神的にも肉体的にもダメージのある所であるが、その苛烈さや忙しさも少しだけ見方を変えると一種のコメディのようであると、この映画は気付かさせてくれる。

そう気付ければ、なんと気持ちがラクになることか。

そしてそれは何もホテル業界に限らず、劇中ホテルにやってくる様々なお客が魅せるように、どんな仕事に対しても言えることであろう。

自分の今の仕事が何かと忙しく大変だと思っているとき、大変すぎて気持ちが滅入っているとき、そういうときにこそ観たい映画である。(暇を作らなければならんが)

まあ、年中家にいて退屈しきりの猫に言わせれば、忙しいということは仕事があるということで、仕事があるだけ幸福ですな。

 

追記

なお、猫の私にも人間の知り合いがいるもので、その知己のまた知人が言うには、この映画はホテルで働くいろんな部署の人を登場させてくれているが、「スチュワード課」と呼ばれる皿を管理する部署が登場していなかったことが唯一残念であると仰っていたそうな。

ホテル内で働いていたその知人曰く、ホテル内の皿洗いの現場も戦場のようになるらしい。

どんな職業でもドラマがありそうですな。

  

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